文献名1三鏡
文献名2月鏡よみ(新仮名遣い)
文献名3悪魔の世界よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ
データ凡例
データ最終更新日----
神の国掲載号1929(昭和4)年06月号
八幡書店版104頁
愛善世界社版
著作集
第五版81頁
第三版81頁
全集505頁
初版61頁
OBC kg298
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本文の文字数1188
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本文
吾嘗て霊界に或夜誘はれて、幻怪なる夢魔の世界に入つた。その時自分は無劫の寂寥と恐怖に襲はれた。右も左も真の闇で、面前も背後も咫尺を弁ぜざる斗りの暗黒裡に落ち込んだ。そして何んとなく寒さを感じ、戦慄止まずして非常に怖ろしい、頭の頂辺から脚の爪先まで吾神経は、針の如うに尖つてゐる。闇の中から黒い翼を拡げて、黙々として迫り来る凄まじい物の息を感ずる。慥に何物かが迫つて来る、地震、雷、火事、親爺よりも海嘯よりも、噴火よりも恐ろしい怪物が、虚空を圧し、大地を踏み躙つて、今にも吾身心に迫り来るかの如くに思はれて、大蛇に睨まれた蛙、猫に魅入られた鼠の如うに、自分の身体は微動とも出来ない。果然真蒼な剣の如き光が闇を劈いて、吾目を射貫した。其光は次第にメラメラと周囲に燃え拡がり、八方に飛び散らかつて、狂ひ初めた。さながら光の乱舞、火焔の活動で、何とも形容の出来ない厭らしさであつた。そして此の物凄い火焔の海に、蒼白い横目の釣つた鬼と、赤黒い巌の如うな鬼とが、灰紫に煮えくりかへる泥の中に絡み合ひ、縺れ合つてゐる。やがて其の鬼が一つになつて、振り廻される火縄の様に、火焔の螺旋を描きつつ、幾千台の飛行機が低空飛行をやつてゐるやうな、巨大な音を轟かせながら、天上めがけて昇つて行く、その幻怪さ、実に奇観であつた。真暗の空は、忽ちその邪鬼を呑んで了つたが、やがて大きな真赤な口を開けて、美しい金色の星を吐き出した。一つ二つ三つ五つと、百千億と刻々数を増す、金色の星は降るわ降るわ、始めは霰のやうに、雨の如うに、果ては大飛瀑のやうに降つて来る。しかし其の星瀑の流るる大地はと見れば、白いとも白い、凝視すると一面の白骨で、自分も既に白骨を踏んで居る。何方向いても髑髏の山、散乱したる手や足の骨からは、蒼白い焔がめらめらと、燃えに燃えて何とも云へぬ臭気が、芬々として鼻を衝くのであつた。
自分は斯んな幻怪なる世界から一刻も早く脱れ出でんと、一生懸命に走り出した。足首が千切れる斗りに突走つた、併し幾ら駈けても白骨の広野は際限が無く、疲れ切つて思はず打倒れたが、忽ち深い深い渓河へ真逆様に落ち込んだ。河水は悉く腥い血であつた。自分は逆巻く血の波に翻弄されつつ、河下へ河下へと流されて、正気を喪なつて了つた。その瞬間、何物かに強たたか五体を殴りつけられて、我に復つたが、雲衝く斗りの、一大摩天楼が頭上にそびえ立つてゐるのであつた。そして自分は、其の門柱に衝突した途端に、助かつた如うな心持になつた。自分は覚えず其楼へ飛び込んで、矢庭に玄関へ駆け上つた、すると目眩しいばかりの電燈、否神の大燈が、恐怖に閉されて居た自分の魂の渓間を、皎々と照らし居るのであつた。吁々過去数十年の自分の幻影は、この恐ろしかつた夢の絵巻物となつて、今猶時々自分の魂に刺激を与へたり、鞭撻を加へて呉れる。吁々惟神霊幸倍坐世。