一方、船の底で旅の疲れに疲れ果て、夢を見ていたのは、鷹住別であった。鷹住別は夢の中に、妻の春日姫の姿を見ていた。宣伝の旅にやつれた妻の姿を見た鷹住別は、思わず、宣伝の使命は終わったので一緒にモスコーに帰ろう、と問いかけた。
そこにガラガラと碇を下ろす音が聞こえて、鷹住別は夢を破られた。鷹住別は岸に上陸すると、空を眺めて思わず望郷の念に駆られていた。
すると、どこからともなく『天に代わりし宣伝使。心ゆるめな、錨を下ろすな。浮世の荒波に向かって突進せよ』という声が雷のように響いた。
鷹住別は自らの心の弱さを天地に謝罪し、常世の国を横断すべく進んでいった。
さて、森林にて弘子彦と春日姫は、しばし来し方を語り合って旅の疲れを慰めあっていたが、港の方から船の出港を呼ばわる船頭の声が聞こえると、二人は心を励まして立ち上がり、名残を惜しみつつ春日姫は埠頭へと向かっていった。
弘子彦は西方指して、常世の国を宣伝すべく別れて行った。