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文献名1霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻
文献名2第6篇 百舌鳥の囁よみ(新仮名遣い)もずのささやき
文献名3第32章 瓔珞の河越〔282〕よみ(新仮名遣い)ようらくのかわごえ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-06-20 06:57:23
あらすじ
目付を追い返した乞食たちは、今の世の中に悪霊がはびこっているため、勢力ある神人らは憑依されており、偉い神様だと思ったら大間違いという有様を嘆き憤慨した。そして河を渡ってアーメニヤの向こう岸に逃げようとした。

そこへ、乞食に変装した目付が近づいてきた。乞食たちは警戒して我先にと河を渡って逃げ出した。変装した偽乞食は、逃げていく乞食たちを捕らえろと叫んでいた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月22日(旧12月25日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月10日 愛善世界社版191頁 八幡書店版第1輯 694頁 修補版 校定版189頁 普及版78頁 初版 ページ備考
OBC rm0632
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本文  目付役の姿が見えなくなつたので、ホツと安心したもののごとく、一同はヤレヤレと胸を撫で下し、
乙『アヽ危なかつたのー。すんでのことで女郎でも無いのに、わが身をウラル山の山奥に、引捉へられて行く所だつたい。本当に利己主義の強い者勝ちの世の中ぢやないか。われわれは斯んな世には住へないよ。寧そ食つて死ぬか、食はずに死ぬか、思ひきり大洪水ぢやないが、堤切つて暴れてやつたら何だらう』
 丙は、黒い目をぎよろつかせ、顎の下のむしやむしや髯を捻りながら、
『一体全体この世の中は何と思ふ。貴様らは人間の世界と思つてゐるのか。第一その点からして大間違ひだよ。八岐の大蛇といふ大きな魔や、金毛九尾といふ大魔狐や鬼の大魔の蔓延る世の中だ。さうしてその魔神共が、今の勢力ある神人にのり憑つて、いろいろの事を為して弱い者虐めをやるのだよ。それで偉い神さまだと思つたら大魔違ひだといふのだ。こんな所へ魔誤魔誤してゐると、魔かり違へばまたまた夫れウラル山ぢや。何ほど恨めしいと云つたつて仕方が無いよ。永居は恐れだ。早くこの河を渡つて対岸へ遁げろ遁げろ』
甲『魔の世界なら河の対岸にも、魔がけつからア。何うなるも皆各自の運だよ、今の奴は「運は天に在り」なんて吐しよるが運が聞いて呆れる。糞いまいましい、尻が呆れるワ。今頃はウラル彦は、沢山な白首を左右に侍らして「呑めよ騒げよ一寸先は暗よ」なんて、悟つたらしいことを云ひよつて、おまけに宣伝歌とやらを世界へ拡め、酒の税を徴る手段を考へて酒の宣伝歌を聞かぬものは踏縛つて了ふなんて、本当に乱暴極まるぢやないか。沢山物を持つてゐる奴は、呑ンだり騒いだりしとつてもよいが、朝は冷飯食つて昼間には何処の何処で戴かうやらといふ乞食の分際では、何も彼もあつたものぢやない。そんな教は沢山な財産のある奴の守ることだ。貧乏人や乞食仲間にや適用できぬごうたくだ。それでも宣伝使が通つた時は、大地に跪かされて歌を聞かされるのだ。宣伝使とやらいふ奴は瓢箪を粟島さまのやうに、腰のあたりに沢山ぶら下げよつて、一つ謡うては呑み、一つ謡うては呑みして、さうしてその歌を謹んで聞けと云ひよるのだ。若し聞かぬときは、右の手に持つてゐるあの剣で、処構はず、斬つたり突いたりするのだから堪らぬ。俺らは猫を冠つて、目をつぶつて聞いてやつて居ると、咽喉の虫奴が酒を欲しがりよつて、猫の喉のやうにゴロゴロ吐かすぢやないか。有難くも、甘くも何ともありやしない。宣伝使は好い気になりよつて、同じ事を繰返し、俺等に見せびらかしよつて、宣伝も糞もあつたものぢやない。業腹が立つて、むかついて嘔吐さうになつてくるよ。なんぼ呑めよ、騒げよといつたつて俺らのやうな乞食は、呑ンで騒ぐことはできはせぬ。酒は一滴もくれるものは無いのだもの』
丁『呑めよ呑めよといつたつて、酒を呑めと云つて居るのぢやない。何を呑むのか知れやしない。腹が減つたら水でも呑ンで騒げと云ふのか。懐に短刀いないな松魚でも呑んで騒げといふのか。まさか違うたら、泥水でも小便でも呑めと吐かすのか判りやしない。それなら宣伝歌も徹底してゐるが、呑み込みが悪いと腹が立つのぢや』
甲『貴様そら何を吐かす。口に番所が無いと思ひよつて、馬鹿なことを吐かすも程がある。貴様は大方ウラル彦の間諜だな。今帰つて往きよつた目付と何だか妙な風をしよつて、顎をしやくりよつて合図をさらしとつたやうだ。そんな事はチヤーンと此方の黒い眼で睨んであるのだ。オイ兄弟、此奴は狗だ。河へぶち込め、ぶち込め』
一同『オー、それがよからう。薩張河へ流れ勘定だ。河の水でも、どつさり呑んで、「呑めよ騒げよ一寸先は暗よ」だ。それより前に先づ吾々一統の小便や糞を呑めよ喰へよ、さうしてくたばれ』
と毒吐きながら、手足を引浚へ、カイン河へざむぶと許り投げ込みにける。
乙『オイ皆の奴、気を付け。向方見よ、向うを。また何か来よつたぜ』
丙『何が来たのだい』
乙『それ目を開けて見ろ。瓔珞さまだ』
丙『瓔珞さまて何だい』
乙『わからぬ奴ぢやな。俺等の仲間と同じ風してる奴さ』
丙『俺らはそんな立派な瓔珞のやうなものを頭に被つたことは、夢にも無いぢやないか』
乙『馬鹿、うんばら、さんばら、若布の行列、襁褓の親分、雑巾屋の看板、けつでも喰へと云ふやうな襤褸の錦を御召し遊ばした天下のお乞食様だ。併し彼奴は本当の吾々の仲間と思つたら間違ひだ。きつと狗だよ。気を付けよ』
丙『狗だといふが些とも往なぬぢやないか。だんだん此方へ寄つて来居るぞ』
戊『来をる来をる。こいつは怪しい。遁げろ にげろ』
と瓔珞さまの一隊は、尻ひつからげ河を流れ渡りに、ザブザブと音をさせながら、対岸の樹のしげみに姿を隠しける。
 この体を見て今来かかつた偽乞食は、
『オーイオーイ。誰でもよい、今そこへ往く奴を一人でも捕へたら褒美をやるぞ』
と対岸から叫びゐたりける。
(大正一一・一・二二 旧大正一〇・一二・二五 外山豊二録)
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