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文献名1霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻
文献名2第8篇 五伴緒神よみ(新仮名遣い)いつとものおのかみ
文献名3第43章 猫の手〔293〕よみ(新仮名遣い)ねこのて
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-01 12:25:05
あらすじ
二柱の宣伝使はローマを目指して進んできた。おりしも、郊外の村(御年村)では農民たちが田植えの真っ最中であった。

農民たちは忙しく働きながら、強者に搾取される自分たちの境遇を嘆き、また最近現れた三五教の教理について、話し合っていた。三五教は皇祖教である、というのである。

そこへ『神が表に現れて 善と悪とを立て別ける』と大声に呼ばわりながら、二人の宣伝使がやってきた。
主な人物 舞台御年村 口述日1922(大正11)年01月24日(旧12月27日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月10日 愛善世界社版258頁 八幡書店版第1輯 718頁 修補版 校定版260頁 普及版107頁 初版 ページ備考
OBC rm0643
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本文  遠音に響く暮の鐘  五月の空の木下闇
 空に一声時鳥  黒白も分ぬ夜の旅
 ローマに通ふ広道別の  貴の命の宣伝使
 心にかかる故郷の  空振り返り降る雨の
 雲路を別の宣伝使  東を指して進み行く
 血を吐く思ひの杜鵑  闇で暗せよ暫くは
 やがて三五の月の顔  元照別の司の在す
 ローマの都も近付きて  東の空に茜さし
 変る変ると啼き渡る  明けの烏の右左
 頭上に高く飛び交ひて  旅の疲を労るか
 その啼声も五月雨に  湿り勝なる明の空
 かあいかあいと鳴き渡る  今日は珍し雨雲の
 帳を開けて天津日の  長閑な影を地に投げて
 前途を照す如くなり  前途を照らす日の神の
 恵みの露に村肝の  心の空も晴れ渡る
 渡る浮世に鬼は無し  鬼や大蛇や狼の
 勢猛く荒れ狂ふ  ローマの空も久方の
 天津御神や国津神  撞の御柱大御神
 神の御かげを頼りとし  寄せくる曲を言向けて
 美し神世を経緯の  綾と錦の機を織る
 唐紅の紅葉の  朝日夕日に照り栄ゆる
 色にも擬ふ埴安の  彦の命や埴安の
 姫の命の織りませる  百機千機の御教は
 天の河原を中にして  栲機姫や千々姫の
 心も清き稚桜姫の  神の命の御心ぞ
 三五の月の御教を  残る隈なく天が下
 四方の国々布いて行く  心の色ぞ美しき
 心の花ぞ馨しき。
 降りみ降らずみ雲に包まれたる五月雨の空も、今日は珍しくも天津日の神は、東天に円き温顔を現はし、下界に焦熱き光輝を投げ給ひける。
 二人の宣伝使は、ホツと息吐きながら宣伝歌を謡ひつつ、ローマを指して膝栗毛に鞭うち進み行く。ここはローマの町外れの二三十軒ばかり小さき家の立ち列ぶ御年村といふ小村なりける。
 村の若者五六人、路傍に蓑を敷き腰うち掛けながら、雑談に耽り居る。田植時の最中と見えて、町外れの田舎の田園には、蓑笠の甲冑を取りよろひ、手覆、脚絆の小手脛当、三々五々隊伍を整へ、節面白く田歌を唄ひながら、田植に余念なき有様なり。
 見渡す限り、牛や馬の田を鋤く影、老若男女の右往左往に活動する有様は、実に猫の手も人の手といふ農家の激戦場裡ともいふべき光景なりける。
