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文献名1霊界物語 第1巻 霊主体従 子の巻
文献名2第1篇 幽界の探険よみ(新仮名遣い)ゆうかいのたんけん
文献名3第7章 幽庁の審判〔7〕よみ(新仮名遣い)ゆうちょうのしんぱん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
まずは、大王の許しを得て、自分は芙蓉仙人、産土の神と共に、幽庁の審判を傍聴することになった。

審判の法廷には、河を渡ってきた旅人が土下座になってかしこまっていたが、そこにはさまざまな国の人間が混じっているのを認めた。

高座にある大王の容貌をふと見ると、恐ろしくものすごい顔になっていたので、思わずあっと驚いて倒れそうになったところを、芙蓉仙人と産土の神に支えられた。

裁判はただ、一人一人判決の言い渡しのみで次々と終了して行った。芙蓉仙人の説明によれば、大蛇の河を渡るときに、着衣の変色によって罪の大小軽重が明らかになるので、審理の必要がない、とのことであった。

審判を終えて、元の居間に戻ってきた大王のお顔は、また温和で慈愛に富んだ様子に戻っていた。

神諭にある艮の金神が、改心の出来た人には優しく現れるが、心に曇りがある人民には恐ろしい神として表れる、とあるのを拝読したとき、このときの幽庁の大王のことを思い出さずにはいられなかった。また、教祖の優美にして温和、慈愛に富めるご面貌は、大王のお顔を思い起こさせたのである。

大王が、これから幽界の修行を行うように、と告げると、産土の神は「よろしくお願い申し上げます」と述べて去っていった。また芙蓉仙人も大王に黙礼して退座された。

後には大王の前に自分だけが残されたが、すると再び大王の面貌は恐ろしく変わり、番卒がやってきると自分の白衣を脱がせて灰色の着物に着せ替え、第一の門から突き出してしまった。

辺りを見ると、枯れ草が氷の針のようになり、横の溝にはいやらしい虫が充満していた。後ろからは番卒が、鋭利な槍で突き刺そうと追ってくるので、やむを得ず前に進んでいった。

四五町行ったところで、橋のない深い広い河があった。のぞいてみると、旅人が落ちて体中を蛭がたかって血を吸われ、苦しんでいる。後からは鬼のような番卒が槍を持って追いかけてくる。

窮地にふと思い出した、産土神から授かった書を開いてみると、『天照大神、惟神霊幸倍坐世』としたためてある。自分は思わずこの神文を唱えると、身は大きな川の向こうへ渡っていた。

