文献名1出口王仁三郎著作集 第3巻 愛と美といのち
文献名2如是我観 >現代の世相よみ(新仮名遣い)
文献名3悪魔の世界よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
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ページ344
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われかつて、ある夜、霊界に誘われて幻怪なる夢魔の世界に入つた。そのとき自分は無劫の寂寥と恐怖におそわれた。右も左も真の闇で、面前も背後も咫尺を弁ぜざるはかりの暗黒裡に落ちこんだ。そしてなんとなく寒さを感じ、戦慄やまずして非常におそろしい。頭のてつぺんから脚の爪先まで、わが神経は針のようにとがつている。
闇のなかから黒い翼をひろげて、黙々として迫りくるすさまじいものの息を感ずる。たしかに何物かが迫つてくる。地震、雷、火事、親爺よりも、海嘯よりも、噴火よりもおそろしい怪物が、虚空を圧し大地を踏みにじつて、今にもわが心身に迫り来るかのごとくに思われて、大蛇ににらまれた蛙、猫に魅入られた鼠のように、自分の身体はびくともできない。
果然まつさおな剣のごとき光が、闇をつんざいてわが目を射貫いた。その光はしだいにめらめらと周囲に燃えひろがつて、八方に飛びちらばつて狂いはじめた。さながら光の乱舞、火焔の活動で、なんとも形容のできないいやらしさであつた。そしてこのものすごい火焔の海に、あおじろい横目のつつた鬼と赤黒い巌のような鬼とが、灰紫に煮えくりかえる泥のなかにからみ合い、もつれ合つている。
やがてその鬼が一つになつて、ふりまわされる火縄のように、火焔の螺旋をえがきつつ、幾千台の飛行機が低空飛行をやつているような、巨大な音を轟かせながら天上目がけて昇つてゆく。その幻怪さ、じつに奇観であつた。真つ暗の空はたちまちその邪鬼を呑んでしまつたが、やがて大きな真つ赤な口を開けて、美しい金色の星を吐きだした。
一つ二つ三つ四つ五つと、百千位と、刻々数を増す。金色の星は降るは降るは、はじめは霰のように、雨のように、はては大飛瀑のように降つてくる。しかしその星瀑の流るる大地はと見れば、白いとも白い。凝視すると一面の白骨で、自分もすでに白骨を踏んでいる。どちらを向いても、髑髏の山、散乱したる手や足の骨からはあおじろい焔が燃えに燃えて、なんともいえぬ臭気がふんぶんとして鼻をつくのであつた。
自分はこんな幻怪なる世界から一刻もはやく脱れいでんと、一生懸命に走りだした。足首がちぎれるはかりに突つ走つた。しかしいくら駆けても白骨の昿野は際限がなく、疲れきつて思わず打ち倒れたが、たちまち深い深い渓河へまつさかさまに落ちこんだ。河水はことごとく腥い血であつた。自分はさかまく血の波に翻弄されつつ、河下へ河下へと流されて正気をうしなつてしまつた。
その瞬間なにものかに、したたかに五体をなぐりつけられてわれにかえつたが、雲つくばかりの一大摩天楼が頭上にそびえたつておるのであつた。そして自分はその門柱に衝突したとたんに助かつたような心もちになつた。自分はおぼえずその楼へとびこんで、やにわに玄関へ駆けあがつた。するとまぶしいばかりの電灯、いな神の大灯が、恐怖にとざされていた自分の魂の渓間を、皎々として照らしておるのであつた。
(「瑞祥新聞」 昭和4年7月1日)