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文献名1霊界物語 第2巻 霊主体従 丑の巻
文献名2第6篇 神霊の祭祀よみ(新仮名遣い)しんれいのさいし
文献名3第44章 魔風恋風〔94〕よみ(新仮名遣い)まかぜこいかぜ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-12-05 17:01:56
あらすじ
言霊別命は万寿山に落ち延びた。言霊別命の声望を慕って神将たちが集まり、万寿山の神軍は次第に集まってきた。

一方竜宮城は常世姫のために落城し、稚桜姫命は神国別命らとともに、万寿山に落ち延びてきた。言霊別命は稚桜姫命を礼を尽くしてお迎えした。稚桜姫命は、言霊別命の潔白をようやく認められた。

万寿山には、常世姫の暴虐に義憤を発した紅葉別という勇将が馳せつけ、言霊別命はこれを万寿山の主将とした。

竜宮城をはじめ地の高天原、橄欖山も一時魔軍の手に落ちた。シオン山の大八洲彦命は、大足彦の国の真澄の鏡で敵軍を射照らさせ、壊走させた。また竜宮城の魔軍に対しても、真澄の鏡を射照らすと、常世姫の身体から異様な光が現れて金毛九尾の悪狐と化した。そして、常世城めがけて遁走してしまった。

ここに稚桜姫命は言霊別命らを率いて竜宮城に帰還した。

一方、天稚彦は唐子姫と山奥で暮らしていたが、唐子姫は悪狐の姿を現して逃げてしまった。天稚彦は仕方なく諸方を流浪し、艱難をなめつつ竜宮城へ帰ることになった。
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年11月08日(旧10月09日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年1月27日 愛善世界社版222頁 八幡書店版第1輯 238頁 修補版 校定版226頁 普及版105頁 初版 ページ備考
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本文  言霊別命は思はざる濡衣を着せられ、如何にもしてこの疑を晴らし、身の潔白を示さむと焦慮し、かつ常世姫を悔い改めしめむとした。されど狐独の身となりし命はいかんとも策の施すべき道がなかつた。そこでいよいよ意を決し、万寿山に落ち延びた。
 言霊別命の境遇に同情したる数多の神司は、命の後をおふて万寿山に馳集まつた。
 重なる神将は、吾妻別、鷹松別、河原林、玉照彦、有国彦、森鷹彦らの諸神将であつた。勇猛なる神軍は期せずして日に月に集まりきたつた。このこと常世姫の耳に雷のごとく響いてきた。常世姫はおほいに驚き、八王大神常世彦をして万寿山を攻撃せしめむとした。時しも竜宮城は常世姫のために陥落し、稚桜姫命は神国別命以下の神将とともに、言霊別命の駐屯せる万寿山に逃れたまうた。
 ここに言霊別命は、礼をつくしてこれを迎へ奉り、竜宮城を回復せむとし、かつ言霊別命以下の清廉潔白にして、至誠至実の神たることが初めて悟られた。
 稚桜姫命の来臨とともに万寿山はますます開拓され、つひには堅城を造り、鉄壁をめぐらし、実に難攻不落の城塞となつた。
