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文献名1冬籠
文献名2〔五〕並松雑話よみ(新仮名遣い)
文献名3(八)よみ(新仮名遣い)
著者浅野和三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2025-01-24 22:22:00
ページ231 目次メモ
OBC B142500c61
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本文  自分は大分一身一家の内輪噺しを披露して了つた。まだまだ行れぱ際限もないが、この種の噺は兎角自慢噺のやうになり勝ちで、片腹痛く聴ゆるものであるから、一と先づこの辺で切りあげて置くこととして、ただ爰にトムの話だけ書いて置きたく思ふ。矢張りこれも霊魂問題に関係がある。
 トムは飼犬の名前だ。大正三年頃横須賀で、高山といふ陸軍の将校の家から貰つて来たのであつた。生れて僅か十日許の時から育てた丈あつて、非常によく家族のものに馴れ、就中子供達とは殆ど離るべからざる間柄であつた。黒い毛並に少々赤が混り、体は小柄で余り良い縹致ではないが、しかし何処となく穏かな、可愛らしい個所のある狗であつた。
 トムの風采を二段も三段も低げたのは、尾の無いことであつた。これは高山家で生後直に剪み取つたのださうで、何故に其麼残酷なことをしたのかよく判らぬが、其親狗も矢張り尾は切り取られてあつた。兎に角有るべき所に有るべき物が不足して居るのであるから、何んだか前後の釣合が悪く、背後から見た姿などは、何処となく物足りない趣があつて、痛しくも亦滑稽に感じられた。
 他人から見れば下らぬ小狗としか見えなかつたであらうが、自分達から見れば、これでも立派に家族の一員であつた。トムが眼を煩つた時などは、随分心配して医療に手を尽したものであつた。無論ある程度まで人語を解し、又ある程度まで主人の胸中を察し、褒めてやれば歓んで、有るか無いかの短い尾を打ち振り、又叱つてやればチリチリに縮みあがつて垂首れる。世話も焼けた代りに、何れ丈一家を賑して呉たか知れなかつた。
 横須賀から綾部へ引移る時には、自分達は之を伴ふことを忘れなかつた。無論トムは木箱に入れられて、荷物扱ひを受けたのであるが、大船や京都で乗替への際に、箱の中から自分達の姿を蔑視して、心細さうに悲鳴を上げて居たのは、全く可哀相でならなかつた。生れて初めて異様の取扱ひを受けて、余程心配をしたものらしく、菓子などを入れてやつても決して食はうとはしなかつた。
 併しいよいよ綾部へ着いて、箱から出された時の歓び勇んだ様子は又格別であつた。そして子供達と一所に、俥の先に立つて、スタスタ跳んで行つた様子は、今も尚ほ自分の眼底に残つて居る。
 自分達が並松に住み慣ると同様に、トムも亦往み慣れ、自分達が土地の人々とかけ離れた生活をして居るに反して、トムは近所の犬どもと相当に親密な交際を結んで居た。トムの綾部生活は可なり自由な、愉快な生活であつたらしいが、しかし余り永くは続かなかつた。大正七年の春になつて突然その姿を見失つて了つた。
 横須賀に居た時分にも、一度トムは自分の後について佐野の大明寺付近に行き、その際道を失つて二日ほど帰らぬことがあつた。今度も亦其麼ことであらうと、多寡をくくつて居たが、三日経ちても五日経ちても什麼しても帰らない。自分達の不安の念は次第々々に加はつた。
『猟師か何ぞに盗られたのかも知れない』
『鶏なぞを追ふ癖があつたから、事によると撲ち殺されたのかも知れませんネ』
 親達よりも子供達の心配の方が一層猛烈であつた。そしてトムらしい犬を見掛けたといふ風評をたよりに、山家、その他近郷近在を尋ね回つたが、何れも皆当が外れた。十日ばかり経つ中に懸念はたうとう絶望と化して行つた。
『モウ到底帰つて来ませんネ。什麼したのでせう、可哀相に……』
 などと、しばしば歎声を漏すのみであつた。
 トムの行方は現実としては終に今日まで不明であるが、しかし霊的には其死が明白になつた。約十二三日過ぎた夜の事であつた。妻は夢にありありとトムの霊魂を見た。脇腹から後脚部にかけて酷く負傷し、一本の脚などはフラフラになつて居るにも係らず、いかにも懐かしげに跳びついて来た、却々離れやうとしなかつたさうだ。
『お前はまア大変な怪我をして……』
 労はる自分の声に夢は破れたが、しかし其痛しき霊魂の姿は、分明と眼底に刻まれて残つた。そして妻は其庇の模様から、トムは多分汽車に触れて死んだものと直覚したのであつた。
『一同が心配して居るので、畜生ながらも自分の死んだことを知らせに来たのでせうか』
『無論さうだらう』
 それから後も自分達は時々トムの風評をやる。誠に簡単な一場の小話ではあるが、然し人と動物、肉体と霊魂との関係の如きは此一小実話にも暗示されて居ると思ふ。
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