番卒はこれを見て、元の道を帰って行った。歩を進めると、にわかに寒気が酷烈となり、手足が凍えてどうすることもできない。

そこへ黄金色の光が現れ、はっと驚いて見る間に、光の玉が二三尺先に忽然と下ってきた。
主な人物 舞台 口述日 口述場所 筆録者 校正日 校正場所 初版発行日1921(大正10)年12月30日 愛善世界社版31頁 八幡書店版第1輯 56頁 修補版 校定版30頁 普及版16頁 初版 ページ備考
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本文  ここに大王の聴許をえて、自分は産土神、芙蓉仙人とともに審判廷の傍聴をなすことを得た。仰ぎ見るばかりの高座には大王出御あり、二三尺下の座には、形相すさまじき冥官らが列座してゐる。最下の審判廷には数多の者が土下座になつて畏まつてゐる。見わたせば自分につづいて大蛇の川をわたつてきた旅人も、早すでに多数の者の中に混じりこんで審判の言ひ渡しを待つてゐる。日本人ばかりかと思へば、支那人、朝鮮人、西洋人なぞも沢山にゐるのを見た。自分はある川柳に、
『唐人を入り込みにせぬ地獄の絵』
といふのがある、それを思ひだして、この光景を怪しみ、仙人に耳語してその故を尋ねた。何と思つたか、仙人は頭を左右に振つたきり、一言も答へてくれぬ。自分も強て尋ねることを控へた。
 ふと大王の容貌を見ると、アツと驚いて倒れむばかりになつた。そこを産土の神と仙人とが左右から支へて下さつた。もしこのときに二柱の御介抱がなかつたら、自分は気絶したかも知れぬ。今まで温和優美にして犯すべからざる威厳を具へ、美はしき無限の笑をたたへたまひし大王の形相は、たちまち真紅と変じ、眼は非常に巨大に、口は耳のあたりまで引裂け、口内より火焔の舌を吐きたまふ。冥官また同じく形相すさまじく、面をあげて見る能はず、審判廷はにはかに物凄さを増してきた。
 大王は中段に坐せる冥官の一人を手招きしたまへば、冥官かしこまりて御前に出づ。大王は冥官に一巻の書帳を授けたまへば、冥官うやうやしく押いただき元の座に帰りて、一々罪人の姓名を呼びて判決文を朗読するのである。番卒は順次に呼ばれたる罪人を引きたてて幽廷を退く。現界の裁判のごとく予審だの、控訴だの、大審院だのといふやうな設備もなければ、弁護人もなく、単に判決の言ひ渡しのみで、きはめて簡単である。自分は仙人を顧みて、
『何ゆゑに冥界の審判は斯くのごとく簡単なりや』
と尋ねた。仙人は答へて、
『人間界の裁判は常に誤判がある。人間は形の見へぬものには一切駄目である。ゆゑに幾度も慎重に審査せなくてはならぬが、冥界の審判は三世洞察自在の神の審判なれば、何ほど簡単であつても毫末も過誤はない。また罪の軽重大小は、大蛇川を渡るとき着衣の変色によりて明白に判ずるをもつて、ふたたび審判の必要は絶無なり』
と教へられた。一順言ひ渡しがすむと、大王はしづかに座を立ちて、元の御居間に帰られた。自分もまた再び大王の御前に招ぜられ、恐る恐る顔を上げると、コハそもいかに、今までの恐ろしき形相は跡形もなく変らせたまひて、また元の温和にして慈愛に富める、美はしき御面貌に返つてをられた。神諭に、
『因縁ありて、昔から鬼神と言はれた、艮の金神のそのままの御魂であるから、改心のできた、誠の人民が前へ参りたら、結構な、いふに言はれぬ、優しき神であれども、ちよつとでも、心に身欲がありたり、慢神いたしたり、思惑がありたり、神に敵対心のある人民が、傍へ出て参りたら、すぐに相好は変りて、鬼か、大蛇のやうになる恐い身魂であるぞよ』
と示されてあるのを初めて拝したときは、どうしても、今度の冥界にきたりて大王に対面したときの光景を、思ひ出さずにはをられなかつた。また教祖をはじめて拝顔したときに、その優美にして温和、かつ慈愛に富める御面貌を見て、大王の御顔を思ひ出さずにはをられなかつた。
 大王は座より立つて自分の手を堅く握りながら、両眼に涙をたたへて、
『三葉殿御苦労なれど、これから冥界の修業の実行をはじめられよ。顕幽両界のメシヤたるものは、メシヤの実学を習つておかねばならぬ。湯なりと進ぜたいは山々なれど、湯も水も修行中には禁制である。さて一時も早く実習にかかられよ』
と御声さへも湿らせたまふた。ここで産土の神は大王に、
『何分よろしく御頼み申し上げます』
と仰せられたまま、後をもむかず再び高き雲に乗りて、いづれへか帰つてゆかれた。
 仙人もまた大王に黙礼して、自分には何も言はず早々に退座せられた。跡に取りのこされた自分は少しく狼狽の体であつた。大王の御面相は、俄然一変してその眼は鏡のごとく光り輝き、口は耳まで裂け、ふたたび面を向けることができぬほどの恐ろしさ。そこへ先ほどの冥官が番卒を引連れ来たり、たちまち自分の白衣を脱がせ、灰色の衣服に着替させ、第一の門から突き出してしまつた。
 突き出されて四辺を見れば、一筋の汚い細い道路に枯草が塞がり、その枯草が皆氷の針のやうになつてゐる。後へも帰れず、進むこともできず、横へゆかうと思へば、深い広い溝が掘つてあり、その溝の中には、恐ろしい厭らしい虫が充満してゐる。自分は進みかね、思案にくれてゐると、空には真黒な怪しい雲が現はれ、雲の間から恐ろしい鬼のやうな物が睨みつめてゐる。後からは恐い顔した柿色の法被を着た冥卒が、穂先の十字形をなした鋭利な槍をもつて突き刺さうとする。止むをえず逃げるやうにして進みゆく。
 四五丁ばかり往つた処に、橋のない深い広い川がある。何心なく覗いてみると、何人とも見分けはつかぬが、汚い血とも膿ともわからぬ水に落ちて、身体中を蛭が集つて空身の無い所まで血を吸うてゐる。旅人は苦さうな悲しさうな声でヒシつてゐる。自分もこの溝を越えねばならぬが、翼なき身は如何にして此の広い深い溝が飛び越えられやうか。後からは赤い顔した番卒が、鬼の相好に化つて鋭利の槍をもつて突刺さうとして追ひかけてくる。進退これきはまつて、泣くにも泣けず煩悶してをつた。にはかに思ひ出したのは、先ほど産土の神から授かつた一巻の書である。懐中より取出し押しいただき披いて見ると、畏くも『天照大神、惟神霊幸倍坐世』と筆蹟、墨色ともに、美はしく鮮かに認めてある。自分は思はず知らず『天照大神、惟神霊幸倍坐世』と唱へたとたんに、身は溝の向ふへ渡つてをつた。
 番卒はスゴスゴと元の途へ帰つてゆく。まづ一安心して歩を進めると、にはかに寒気酷烈になり、手足が凍えてどうすることも出来ぬ。かかるところへ現はれたのは黄金色の光であつた。ハツと思つて自分が驚いて見てゐるまに、光の玉が脚下二三尺の所に、忽然として降つてきた。
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