 この時、智勇兼備の勇将にして、紅葉別といふ軍神があつた。この神司あまたの神軍を率ゐて来り、言霊別命に面謁せむことを申込んだ。言霊別命はまづ吾妻別に面会せしめ、その来意を尋ねさせた。紅葉別は常世姫の奸策を聞き義憤をおこし、自ら進んで万寿山に参加し、彼を亡ぼし天下を太平に治めむと欲し、協心戮力もつてミロク神政の神業に参加せむと、殊勝にも誠意を表にあらはして参加せむ事を申込んだ。吾妻別はおほいに喜び、これを言霊別命に委細進言した。紅葉別は戦闘に妙をえたる武神である。言霊別命は稚桜姫命とはかり、紅葉別をして万寿山の主将たらしめむとした。このとき竜宮城はすでに常世姫の占領するところとなり、ついで地の高天原も、橄欖山も敵手に落ちてゐた。シオン山の総大将大八洲彦命は、逃れきたれる大足彦の国の真澄の鏡をもつて、敵軍を山上より射照した。たちまち山頂より幾十万とも知れぬ巨巌湧出して中空に飛び、美山彦、国照姫、武熊別の魔軍の集団めがけて雨のごとく落下し、一方鏡に射照されてその正体を露はし、たちまち悪鬼、大蛇、悪狐の姿と変じ、鬼城山めがけて逃げ散つた。
 ここに大八洲彦命は宮比彦を祭祀の長とし、安世彦を主将とし、一部の神軍をもつてこれを守らしめ、ただちにその勢をもつて竜宮城に攻め寄せ回復戦を試みた。真鉄彦は地の高天原にむかひ、磐樟彦は橄欖山にむかひ、吾妻別、大足彦は竜宮城にむかひ、国の真澄の鏡を取り出し、敵軍を照し、かつ大八洲彦命の神言を奏上するや、たちまち暴風吹きおこり、浪は山の如く立荒び、城はほとんど水中に没した。常世姫の身体よりは異様の光現はれ、金毛八尾の悪狐と化し、黒雲を巻きおこし、常世城めがけて遁走し、部下の魔軍は諸方に散乱して、竜宮城も地の高天原も再び神軍の手に帰つた。ここに稚桜姫命は、言霊別命、吾妻別らを率ゐてふたたび竜宮城に帰還したまうた。万寿山は鷹松別、有国別らの諸神将をしてこれを守備せしむることとなつた。
 話かはつて天稚彦は、唐子姫に心を奪はれ、壇山を捨ててなほも山奥深くわけいり、
『お前と一緒に暮すなら、たとへ野の末山の奥、虎狼の住家にて、竹の柱に茅の屋根、手鍋提げてもかまやせぬ』
といふやうな状態にて、わづかの庵を結び夫婦きどりで暫く暮してゐた。
 ある時天稚彦は近辺の山に分け入りて、兎を狩つて帰つてきた。唐子姫は夫の留守に気を許し、辺りに響く鼾声を発し、よく寝入つてゐた。天稚彦はひそかに外より覗いて見た。唐子姫の姿はどこへ行つたか影もなく、寝間には銀毛八尾白面の悪狐が睡つてゐる。天稚彦はおほいに驚き、かつ怒り、
『この邪神奴、わが不在を窺ひ、最愛の唐子姫を喰ひ殺し腹膨らせ、安閑と仮眠りをるとは心憎し。妻の敵、思ひ知れよ』
と弓に矢をつがひ、悪狐をめがけて発止と射かけた。この時遅く、かの時速く、悪狐はたちまち白煙となつて消え失せた。いづこともなく唐子姫の声として、
『われは常世姫の部下の魔神なり。竜宮城を占領せむために花森彦を誘き出し、今また汝をこの山奥に誘ひ、その通力を失はしめたり。吾はこれより常世の国に馳帰り賞賜に預からむ。汝はすみやかに竜宮城に還り、この失敗を包み隠さず物語り、唐子姫に眉毛をよまれ、尻の毛も一本も残らず引抜かれたり。悔し残念を耐りこばりてここまで還りきました。今までの罪はお許し下さいと、女房の稚桜姫命に頭を下げて、三拝九拝せよ』
と言葉途切るとともに、カラカラと嘲笑ひの声次第に遠くなりゆくのであつた。命は大いに怒り、声する方を中空目がけて矢を射つた。矢は危くも命の肩先をすれずれにうなりを立てて落ちきたり、実に危機一髪の間であつた。天稚彦はこれより諸方を流浪し、種々の艱苦を嘗めつつすごすごと竜宮城に帰ることとなつた。
(大正一〇・一一・八 旧一〇・九 加藤明子録)
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