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文献名1霊界物語 第2巻 霊主体従 丑の巻
文献名2第5篇 神の慈愛よみ(新仮名遣い)かみのじあい
文献名3第37章 長高山の悲劇〔87〕よみ(新仮名遣い)ちょうこうざんのひげき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
長高山の清照彦は帰還した使者から、常世姫の圧迫のため、荒熊彦夫妻は竜宮城への敵対を決めた、と聞いて落胆した。しかし決心を固めると翻然として神軍を召集し、高白山出陣の命を下した。

清照彦は一室で、父母を討たねばならない不孝を嘆いていたが、妻の末世姫がやってきて、ここは中立を守って忠と孝の両方を全うするように、と諭した。しかし清照彦は、いったん決めたことを翻すわけにはいかないとして、末世姫の忠告を聞かなかった。

末世姫は一室に入ると自害して果てた。これを見た清照彦は自らも自害しようとしたが、元照彦にとどめられて戒められた。

ときしも、竜宮城からの使いがあり、荒熊彦夫妻討伐の命が下った。言霊別命の真意は、清照彦をして荒熊彦夫妻を改心せしめようとのことであったが、清照彦は大義名分を重んじて、父母と一戦交えることになってしまった。

高白山では、常世姫軍の高虎彦の部下に大虎別という忠勇の神があり、荒熊彦夫妻の悪事を諌めて降伏を勧めたが、荒熊彦は聞かなかった。大虎別は自害して果てた。

やがて清照彦率いる長高山の神軍が高白山に押し寄せ、戦闘の末常世姫軍は敗退し、荒熊彦夫妻はローマ方面に遁走した。清照彦は高白山に入城し、アラスカ全土を安堵した。

後に清照彦は言霊別命の命によりこの地をよく守り、シオン山の戦闘にも加わらず、アラスカは平和に治まった。
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年11月04日(旧10月05日) 口述場所 筆録者谷口正治 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年1月27日 愛善世界社版183頁 八幡書店版第1輯 224頁 修補版 校定版187頁 普及版87頁 初版 ページ備考
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本文  長高山の城塞には清照彦、末世姫、元照彦とともに、高白山に遣はしたる使者の帰還を待つてゐた。そこへ第一、第二の使者は天空をかすめて一度に帰つてきた。
 様子いかにと待ちかまへたる清照彦は、ただちに使者を居間に通した。使者は荒熊彦夫妻の反逆心ますます強く、かつ常世姫の圧迫はげしく、駒山彦は容易に従はず、やむを得ず、言霊別命に反抗を継続するの決心確なりと報告した。
 清照彦はしばし黙然として頭を垂れ、吐息をつき思案にくれた態であつた。末世姫の顔には憂ひの雲が漂うた。
 やがて清照彦は翻然としてたち上り、部下の部将を集めて、
『吾らの強敵は高白山にあり。早く出陣の用意に取りかかれ』
と命令を発した。数多の部将は時を移さず群臣を集め、部署を定め、命令一下せばたちまち出発せむと、数万の鳥船を用意した。清照彦は一室に入つて独語した。
『あゝ天なる哉。吾父母を救ひたる恩神にたいし、背かばこれ天の道に非ず。さりとて又、山海の鴻恩ある父母を討たむか、これまた天の理に反くものなり。されど大義は炳然として日月の如し。あゝ、鴻恩ある父よ、母よ、吾不孝の罪を赦したまへ』
かく言ひて涙に暮るるをりしも、最前より様子を窺ひゐたる末世姫は、あわただしく入り来つて、清照彦の袖をひかへ、
『夫神、かくまで決心したまひし以上は、妾はいかにとどめ奉らむとするも、とどまりたまはざるべし。されど、父の恩は山より高く、母の恩は海より深しと聞く。いかに大義を重んずればとて、現在骨肉の父母を殺したまふは、いかに時世時節とは申しながら悲惨のきはみなり。希はくはわが夫よ、今日の場合は厳正なる中立を守り、もつて忠孝両全の策を建てさせ給へ』
