ここは黄泉の八衢というところで、米の字の形をした辻である。その真ん中に霊界の政庁があって、恐ろしい番卒がたくさん控えている。
芙蓉仙人の案内で中に入って行くと、小頭と思しき恐ろしい顔つきをした男が慇懃に出迎えた。仙人は自分を、大神の命によって幽界の視察をせしめるべく、大切な修行者を案内して来た、この者こそ丹州高倉山に古来秘めおかれた三つ葉躑躅の霊魂である、と紹介し、大王に伝えるようにと言った。
小頭が仙人の来意を奥へ伝えに行った後、ものすごい物音が政庁の奥から聞こえてきた。仙人は、肉体のあるものがやって来たときには、政庁の装いを変えるので、その音であろうと言った。
やがて、先の小頭の先導で奥へと進み入ると、上段の間に白髪異様の老神が端座していた。老神はうるわしく威厳があり、優しみのある面持ちであった。
招かれて進みいり、座に着くと、自分は平身低頭して敬意を表した。老神もまた頓首して敬意を表した。そして老神は次のように語った。
自分は根の国・底の国の監督を天神から命ぜられ、三千有余年、この政庁の大王の任に就いている。
今や天運循環し、わが任務は一年余りで終わる。
その後は、自分は汝(聖師)と共に霊界、現界において提携し、宇宙の大神業に参加するものである。
汝は初めて幽界に足を踏み入れたものであり、実地に研究するため、根の国底の国を探検した上で、顕界に帰るように。
そして、自分の産土の神を招くと、産土の神は自分に一巻の書を授け、頭上から神息を吹き込んだ。自分の臍下丹田はにわかに温かみを感じ、身魂の全部に無限無量の力を与えられたように感じた。