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文献名1大本七十年史 下巻
文献名2第6編 >第2章 >4 弾圧の嵐よみ(新仮名遣い)
文献名3宗教への弾圧よみ(新仮名遣い)
著者大本七十年史編纂会・編集
概要
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ページ485 目次メモ
OBC B195402c6246
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本文  大本の大検挙がはじまって間もない一九三五(昭和一○)年の一二月一六日には、天理教の脱税事件が起こったが、昭和一一年に入ってからは二月一三日天津教(教主竹内巨麿)の不敬事件、三月二二日には元大本信者の矢野祐太郎が主宰する神政竜神会、また八月二六日には元皇后宮職女官長島津はるが神政竜神会の熱心な信者であったため帝都の邪教事件として、ともに不敬事件で検挙され、九月二八日にはひとのみち教団(教祖御木徳一)が検挙された。
 当局では一九三六(昭和一一)年二月ころから宗教警察に関する事務を特高課(内務省では警保局保安課)に移管し、全国的に事務系統の整備統一をはかり、宗教活動にたいする視察取締を厳にするとともに、諸宗教の教義所説を思想警察的観点から再検討しはじめていた。この年の六月にひらかれた全国警察部長会議では「邪教取締」が指示されている。ついで九月の全国特高外事警察・課長会議でもかさねて「邪教取締」が指示されるとともに、「邪教取締に関する具体的方策如何」を諮問し、萱場警保局長は「甚しきに至っては神話に托して荒唐無稽の言を放ち、国史古典の紛更を試み、往々にして皇室の尊厳を冒涜し奉るが如き不逞のものすら見るの状況でありまして、寔に憂慮に堪へ」ないと訓辞した。こうした内務当局の動きと関連して、七月には光行検事総長が「淫祠邪教の撲滅を強化」するよう各地方検事局に指令した。
 内務省警保局の古賀強は「あらゆる宗教というものを再検討しなきゃならないじゃないかという気持になった。それで当時の保安課長、局長まで進言して宗教係が出来、初代の主任が私になったわけです。大本事件で宗教係ができたのです。我々が信奉している日本の国体の本義は神社神道に端を発している。この神社神道に対抗してゆく諸宗教は、みんな治安維持法違反をひきおこしてゆく可能性をもっている」(「古賀談話」)と当時を回想しているが、第二次大本事件以来、宗教への重圧は従前とは比較にならぬほどましてきたのである。
 ところで、治安当局は、宗教警察の体制の整備をはかり、「邪教取締」を指示する一方、宗教弾圧の理論的な裹づけをいそいでいた。そして第二次大本事件を担当した内務事務官永野若松は昭和一一年六月「警察協会雑誌」に「宗教警察に就て」と題する論文を発表した。それには「卒直に云へば、宗教に対する過去の警察取締は僅かに一部情報の蒐集と顕著なる犯罪事件の検挙を為すに尽きたるの観があり、公認宗教に対しては勿論、一般類似宗教に対しても謂はば自由放任の態度を取つてゐるものの如くあつたのではあるまいか。尠くも宗教警察は警察の諸領域に於て最も閑却された分野であった」とのべ、「宗教警察の基調」は「帝国憲法に信教自由の範囲を『安寧秩序を妨げず、及臣民の義務に背かざる』処に認めたのも、畢竟反国家的・反社会的宗教の存在を否定したものであると解する事が出来やう。宗教警察の根本指標は正に宗教の此の反国家性・反社会性の予防鎮圧に存すべく」、当面の目標は「国体の擁護と不敬思想の撲滅」にあると強調されている。そして宗教警祭の対象となるものは「個々の宗教の具体的行動に依つて決すべきであつて、文教的見地からする公認のものたると否とは、之を問ふの必要なきことは、敢て多言を要せざる処」であり、いわゆる公認宗教たると類似宗教たるとをとわず、宗教全般におよぶとみなした。
 また大本事件を担当した京都地方裁判所検事局の三木晴信検事は、七月一日から二ヵ月間にわたってひらかれた司法研究会で、「宗教類似教団に随伴する犯罪型態の考察」を報告した。それによると、「淫祠又は邪教の刻印を押される場合の動機、基準」を五種に分類し、「国法的標準」として「教義並実践する処に於て不敬、国体変革」をあげ、さらに「政治上の標準」として「邪教の刻印を押す最後的決定権を有するものは政治的勢力である。宗教の教理が、時の支配権力や、国家組織と相容れない場合、又は当局の忌避に触れるが如き内容をもつときは邪教とせらる」とのべ、その結論として、「宗教教団に対する取締方策」にまで言及している。その方策としては、文部省と内務省に分立している取締機関の統一をはかること、教義・教規の検討、宗教行為の査察内偵、奉斎神およびその付属諸施設の取締り、外郭団体に対する査察、退教者を通しての教団裏面の内偵、研究機関を設置することなど、きわめて広範囲にわたっており、最後に、統一的な取締法規の制定の必要性をあげた。これらは治安当局としての宗教取締りの方向をしめしたものであり、それがその後の基本方針となるが、いずれも第二次大本事件の結果案出されたものであることに注目したい。こうした治安当局の強硬な宗教対策に対応して、文部当局も年来の宗教団体法の実現をめざして審議の強行をはかろうとした。第二次大本事件の直後、一九三五(昭和一〇)年の一二月一〇日には、宗教制度調査委員会が初の総会をひらいて大本検挙問題について審議し、翌一一日に第二回総会、一二日には第一回の特別委員会をひらいて、宗教結社取締規定の強化を審議し、宗教団体法の効力が強調された。公認宗教の保護を名目とする文部当局のこうした動きも、結局のところ宗教への圧力を加重することになった。
 第二次大本事件をきっかけとして、宗教にたいする重圧は従来と比較にならぬほどおおきなものになった。教義内容そのものが当局のいう「政治上の標準」から問題とされ、治安維持法の対象とされた点において、宗教政策も大きな変化をみせるようになる。それは単なる宗教取締りではなく国家権力による宗教への徹底的弾圧を意味し、第二次大本事件の余波はひとり大本における弾圧にとどまらず、昭和史における宗教弾圧に暗黒の谷間を用意してゆくのである。

〔写真〕
○大本事件は特高警察に転機をもたらし宗教警察が整備強化された かくて宗教と権力の相剋が本格化していった p487
○ちり一つのこさず征伐すると豪語した当局の意図はたっせられたかにみえたが…… ①大祥殿跡②瑞声閣跡③天声社跡④光照殿跡⑤月宮殿跡⑥春陽亭跡⑦安生館跡 亀岡天恩郷  ①黄金閣 教祖殿跡②教主殿 祖霊社跡③神光社跡④金龍海跡⑤五六七殿跡⑥本宮山 綾部 p488-489
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