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文献名1霊界物語 第5巻 霊主体従 辰の巻
文献名2第1篇 動天驚地よみ(新仮名遣い)どうてんきょうち
文献名3第9章 鶴の温泉〔209〕よみ(新仮名遣い)つるのおんせん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-03-20 18:42:01
あらすじ
常治彦はエルサレムに帰還する前、エデンの河から這い上がって深い谷あいにやってきた。そこには、美しい女性のまわりに多数の鶴が舞っていた。

女性の側には湯が湧き出ており、女性は身体の傷を湯で治療していたのである。また、女性をよくよく見れば、塩治姫であった。

女性は常治彦を湯に招いた。常治彦が湯に入ると、前頭部の傷はすっかりいえて、角はなくなり、立派な神格の神となった。常治彦はこの塩治姫と夫婦の契りを結んだ。

温泉で養生を続けた二人は回復し、聖地に帰ることとした。すると一羽の鶴が降りてきて、常治彦の額を突いた。するとたちまち、たけのこのような角が額に生え出した。塩治姫はなぜか、常治彦の角を口を極めて賞賛した。

二人が聖地に帰ると、門を守っていた小島別が二人をさえぎった。常治彦は怒って、打ちかかってくる小島別を角で刺し殺した。

たちまち四方から、聖地の従者たちが得物をもって、常治彦に打ちかかった。常治彦は鋭い角で応戦した。

この騒ぎを聞きつけて、常世彦は殿内の常治彦・塩治姫とともに駆けつけた。すると、常治彦・塩治姫と瓜二つの者が、従者たちと争っていた。

常世彦は常治彦・塩治姫の手をとって宮殿の奥に引き返してしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月06日(旧12月09日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年4月15日 愛善世界社版56頁 八幡書店版第1輯 538頁 修補版 校定版58頁 普及版27頁 初版 ページ備考
OBC rm0509
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本文  話は少しく後へ戻つて、常治彦は棒岩の上より顛落し、角を折られ鮮血淋漓として、全身あたかも緋の衣を纏ひしごとくなつたが、鬼武彦のためにエデンの大河に投ぜられ、その機に血はすつかり洗ひ去られ、蒼白き顔をしながら、ひよろひよろと南方の谿間指して走り入つた。折しも山と山との深き谷間に、幾千羽ともなく、鶴の群が翺翔してゐるのを見た。
 喘ぎ喘ぎ近寄つて見れば、非常に美はしき一柱の女性を中心に、あまたの鶴が舞ひ遊んでゐた。見れば透つた湯壺があつて、湯が滾々と湧出してゐた。その天然の湯槽に、女性は出没して身体の傷所を治療してゐた。よくよく見れば、自分が念頭に離れぬ塩治姫である。いま顕恩郷にて南天王と共に睦まじく酒宴の席に列してゐたはずの塩治姫は、いかにしてかかる山間に来りをれるやと、不審の眉をひそめ茫然としてその顔を見入つた。
 姫は常治彦を手招きし、
『貴下もこの湯に入りたまへ』
と合図した。常治彦は一も二もなく真赤裸となつて、この湯槽に飛入つた。不思議にも前頭部の傷はすつかり癒えて角もなく、実に神格の立派な神となつた。塩治姫は大に喜びし面色にて、ここに夫婦の契を結んだ。
 上空には相変らず幾千羽とも知れぬ鶴が、右往左往に翺翔してゐた。常治彦は自分の願望成就せることを喜び、暫くこの温泉を中心に養生をつづけ、日を追うて身体は爽快にむかひ、二人はいよいよ手を携へて聖地に帰らむことを約した。たちまち上空より鶴一羽下りきたりて、常治彦の前額部を長き嘴にて二回ばかり啄いて穴を穿つた。常治彦は驚いて、その傷口に両手を当て、痛さを堪へて俯いてゐた。痛さはますます激烈になつてきた。
 ふたたび出立を見合せ、湯槽に飛入り養生することとなつた。傷口は日に日に癒えてきた。されどその後かゆさを非常に感じた。常治彦は一生懸命に掻きむしつた。いくら掻いても、かゆさは止まぬ。つひには、痛く、かゆく、手のつけやうがなくなつてきた。たちまち筍のやうな角がまたもや両方に発生した。塩治姫はこの角の日を追うて延長するを見て、以前とは打つて変つて喜んだ。しかしてその角を撫で廻し、あるひは舐めなどして、口を極めてその角の立派なるを賞讃した。常治彦も、今までこの角を恥づかしく思つてゐたのを、最愛の妻に賞讃されて得意気になり、角の日々に立派に成長するのを待つ気になつた。
 山を越え谷を辿り、漸くにして聖地に帰ることを得た。聖地ヱルサレムの正門には、小島別白髪を背後に垂れ、薄き髯を胸先に垂らし、田依彦その他の神人を随へ、儼然として守つてゐた。このとき常治彦は、塩治姫の手を携へ、欣然としてその門を入らむとするとき、小島別は、
『曲者、しばらく待て』
と呼びとめた。二人は大に怒り、
『われはエデンの宮殿にいたり、それより種々の艱難辛苦を嘗め、漸くここに帰りきたれるを従臣の分際としてこれを歓迎せざるのみか、われに対して無礼の雑言、汝は今日かぎり門衛の守護職を免じ、根の国に退去せしむべし』
と声高に呼ばはつた。小島別、田依彦は躍気となつて顔面に青筋を立て、棒千切をもつて、
『妖怪変化の曲者、思ひ知れよ』
と打つてかかつた。常治彦の頭部の角はおひおひと成長し、二股になつてゐた。常治彦は笑つて小島別の打ち込む棍棒を角の尖端にてあしらひながら、一方には田依彦、一方には小島別の腹部を目がけて、角の尖端にてグサツと突き破つた。
 二人は腸を抉り出されそこに倒れ、
『万事休矣』
の声をしぼつた。数多の神人はこの声に驚いて馳集まり、この体を見て大いに怒り、常治彦に四方八方より、長刀、あるひは棍棒その他種々の兵器をもつて斬りつけ、擲りつけむとした。命の角はだんだんと鋭く尖り、かつ見るみる延長した。聖地はあたかも修羅の巷である。
 常世彦は侍者の急報により、常治彦、塩治姫とともに、この場に現はれた。このとき殿内に在りし常治彦も、頭角おひおひ発達して、いまここに現はれたる第二の常治彦に分厘の差なくなつてゐた。同じ姿の塩治姫の二柱と、また同じ姿の常治彦が二柱できた勘定である。
 前後の常治彦、塩治姫は互に入り乱れて、その真偽の判別はわからなくなつてしまつた。されど少しく異る点は、その衣服の模様であつた。常世彦は、この場の光景を放任し、前の常治彦、塩治姫の手を携へて、奥殿に深く姿を没した。
(大正一一・一・六 旧大正一〇・一二・九 外山豊二録)
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