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文献名1霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻
文献名2第1篇 山陰の雪よみ(新仮名遣い)さんいんのゆき
文献名3第5章 抔盤狼藉〔255〕よみ(新仮名遣い)はいばんろうぜき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-04-10 14:20:57
あらすじ
美山彦は、春日姫が結婚を申し出てきたことで有頂天になって部下に式の準備を命じた。

春日姫と春姫は、美山彦をへべれけに酔わせてひっくり返らせてしまった。そして月照彦神、足真彦とともに今後の作戦を協議した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月16日(旧12月19日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月10日 愛善世界社版33頁 八幡書店版第1輯 643頁 修補版 校定版33頁 普及版15頁 初版 ページ備考
OBC rm0605
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本文  俄に館の大広間は陽気立ち騰り、酒や果物は沢山に運ばれ、木葉奴の端に至るまでずらりと席に列し、大樽や甕を中央に据ゑ、竹を輪切にした杓にて、酌みては呑み、酌みては呑み、一生懸命に謡ひ始めたり。しかして酔が廻るに連れて杓の引奪り合ひが始まり、頭を杓でこつりとこづかれ、禿頭の爺は面部と頭部とに沢山の出店を出し、次第々々に舌は縺れ、泣く奴、笑ふ奴、怒る奴、様々なり。
甲『ヤイ、皆の奴ら、けつたいが悪いぢやないか。美山彦が大将面しよつて、毎日々々、俺らを敵の末か何かのやうに扱き使ひよつて、自分ばかり酒を喰ひよつて、春日姫の膝枕に身も魂もとろかしよつて、お負けに足を揉め、手を揉めと人に嬉しいところを見せつけ、自分ばかり酒を喰つて、己らには一口でも呑めと云ひよつた事はありやしない。俺りや、いつも器を片付けるときに盃を一つ一つ舐つて香を嗅いで満足しとつたのだ。今日は春日姫にや、痩せ馬が荷を顛倒すやうにして厭やがられて居たのが、どうした風の吹き廻しやら、尼つちよの方から結婚してくれと、ぬかしよつたとか云つて、吝ン坊の美山彦が、地獄の釜の一足飛びをするやうな気に到頭なりよつて、腐りかけた酒を俺達に鱈腹呑めと云ひよるのだ、実に業腹だ。甘く見よつて馬鹿にするにも程があるぢやないか』
と腕を捲つて、自分の腹を二つ三つ拳で叩きながら、面ふくらして云ふ。
乙『大きな声で云ふな、皆の前だ。また杓で一杯も舐らして貰はうと思ひよつて、貴様の今云つた悪口を大将に告げる奴があつたらどうする』
甲『どうするも、かうするも俺らの知つた事ぢやない。春日姫は美山彦の大将が、どうかするのだらう。俺らはどうするあてもありやしないし、マア腐つた酒でも呑ンでおとなしく寝る事だよ』
丙『オイあまり座が淋しくなつたやうだ、一つ謡つたらどうだ。あのウラル彦の神さまの宣伝歌は俺らには天国の福音だ。呑めや騒げや一寸先は闇よ、闇の後には月がでるなンて甘く云ひやあがらア、俺らは酒さへありや、嬶も何も要らぬ』
丁『お前何ほど天来の福音でも、呑めぬ酒に酔へるかい。酒は百薬の長だとか、生命の水だとか云ふけれど、呑みたい酒もよう呑まずに、毎日扱き使はれて、ナイヤガラの赤い水を酒だと思ふて呑みて居ても、ねつからとつくりと酔はぬぢやないか、これを思へば悲しい浮世だ』
とそろそろ泣きだす可笑しさ。
戊『オイ、こんな目出度い場所で、メソメソ泣くやつがあるかイ』
丁『泣かいでか、今夜は美山彦が春日姫としつぽり泣きよるのだ。俺らはその乾児だ、泣くのがあたり前よ』
戊『貴様の泣くのと、春日姫の泣くのとは泣きやうが異ふ。丁度鶯の梅が枝にとまつて陽気な春を迎へて鳴くのと、鶏が首を捻られ毛を抜かれ絶命の声を張り上げて泣くのと程の相違があるのだ』
甲『この間も仇けつたいの悪い天教山の癲狂人が、そこらうちを歩き廻りよつて、照るとか、曇るとか、浮くとか死ぬとか、時鳥がどうとか、触れ歩くものだから、毎日々々地響きは仕出す、雨はべそべそと貴様の涙のやうに降りしきる。谷間の水は赤泥となつて、水もろくに呑まれやせないぢやないか、あんな奴は一時も早くどうかして、ナイヤガラの滝にでも打ち込みて仕舞ひ度いものだなア』
乙『ウン、その宣伝使か、それや今夜出てきをつた。奥の間に鯱固張て大きな目玉をむいて、生命のもはや尽きとる彦とか月照とか云ふ奴と、腹がすいて、ひだる彦とか云ふ奴が、美山彦の計略にかかつて、今はほとんど籠の鳥、あれさへやつて仕舞へば、雨も止むだらうし、地響も止まるだらう。縁起糞の悪い事をふれ廻るものだから、天気がだんだん悪くなるばかり、俺りや、彼奴たちの囀る歌を聞くと妙に頭ががんがん吐かして、胸を竹槍で突かれるやうな気がするのだよ』
戊『そこが美山彦は偉いのだ。お前達がその宣伝歌とやらを聞いて苦しむのを助けてやらうと云ふ大慈悲心から、その宣伝使をこの館に甘く引つ張り込みて、今夜は荒料理する事となつて居るのだ。マアそれでも肴に寛くり酒を呑みて夜明かしでもしようぢやないか』
と何れの奴も皆へべれけに酔ひつぶれ、碌に腰の立つものも無き有様なりける。
 奥の一間には、美山彦、春日姫は今日をかぎりと盛装を凝らし、結婚の式を挙げつつあつた。そして容色麗しき春姫が酌を勤めつつあつた。春日姫は力かぎり媚を呈して美山彦に無理やりに、面白き歌を謡ひながら酒を勧むる。美山彦は春日姫の勧むるままに酒杯を重ね、遂には酩酊の極、頭が痛み眩暈すると云ひつつ其場にドツと倒れ、雷のごとき鼾声をあげて正体もなく寝入つて仕舞つた。春姫は立ち上るとたんに長き高き酒樽に衝突し、樽は転けて美山彦の頭上に酒を滝のごとく濺いだ。美山彦は両手にて虚空を探るごとき手つきして寝返りをうち、苦しげに呻つて居る。
 春日姫は春姫を伴ひ奥殿に進みいり、月照彦天使に委細を物語り、春姫をして一室に控へたる足真彦を招かしめ、男女四柱はここに緊急会議を開きける。アヽこの会議の結果や如何。
(大正一一・一・一六 旧大正一〇・一二・一九 加藤明子録)
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