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文献名1大本七十年史 上巻
文献名2第1編 >第7章 >1 会長の教説よみ(新仮名遣い)
文献名3悪の世批判よみ(新仮名遣い)
著者大本七十年史編纂会・編集
概要
備考
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ページ269 目次メモ
OBC B195401c1713
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本文  つぎに、会長の現実社会にたいする態度はどうであったか。そのことをみておこう。『本教創世記』にのべている社会観の片鱗は、筆先に示されたものと、解釈のしかたによっては矛盾するごとくうけとられるものがあった。そこにも、役員らと争いがおこってくる一因があった。
 会長は『本教創世記』において、「今や世界の文明は日に月に進歩する一方にある。所謂物質的文明の壮年時代」であり、「理学上の発明」や「文明の利益」が急速に発展し、それにともなって衣食住がますます豊かになり、学術や「科学的智育」も発達してきているが、それとは反対に、「精神的文明」は日に日におとろえている。そのことを憂えて、「総て精神的神教的文明の相伴はざる物質的文明は、最も恐怖戦慄すべきもの」とする。会長は、衰亡しつつある精神文明を神教宣布によって復活させ、世界を救うのが自分の使命であるというのである。このように会長は、現代社会における物質文明の跛行を指摘して、それが筆先にいう悪の世であり、暗がりの世であるとみる。その立場から当時の社会を批判しているのである。しかも、物質文明の社会をささえているものは「強いものがち、我よし」の自由競争であり、弱肉強食の精神である。だから精神文明を強調し宣布することは、人間の利己心を抑制した共存の社会をめざすことになる。
 惟神の大道である神教は、本来、そのような社会を実現するものであったが、人々が、仏教や儒教や、西欧の物質文明をうけ入れたために、ついに物質的利己主義の社会となったというのである。
 『筆のしづく』によれば、「此世は運不運のある見苦しき社会で、一方の者は金の利息で衣食し、田畑の上り物で安楽に衣食し、株式で衣食し、家賃で衣食し、租税で衣食し、栄誉栄華でやり放題、世間かまわず天下太平を謳ふて、こんな結構な世はないというて居るなり。又一方の貧者は暗がりまで、汗、油を絞りて、わずかに露命をつないでおるなり」と指摘する。なるほど、物質文明は発展したが、「汽車汽船電車は出来ても、貧者のためには仕事がなくなるばかりで乗るということはできず」、「学校はたくさんありても貧者にはなきも同然」であって、「医者はありても貧者の手を握る医者はなく」、「陸軍、海軍はよく人殺しをけいこして世界の人民を屠り殺すといえども、人を安楽に生きさす道具ではない」、「財産のない者は一口も政治に口を入れる」ことができない。だから「今の上に立ちて居る人民は刃物持たずの人殺しである」とする。こうして会長のきびしい近代への批判は、資本家・地主という当時の支配階級に向けられてゆく。
 また、苛酷な租税の問題をとりあげて「町役場の掲示には皆処分の張紙でうず高くなって居る」し、「皆金持、地主の倉の中に食われて、肝心のこしらえた人民は、裸で寒空の中にこごえたり飢えたり」していると批判し、さらに「地主資本家なるものは何の徳あり、何の権利があり、何の必要があってこの世にはばらしておかんならんものであろうか。この盗人を保護するために法律をこしらへ、たっぴつに官吏を養ふておかねばならぬのであろうか」というのである。筆先にはすでに、こうした政治的権力のあり方をいましめられていたのであるが、会長もまた、その点をより具体的についている。
 会長も、筆先にみられる「世界を枡かけ引きならす」ことを主張し、「世界の物は天地の物であるから、世界中の総持ち」にしなければならぬ(『筆のしづく』)といっている。この教説は筆先と合致する。けれども、「外国のやりかた」についての筆先と会長の教説にはくいちがいがあったために、開祖の筆先を絶対とした役員・信者には会長の教説はなかなか理解することができなかった。この当時の役員・信者には、あまり知識層に属する人々はいなかった。素朴な人々が多く、交通・文化も開けていなかった綾部の地方では、社会の事情や国際的な知識については、ほとんどわからなかったのである。会長は、このことをなげいて「人民はなき昔のくせを忘れず、われの便利ばかりをはかりかんがえて、一令のくだるごとに、たちまちやかましく上をそしり、ただその害あることをといて、その国の利益をとなへず、さとらず」と批判している。
 会長は、明治維新以来の諸改革を批判して、封建を廃して郡県とし、学校をおこし、官職の制度を樹立し、兵制や法律を定め、民権をひとしくして物産をおこし、その他租税制度・貨幣・衣服・器械・学問などが一新されたのは、すべて日本の国威を輝かすに必要な方法であったとしている。そこで『道の大本』の写本には「曰く、財産家は天下の罪人なり、曰く、漢字は国害なり、学校は害物なり、商工業は小にせよ、外国人を排斥せよ、服は和服にせよ……桑を造るな、蚕を飼ふな」などというのは「生成化育の神意」に反するものとたしなめた。
 また会長は、実業の問題について『道の大本』のなかで、つぎのような興味ある主張をしている。会長は日露戦争の勝利をたたえたのち「此時に当りて農工商の実業に従事するもの、あにこの好機を看過して可ならんや」とのべ、「戦争の後には平和の戦争あり、この平和の戦争を為すべきものは実業家なり、故にわが実業家たるものは、宜しく世界と戦ふの勇気と胆力と知識となかるべからず」と主張し、「実業の賑ふと賑はざるとは、実に国家の興廃に係るものなり」として、地主や資本家の「われよし」にたいしてはきびしい批判をしながらも、実業の振興に関しては、国家主義的な立場から奨励するのである。
 会長からみれば、太陽が上らない日がやってくるとか、死者が生きかえるときがくるとか、いつ天災がおこるかという、抽象的文字通りの予言を信じている迷信家のあつまりに、思いあまっての反論であったであろうが、役員たちからは、筆先を信じない会長は、異端・瀆神者であるとみられたのである。

〔写真〕
○苛酷な税負担に民衆はくるしめられた p271
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