神界の場面がたちまち一変し、また自分は元の大橋のたもとに立っていた。大祓詞の声が聞こえて来る方に行くと、五十がらみの爺と四十がらみの女が背中合わせにひっついて、天狗と稲荷をそれぞれ拝んでいた。
自分は神様にお願いして祝詞を奏上すると、二人の体は分離した。二人は感謝して神業に参加しようとしたが、男の方は強欲のために地獄に堕ちて肉体は滅びてしまった。
また光景が一変し、小さな十字街頭で、先ほど見た八つ頭八つ尾の霊が憑いた男が、車に乗るように進めてきたが、自分は断って徒歩で進んだ。
非常に険峻な山坂を三つ四つ越えると、そこには澄み切った河べりに、老いた松が青々と並んでいる景勝の地であった。自分はこここそ神界であると思った。またとぼとぼと進んでいくと、小さな町に出た。地形は蓮華台上にあり、高天原の中心と称してもよいような町であった。
山を下って少し北に進んだ小さな家で、かの幽庁におられた大王が、若い若い女の姿で自分を出迎えた。大王との再会を喜んで珍しい話を聞いていると、虎狼がうめくような声で祝詞が唱えられているのが聞こえた。
その祝詞の声であたりは暗黒に閉ざされ、「足」という鬼に「黒」という古狐が憑いているのが見えた。河からは大きな竜体が、どこからともなく悪魔が現れてきた。自分は「天照大御神」「産土神」を念じて祝詞を唱えると、一天にわかに晴れ渡った。
祝詞も悪魔の口から唱えられると、かえって世の中は混乱する。言霊は身も魂も清浄となった人が使ってはじめて、世の中を清めることができるのである。
自分は八衢に帰っていた。さきほどの鬼、狐、悪竜は自分を追ってきた。鬼は眷属を引き連れて自分を八方より襲撃し、口中から何十万本もの針を吹きかけた。しかし自分の体は神明の加護を受けており、何の影響もなかった。そのありがたさに感謝の祝詞を唱えると、すべての悪魔は消えてしまった。
「足」という鬼は、一見神に仕えるかのような服装をしていた。河から上ってきた竜は竜女に姿を変え、本来は大神御経綸に参加すべき身魂であった。しかし、「足」の鬼と肉体上の関係を結び、使命を台無しにしてしまった。
「足」の鬼は竜女と関係を持った罪のために滅びてしまった。
本来竜女は三千年の苦行を経て、ようやく人間として生まれてきたものであり、人間になった最初の一生は、男女の交わりを絶たなければ、再び竜体に堕ちてしまう。そのため、竜女を犯した者は竜神の祟りを受けて、末代まで苦しまなければならなくなるのである。