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文献名1霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
文献名2第7篇 崑崙山よみ(新仮名遣い)こんろんざん
文献名3第26章 大蛇の長橋〔126〕よみ(新仮名遣い)おろちのながはし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年11月28日(旧10月29日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年3月3日 愛善世界社版153頁 八幡書店版第1輯 315頁 修補版 校定版157頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm0326
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本文  モスコーには、黒色の玉を安置し、これを烏羽玉の宮といふ。道貫彦を八王神となし、道貫姫を妻として神務を輔佐せしめ、夕日別を八頭神とし、夕照姫を妻として神政を輔翼せしめたまへり。
 夕照姫は常に気の勝ちたる女性にして、したがつて肉体甚だ弱く、常に病魔の襲ふところとなりゐたり。その病魔は八頭八尾の大蛇の眷族大蛇姫といふ邪霊ありて、憑依し、姫の身体を苦しめゐたり。これがために夕照姫はつひに重態におちいり、危篤に瀕しければ、夕日別は枕頭をはなれず親しく看護に手をつくしたり。従つて夫婦の仲はきはめて親密なりける。夕照姫は臨終にさいし、夕日別にむかひ、
『妾が死後はかならず後妻を納れたまふなかれ』
と遺言せむとし、言ひだしかねて煩悶し、連日連夜夫の顔を凝視てゐたりける。夕照姫は、吾が死後において夫の後妻を娶るを嫉ましきことに思ひ、その一念執着のため、臨終の息を引きとりかねゐたりけるより、夕日別はつひにその心中を察知し、妻にむかひて、
『汝は吾に心を残すことなく神界にいたるべし。汝の昇天後、吾は断じて後妻を納れじ、安心せよ』
と約したりければ、夕照姫は満面笑をふくみ眠るがごとく絶息したりける。
 かくて夕日別は多くの年を経たるが、老年におよび淋しくなりしより、後妻を娶らむとするの心を抱きける。部下の神人は、命の老て寂寥を嘆きたまふを気の毒に思ひ、後妻を娶られむことを勧めけるに命はおほいに喜び、夕照姫との約束を無視して、八王神道貫彦の娘なる夕凪姫を娶りける。
 夕日別はそれより元気とみに回復し、領内の巡視に、あまたの従者をしたがへ出張さるることしばしばなりき。夕凪姫はいつも奥殿に居住して外出せざりけるが、ある時、たちまち天上より黒雲に乗りて降りきたる容貌醜悪なる鬼女あり。薙刀をひつさげ、夕凪姫の前に現はれて、
『妾こそは夕照姫なり。夫は、妾が臨終のときの堅き約束を破り、汝を納れて後妻としたり。妾は夫にたいして恨を晴らさむと日夜つけねらへども、神力強盛にしていかんともすること能はず。よつて、その片割なる汝と雌雄を決せむ。尋常に勝負あれ』
と呼ばはりけるに、夕凪姫も元来勝気の女性なれば、少しも怖れず、ただちに立つて長押に懸けし薙刀を取るより早く立ちむかひける。かくして互ひに火花を散らし、秘術をつくして戦ひけれども容易に勝負はつかず、鶏鳴とともに夕照姫は、ふたたび黒雲にのり中空に影を没したりける。夫の不在中は、毎夜時刻を定めて現はれきたり、たがひに薙刀をもつて勝負を争ひゐたるをもつて、一間のうちは天井裏、柱、畳、襖の区別なく、薙刀の創痕ばかりとなりける。されども夕凪姫は深くこれを秘して何人にも漏らさざりけり。
 夕日別は領内の巡視を終へ、帰城して夕凪姫の奥殿に入り、居室の刀痕を見ておほいに怪しみ、その理由を尋ねける。夕凪姫はやむを得ず有りし次第をもれなく物語りしに、夫はこれを聞きておほいに驚き、ただちに烏羽玉宮にいたり、祈願を凝らし、かつ宮司高国別をもつて神勅を奏請したりける。
 ときに巫子あり、にはかに身体震動し、大地にバツタと倒れ、起あがりてはまた倒れ、大声を放つて泣き叫び、夕日別の面上を穴のあくばかりに、怨恨に燃ゆる嫌らしき目をもつて睨みつけ、
『汝夕日別は、妾との約束を破り、夕凪姫を後妻にいれたり。ただ今、目に物見せむ』
と矢庭に飛びかかり、命の首に手をかけ、生首を引き抜かむと猛りくるふその有様は、身の毛もよだつばかりなりける。
 夕日別は如何ともするよしなく、ただ違約の罪を謝し、かつ、
『夕凪姫を離縁して汝の霊を慰め、冥福を祈るべければ、今回は許せよ』
といひけるに、巫女はふたたび口を切りて、
『しからば妾が要求すべきことあり、第一にその要求を容れたまふか』
と念を押したり。夕日別は震慄しながら、
『何事にても我が力のおよぶ範囲のことならば汝の要求に応ずべし』
と言葉も切れぎれに息をはづませて答へける。巫女はやや顔色をやはらげ、
『然らばモスコーの長橋の袂に、今宵丑満の時を期して、三万匹の蛙を捕へ、笊籠に納めて汝みづから持ちきたれ』
といふを、夕日別は恐怖のあまり一も二もなくこれを承諾して館に帰り、即時に数多の神卒に命じ、山野にいでて蛙を捕獲せしめたれど、蛙は漸く三百匹より集まらず、夕照姫の要求の百分の一を得たるに過ぎざりける。ここに夕日別はやむを得ずあまたのなめくじを捕へてこれを底積となし、蛙をもつて上側をつつみ、侍神をして丑満の刻を期し、長橋の袂に持ち運ばしめける。
 たちまち天上より黒雲に乗りくる鬼女あり。侍者は驚きその場に打ち倒れむとするとき、鬼女はこれを助けおこし侍者にむかひて、
『夕日別は何故来りたまはざりしや』
と問ひければ、侍者は答へて、
『命は数十万のなめくじを室の四周に集め、その中に安座して出でたまはず、夕凪姫と相擁して楽しみゐたまへり』
と答へたるに、鬼女はたちまち忿怒の色を現はし、見る見る黒き大蛇の姿となり、蛙の入れある笊に頭を投げ入れ、一口に喰ひつくしたるが、たちまちなめくじの毒にあてられ、大蛇の身体は見るまに溶解消滅して跡には骨のみを残し、夕照姫の怨霊はここにまつたく滅尽したりける。
 夕凪姫は、それより先妻同様の病を発し、帰幽してその霊魂は大蛇と化し、長橋の守護神となりにける。これを「大蛇の長橋」と称ふ。
(大正一〇・一一・二八 旧一〇・二九 加藤明子録)
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