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文献名1霊界物語 第2巻 霊主体従 丑の巻
文献名2第4篇 常世の国よみ(新仮名遣い)とこよのくに
文献名3第22章 言霊別命の奇策〔72〕よみ(新仮名遣い)ことたまわけのみことのきさく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-03-07 18:21:37
あらすじ
言霊別命はひそかに美濃彦の館に入って、策を練っていた。小島別は竜世姫の急病にあわてて谷底に転落して怪我をしていた。そのうちに、竜世姫の病は病気全快してしまった。

小島別らは美濃彦の館の前を、何も気づかずに通り過ぎた。その後に、言霊別命は後から追いついた。

言霊別命と竜世姫は、わざと偽の喧嘩をして、小島別らの目を欺いた。言霊別命も偽病を演じ、竜世姫は小島別・竹島彦らに、偽病の言霊別命の輿をかつがせた。
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年11月01日(旧10月02日) 口述場所 筆録者谷口正治 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年1月27日 愛善世界社版109頁 八幡書店版第1輯 198頁 修補版 校定版111頁 普及版53頁 初版 ページ備考
OBC rm0222
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本文  言霊別命は何ゆゑかこの遭難を後にみて、一目散に左の大道を進み、美濃彦の住める紅館にいたり、元照彦とともに種々の計画をたて、万一に備へたのである。小島別以下の神司は竜世姫の急病に心をとられ、言霊別命の影を失ひしに心付かず、種々手をつくして看護した。されど容易に竜世姫の病は癒えずして、多くの時を費やした。
 このとき小島別は狼狽のあまり、傍の深き谷間に転落して腰を打ち、谷底にて悲鳴を上げてゐた。一方竜世姫には松代姫看護の任にあたり、竹島彦は谷間に下りて、小島別の看護に尽してゐた。竜世姫はますます苦悶を訴へた。
 竹島彦は小島別をやうやく背に負ひて谷を這ひのぼり、ここにふたりの病神に手を曳かれ栃麺棒をふつてゐた。そのとき竜世姫は掌を翻したごとくに病気全快し、大声を出して笑ひだした。
 小島別は顔をしかめ、苦痛を訴へてゐたが、種々看護の末やうやく杖を力に歩行しうるやうになつた。ここにはじめて言霊別命の影を失ひしに驚き、竹島彦は大声を発して、「オーイ、オーイ」と呼ばはつた。その声は木精にひびき、山嶽も崩るるばかりであつた。されど言霊別命の声は梨の礫の何の音沙汰もなかつた。
 小島別はよろめきつつ杖を力になめくじりの江戸行のごとく、遅々としてはかどらぬのである。にはかに従者に命じ、輿にかつがして行くことになつたが、やがて二股の岐路にさしかかつた。このとき、一行は、言霊別命はいづれの路をとりしやと、しばし思案にくれてゐた。
 竜世姫は右の道をとれと勧めてやまなかつた。されど一行は途方にくれていた。
 衆議の結果、竹島彦、松代姫は右の道をとつたが、小島別、竜世姫は左道をとつて美濃彦の館の前を何気なく通過した。
 言霊別命は小島別の輿をやり過ごして、悠々として協議をとげ、元照彦、美濃彦に策を授け、やがて後より「オーイ、オーイ」と大声を上げて、小島別の輿を呼びとめた。
 小島別は輿より這ひいで、
『命はいづれにありしぞ。竜世姫の重病を見捨て、吾らを捨てて自由行動をとられしは、実に不深切にして無道のきはみならずや』
と、腰を押さへながら詰問した。
 言霊別命は打ち笑つて、
『竜世姫は平素慢心強し、重病に罹るごときは当然なり。望むらくは途上に倒れ死し、鳥獣の餌食となるべきものなり。しかるに憎まれ児世に羽張るとの譬のとほり、まだ頑強に生ながらへゐたるは不思議なり』
と口をきはめて罵つた。
 小島別は言霊別命、竜世姫の心中を知らず、躍起となつて憤り、
『極悪無道の言霊別命、吾いま天に代つて誅伐せむ。泣面かはくな』
と起き上つた。その一刹那に小島別の腰の痛みはたちまち癒え、言霊別命は路上にたふれて、絶息してしまうたのである。小島別は、
『神明恐るべし。罰は覿面なり』
と手を拍つて天に感謝した。
 竜世姫はただちに言霊別命を看護した。このとき小島別怒つて曰く、
『彼は命の野倒れ死を希ひし悪逆無道の神なり。何の義務あつて、仇敵を介抱したまふや』
と詰つた。竜世姫は容をあらため、威儀を正し、
『至仁至愛の神慮は汝らのたうてい窺知すべきところに非ず。汝の言こそ実に悪魔の囁きなり。すみやかに悔改め、言霊別命に陳謝し奉れ。しからざれば妾はこれより竜宮城にたち帰り、汝が不信の罪を稚桜姫命に奏上し奉らむ』
と厳しく戒めた。
 小島別は大地に平伏し、平蜘蛛のごとくなつて自分の過去を陳謝した。路上に倒れし言霊別命は決して病を発して倒れたのではなかつた。小島別をして自分を輿にのせて舁つぎ行かしめむための奇策であつた。
 小島別は竜世姫の厳命により、あまたの輿舁の神あるにかかはらず自ら輿舁となり、不精々々に、あたかも屠所に曳かるる羊のごとく、足並もあまり面白からず進むのであつた。
 行くことややしばしにして左右両岐路の出会路にさしかかつた。右の道をたどりし竹島彦、松代姫もここに来り、たがひに無事の会合を祝した。
 このとき竜世姫は竹島彦にむかひ、
『吾が厳命なり。汝は後棒となり、この輿を舁ぎて命を常世姫のもとに送り奉れ』
と命令した。竹島彦は心中おだやかならず。されど竜世姫の命を拒むに由なく、つひに輿を舁ぐこととなつた。輿を舁ぎしふたりはとみれば、実に三宝荒神が、竈の上の不動を燃え杭でくらはしたやうな不足相な顔付であつた。
(大正一〇・一一・一 旧一〇・二 谷口正治録)
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