顕恩郷の南には、エデン側をはさんで桃園郷という部落があった。顕恩郷の住人が蟹に変化するのに対し、桃園郷の住人は、猿のような出で立ちをしていた。
桃園郷は異常気象に見舞われて積雪・寒風吹きすさび、住人たちは飢えていた。ついに桃園郷の王は、顕恩郷を占領しようと企てた。
桃園郷の住人たちは夜陰にまぎれて顕恩郷に襲来し、果実で飢えを満たすと、鬨の声を上げて攻め寄せた。桃園王は大刀を引っさげて南天王の宮殿に暴れこんだ。
不意を突かれた南天王は桃園王の一撃に深手を負って、山中の鬼武彦の石像まで逃げて行った。
そこへ桃園郷の追っ手が迫ってきたが、鬼武彦の石像から怪しい光が発射し、強熱で桃園郷軍を追い払った。エデン河に追い立てられた桃園郷軍は、蟹と化した顕恩郷軍にさんざんに敗北した。
鷹住別の南天王は、最初の敗北と逃走で、顕恩郷の人々の信頼を失ってしまった。これはいつしか鷹住別が心を緩めて慢心し、祭祀の道をおろそかにした故であった。鷹住別夫婦は顕恩郷を飛び出して、モスコーへ逃げ帰ることになってしまった。