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文献名1霊界物語 第4巻 霊主体従 卯の巻
文献名2第5篇 局面一転よみ(新仮名遣い)きょくめんいってん
文献名3第29章 月雪花〔179〕よみ(新仮名遣い)つきゆきはな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-01 22:04:40
あらすじ
聖地を預かる桃上彦は、常世会議の間もエルサレムで鬱々として日々を過ごしていた。

ある夜、庭園から呼ぶ声に引かれて外に出ると、えもいわれぬ美しい女性が桃上彦を招いていた。

そして、自分は聖地の生まれだが、今は常世の国にて神政を補佐しているのだ、と明かし、行成彦らが常世会議で傍若無人の振る舞いをなし、聖地の権威を失墜させている、と取り入ってきた。

桃上彦は女性と何事かを打ち合わせて戸口で袂を分かった。
主な人物 舞台 口述日1921(大正10)年12月24日(旧11月26日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年3月30日 愛善世界社版183頁 八幡書店版第1輯 437頁 修補版 校定版193頁 普及版82頁 初版 ページ備考
OBC rm0429
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本文  風は新柳の髪を梳けづり、浪は青苔の髯を洗ふとは菅公の詩なり。
 頃は弥生の央ごろ、天津日の神は西の山の端に隠れ黄昏の雲ただよふ。地には燕の翩翻として忙しげに梭を織り、神人みな春の日長に睡眠をもよほす、時しも東の空の雲の戸開けてたち昇る朧の月影は得もいはれぬ長閑さなりける。
 照りもせず曇りも果てぬ春の夜の
  朧月夜にしくものぞなき
と古人の詠へる歌は実にこの光景を描写して遺憾なしと思はれたり。
 ここに聖地ヱルサレムの桃上彦は、常に心中おだやかならず、不平満々の中にこの長き春の日を過ごしつつありぬ。たちまち吹きくる夜嵐に、庭園に今を盛りと咲き誇りたる八重桜は苦もなく風に打ち落されたり。寝所にありて寝もやらず千々に思ひをくだき嵐の音に耳を澄ませ、首を延ばして屋外の光景を聞き入る時しも、
『桃上彦、桃上彦』
と呼ぶやさしき女性の声、嵐の音に交ぜりて聞え来たりぬ。桃上彦は不審の念にかられ、ひそかに戸を開けて庭園に出で、遠近と所狭きまで散り積りたる花の庭を逍遥し居たりける。
 空には満月朧に懸り、地には花の筵を敷きつめたるごとく、月と花と相映じて得もいはれぬ雅趣をそぞろに感じける。このとき庭園の一隅より庭木を押し分け、雪をあざむく純白の女性忽然として現はれけるに、桃上彦はあたかも月雪花に包まれて天国に遊ぶの愉快を感じたり。女性は桃上彦の前に近くすすみ、叮嚀に腰をかがめ敬意を表しける。桃上彦は朧月夜のため何れの女性なるかを判別するに苦しみぬ。このとき女は、
『貴下は我がもつとも敬愛する桃上彦に在さずや』
と袖をもて顔を覆ひ、腰を屈め恥かしげに花のごとき優しき唇を開きたり。桃上彦は倒れむばかりに驚きいたる。この体を見てとりたる女性はしづかに、
『行成彦らは常世城の大会議において、傍若無人にしてほとんど天使長の代理たるの資格なく、諸神人環視のうちにて終生拭ふべからざる恥辱を印したり。妾はいま常世の国にありて、神政を輔佐しつつあれども、元来妾が出生の聖地なる高天原を一刻も忘れたることなし。しかるに聖地の代理として出張したる行成彦の行動は実に聖地を辱しむるものなれば、妾は悲歎に堪へず、如何にもして聖地の権威と声望とを回復せむと日夜焦慮し、遠き海山を越え繊弱き女性の足の痛みも、聖地を思ふ誠心のあまり打ち忘れ、夜を日につぎてここにその実情を貴下に愬へ、善後策を講じ、もつて国祖の神慮に叶ひたてまつらむとす、貴下の聖慮いかに』
と言葉たくみに小声に述べ立てたるに、桃上彦は驚くかと思ひきや、満面に会心の笑をもらしける。月と花とに照されたる桃上彦の笑顔をチラリとながめたる女性は、得意の色を満面に漂はしたりき。
 若き男の清き姿と、浦若き女の姿は、しばらく花の庭に無言のまま立ち停まれる折しも月は雲の戸さらりと左右に開き、あたかも秋天の明月のごとく、光り輝ける二人の顔はいやが上にもその艶麗を加へたり。天には皎々たる月影蒼空を照し、下には大地一面の花筵、その中に窈窕鮮麗なる若き男女の二人、漆のごとき黒髪を長く背後に垂れ、庭園を逍遥する有様は、天人天女の天降りたるがごとき高尚優美の面影をとどめける。
 桃上彦は若き男女の夜中に私語するを他神司に見つけられ、痛からぬ腹を探られ、思ひも寄らぬ濡衣を着せられむことを遠く慮り、女を伴なひ態と足音高く殿内に進み入りぬ。桃上彦は女性にむかひ何事かささやきながら戸の入口にて袂を分ちぬ。この麗しき女性は果して何人なりしならむか。
(大正一〇・一二・二四 旧一一・二六 加藤明子録)
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