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文献名1霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻
文献名2第2篇 常世の波よみ(新仮名遣い)とこよのなみ
文献名3第9章 埠頭の名残〔259〕よみ(新仮名遣い)ふとうのなごり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-01 21:31:20
あらすじ
一方、船の底で旅の疲れに疲れ果て、夢を見ていたのは、鷹住別であった。鷹住別は夢の中に、妻の春日姫の姿を見ていた。宣伝の旅にやつれた妻の姿を見た鷹住別は、思わず、宣伝の使命は終わったので一緒にモスコーに帰ろう、と問いかけた。

そこにガラガラと碇を下ろす音が聞こえて、鷹住別は夢を破られた。鷹住別は岸に上陸すると、空を眺めて思わず望郷の念に駆られていた。

すると、どこからともなく『天に代わりし宣伝使。心ゆるめな、錨を下ろすな。浮世の荒波に向かって突進せよ』という声が雷のように響いた。

鷹住別は自らの心の弱さを天地に謝罪し、常世の国を横断すべく進んでいった。

さて、森林にて弘子彦と春日姫は、しばし来し方を語り合って旅の疲れを慰めあっていたが、港の方から船の出港を呼ばわる船頭の声が聞こえると、二人は心を励まして立ち上がり、名残を惜しみつつ春日姫は埠頭へと向かっていった。

弘子彦は西方指して、常世の国を宣伝すべく別れて行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月17日(旧12月20日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月10日 愛善世界社版57頁 八幡書店版第1輯 651頁 修補版 校定版58頁 普及版24頁 初版 ページ備考
OBC rm0609
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本文  鷹住別は、船底に長の旅に疲れ果て夢路を辿りつつありぬ。見渡す限り浪平かな海面に、船は順風に真帆を上げつつ、東を指して進みつつありしが、漸くにして無事東岸に着きにける。
 日は西海の波に今や沈まむとする時しも、忽然として其処に、モスコーに在りしわが妻の春日姫が現はれ、
『恋しきわが夫よ』
と固く右の手を伸べて、わが右手を握りしめ俯むいて懐かしげに泣き入りにける。春日姫は、夫の後を慕ひはるばる海山を越え、艱難苦労して窶れ果てたる姿のまま何一言もいはず、涙を両眼に湛へて居るにぞ、鷹住別は心動き、春日姫の手をとり、最早わが宣伝も一通り行渡りたれば、恋しき妻と共にモスコーに帰らむと、春日姫に向ひて、
『わが使命も最早済みたり。汝は女性のか弱き身として宣伝使となるは、少しく汝が身にとりては荷重し。いざ共にモスコーに帰り楽しき夢を貪らむ』
といふ折しも、ガラガラと錨を下す音に驚き夢は破れける。
 見れば船は常世の国の東岸に安着しゐたりぬ。
 鷹住別は夢より覚め、太き息を吐きながら、とつおいつ故郷の空を振りかへり、呆然として空行く雲を仰ぎ視ながら、
『アヽあの雲はわが故郷の空より流れきたるか。思へば思へば恋しき故郷の空よ』
と両手を組み、船底深く思ひに沈む。時しも何人の声とも知らず、
『天に代りし宣伝使。心ゆるめな、錨を下すな。浮世の荒浪に向つて突進せよ』
といふ声雷のごとくに響きけるにぞ、鷹住別は直ちにわが身の薄志弱行を、天地にむかつて号泣し、かつ謝罪し、それより鷹住別は常世の国を足に任せて横断する事となりにける。
    ○
 松風わたる森林の巌に腰打ちかけて、ヒソヒソ語る男女二人の宣伝使ありき。
女『貴下は噂に高き聖地ヱルサレムの天使神国別命にましまさずや。しかるに今日のみすぼらしき御姿は何事ぞ。浮世の常とは言ひながら、御心労察し参らす』
と涙片手に優しき唇を開きければ、
男神『われは貴下の推量に違はず、歌にて申上げたるごとく、昔はヱルサレムの聖地において時めき渡る神国別命、国祖国治立の大神の御隠退に先だち、万寿山に世を隠び、遂には天教山に救はれ斯くも尊き宣伝使となり、名も弘子彦と改め、心も軽き身の扮装、萎るる花もまた逢ふ春の梅の花、一度に開く嬉しき神世を松の世の、五六七神政の宣伝使、われは却つて今日の境遇に満足するものなり』
と聞くより、女はやや耻し気に、
『アヽ実に尊き御志かな。妾が夫鷹住別も身魂も清き月照の神に救はれ、天地の道理を悟り、世の終末に近づける神人の悩みを救はむと、モスコーを後に、妾を残して何処をあてともなく宣伝に出掛け玉ひぬ。妾も女の身の夫の艱難辛苦を坐視するに忍びむやと、雲深き館を棄てて世の荒浪と戦ひつつ、此処まで来りしものの、何となく心淋しき一人旅、案じ煩ふ折柄に、アヽ勇ましき貴司の御姿を拝し、枯木に花の咲き出でしごとく悦びに堪へず。アヽわが夫鷹住別は、いづこの空にさまよひたまふか。女心の未練にも、雨の朝雪の夕、夫の身の上を思ひ出で、思はぬ袖に降る時雨、日蔭の姿のこの旅路、一目会ひたく思へども、この世を思ふ真心の、尊き墻に隔てられ、今に一目も淡雪の、春日に溶くる思ひ、果敢なき春日姫の成れの果て御覧あれ』
と流石優しき女性の、涙の雨の一雫、落つるを隠して、笑顔をつくる愛らしさ、他所の見る目も哀れなり。
 弘子彦はたちまち、春日姫が朝な夕なに、夫を慕ふ真心にほだされて地教の山に隠れたる竜世姫の身の上を思ひ浮べ、又もや忍び涙に暮れにける。このとき船守は大声に、
『オーイ、オーイ、今船が出るぞ。早く乗らぬと乗り後れるぞ。吾妻の国への船出ぢや』
と呼はる。
 この声聞くより男女二人は、何時まで話すも限りなし、名残はつきじと、われとわが心を励まし、スツクと立ち上り、春日姫は埠頭へ、弘子彦は西方指して姿を没しける。二人の宣伝使は互に見返り振かへり、尽きぬ涙の一時雨、憫れなりける次第なり。
(大正一一・一・一七 旧大正一〇・一二・二〇 外山豊二録)
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