かく言つて末世姫は掻き口説くのである。このとき清照彦、慨然として立ち上り、
『一旦、男子の身として決心の臍を固めたる以上は、善悪正邪は兎も角、初志を貫徹せざれば止まず。女子の喧しく邪魔ひろぐな』
と云ひも終らず、袖ふり払ひ、今や出陣の用意にかからむとした。末世姫はただちに一室に入り、懐剣を逆手にもち、咽喉を掻き切つてその場にうち倒れた。清照彦は怪しき物音にうち驚き、一室に走り入り見れば、こはそも如何に、末世姫は朱に染り、悶え苦しみつつあつた。
 清照彦はこの有様を見て何思ひけむ、たちまち大刀を抜き放ち、双肌を脱ぎ、しばらくこれを打ち眺めてありしが、たちまち決心の色をあらはすとともに、刀を逆手に持ち、左腹部よりこれを突き切らむとする一刹那、元照彦は差し足抜き足しのび寄り、その大刀をもぎとり声をはげまして、その不覚を戒しめた。
 時しも天空とどろきわたり、天の磐船に乗りて降りきたる神司があつた。これは竜宮城より派遣されたる梅若彦である。ただちに案内もなくツカツカと奥殿に入りきたり、清照彦に大神の命を伝へむとした。
 清照彦は使者の来臨に驚き、ただちに容をあらため、襟を正し、梅若彦を正座に直し、自らは遠く引下つてその旨を承はらむことを申し上げた。
 梅若彦は懐中より恭しく一書を取出し、これを頭上に捧げ披いてその文面を読み伝へた。その文意は、
『荒熊彦、荒熊姫、駒山彦ら、常世姫に内通し、高白山を根拠とし、つひに竜宮城を占領せむとす。汝は元照彦に長高山を守らしめ、みづから神軍を率ゐて高白山を攻め、彼ら魔軍を剿滅せよ』
との厳命である。しかし言霊別命は大慈大仁の神なれば、決して内心清照彦をして父母の両親を討たしめむの心なし、ただ清照彦をして父母両親を悔い改めしめ、最愛の児の手より救はしめむとの神慮であつた。清照彦は深き神慮を知らず大義名分を重んじ、つひに父母両神を涙を振つて攻撃した。すなはち清照彦の心中は熱鉄をのむよりも苦しかつた。されど大命は黙しがたく謹んで拝命の旨を答へた。
 梅若彦は吾が使命の遂げられたるを喜び、
『時あつて親子兄弟となり主従となり、互ひに相争ふも天の命ならむ。御心中察し入る』
と温かき一言を残して再び磐船に乗り、蒼空高く竜宮城さして帰還した。
 ここに、高白山の城塞には、高虎彦の部下に大虎別といふ忠勇にして誠実なる神があつた。この神は常に荒熊彦の悪事を嘆き、いかにもして悔改めしめむと、陰に陽に全力をつくして注意したのである。今しも荒熊彦夫妻のあくまで神軍に対抗せむとする状を聞き、その場にあらはれ種々の道理を説き、涙を流して諫言した。されど、荒熊彦は容易に肯かむとする気色がなかつた。
 大虎別は、
『吾かくの如く主の耳に逆らひ奉るは、主および天下の大事を思へばなり。かくなる上は到底吾が力の及ぶべくもあらず。さらば』
といふより早く懐剣をとり出し、手早く双肌を脱ぎ、腹を掻ききり、咽喉を突刺し、その場に繹切れた。
 荒熊彦は冷笑の眼をもつてこれを眺めてゐた。たちまち西北の天より数万の神軍天の鳥船にうち乗り、高白山の上空高く押寄せきたり、空中より火弾を投下した。ために駒山彦は戦死し、荒熊彦夫妻は天の磐船に乗り、ローマを指して一目散に遁走した。この神軍はいふまでもなく清照彦の率ゐるものであつた。
 陥落したる高白山は清照彦代つてこれを守り、アラスカ全土はきはめて平和に治まつた。さうして長高山は元照彦これを守り、その地方一帯はこれまた平安によく治まつてゐた。後に清照彦はシオン山の戦闘に加はらず、ここに割拠し、言霊別命の了解をえて堅く守つた。
(大正一〇・一一・四 旧一〇・五 谷口正治録)
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