甲『アヽ斯うして夜も昼も碌に眠ることもできず、汗水垂らして働いて田は植ゑて居るものの、また去年のやうに大水が出て流されて了ふのぢやなからうかな。二年も三年もあんなことが続いては、百姓もたまつたものぢやない。俺はそんなこと思ふと腕が倦うなつて、手に持つ鍬も、ほろが泣いて落ちさうだ。百姓は実業だなんていふ者があるけれど、百姓ぐらゐ当にならぬものは無いぢやないか。せつかく暑いのに草を除り肥料を施り、立派な稲ができたと思へば、浮塵子がわく。肝腎の収穫時になると、目的物の米は穫れず藁ばつかりだ。本当に草喜びとは此のことぢやないか。それも自分の田地なら未だしもだが、穫つた米はみな野槌の神さまの所へ納めねばならず、納めた後は、後に残るものは藁と籾の滓ばつかりだ。アーア火を引いて灰残る。灰引いて火残る。さつぱり勘定が合はぬ。蚯蚓切りの蛙飛ばしも厭になつちまつた、割切れたものぢやない。四捨五入も六七面倒くさい約らぬものだ。ローマの都の奴は、暑いの涼しいのと云ひよつて左団扇を使つて、「呑めよ騒げよ一寸先は暗よ」なんて気楽さうに田の中の蛙のやうに、ガヤガヤ吐かして一汗も絞らずに、俺らの作つた米を喰ひよつて、米が美味いの味無いの、あらが高いの低いのと、小言八百垂れよつてな。おまけに垂れた糞まで俺らに掃除をさせよつて、土百姓、土百姓と口汚く、口からごふたくを垂れるのだ。誰だつてこんなこと思ふと、本当にごふが湧かア。これが何ともないやうな奴は、洟たれの屁古たれの、弱たれの馬鹿たれの、ばばたれの……』
乙『オイ、貴様もよく垂れる奴ぢやね。さう小言を垂れるものぢやない。誰もみな因縁ぢやと諦めて辛抱しとるのぢや。土百姓が都会の人間になつて、じつとして、うまい商売をして都会の人の真似をしようたつて、智慧がないから駄目だ。お玉杓子は、小さいときは鯰に似て居るが、チーイと日が経つて大きくなりよると、手が生え足が生えて蛙になつて了ふ。どうしても蛙の子は蛙だ。そんな下らぬ馬鹿を垂れるより精出して、糞でも垂れたが利益だよ。肥料になとなるからな。どうせ貴様たちは米を糞にする製糞器だ。人間は米を食つては糞にし、糞を稲にやつては米を作り、その米をまた食つては糞にし、糞が米になつたり、米が糞になつたり、互に因果の廻り合ひの世の中だ。これでも一遍芝を被つて出直してくると、都会の奴のやうな結構な生活をするやうになるのだ』
丙『さうか、そりや面白い。よい事を聞かして呉れた』
と言ひながら、大鍬を握るより早く路傍の芝草を起して頭に被つて、
丙『オイ、芝を被つて出直してきた。その後はどうしたら都会の人のやうになるのだ。教へてくれぬか』
乙『馬鹿、芝を被るといふ事は死ぬといふ事だ』
丙『死ぬのが芝を被るつて合点が往かぬぢやないか』
乙『マアー、そんな事はどうでもよい。この百姓の忙しい、猫の手も人の手といふ時に雑談どころじやない。先のことは心配するない。人間は今日の務めを今日すればよい。明日の天気を雨にしようたつて、日和にしようたつて人間様の自由になるものぢやない。みんな神様の為さるままだ。この間も三五教とかの宣伝使とやらが出てきてな、百姓を集めて六ケ敷い説教をしてゐたよ。その中にたつた一言感心したことがある。吾々土百姓はその心で無ければ、今日の日が務まらぬ。流石は宣伝使だ、偉いことを言ふよ』
甲『どんな事を言つたい』
乙『天機洩らす可らず。また雨が降ると困るからな。早苗饗休みに、ゆつくりと聞かしてやらう』
甲『一口ぐらゐ今言つたつて仕事の邪魔にもならないぢやないか。一寸先の知れぬ弱い人間のざまで、早苗饗の休みもあつたものかい。物いふ間も無常の風とやらが俺らの身辺をつけ狙うとるのぢや。その風が何処からともなしに、スツと吹いたが最後、寂滅為楽頓生菩提だ。いちやつかさずに言つてくれ。後生のためだ』
乙『ほんなら言うたらう。俺は宣伝使だぞ』
甲『にはか宣伝使様、蚯蚓飛ばしの蛙切り、糞垂れのはな垂れ、頤ばつかり達者で百姓を嫌うて一寸も宣伝使だ……』
乙『要らぬことを垂れない、はな垂れ奴。抑も三五教の教理は皇祖教だ』
甲『皇祖教つて何だい、そんな事を吐かすと、それそれ警察から不礼罪として訴へられるぞ』
乙『マア先まで聞けい。
 この餓鬼は蚯蚓かあんこか虱か蚤か 今日も明日もと糞垂れるなり』
甲『馬鹿、何吐かすのだい。貴様聞き損ねよつて、矢張り蛙切りの伜は蛙切りだ。困つたものだね。俺が云ふてやらう。ヱヘン。
 この秋は水か嵐か知らねども 今日のつとめに田草とるなり
明日の事はどうでもよい。今日の事は今日せいと宣伝使が吐かすのだ。頼りない宣伝使だ。俺はもう厭になつてしまつた。アーア、また一汗絞らうかい』
と甲は立ち上つた。つづいて四五の若者も蓑笠を身に纏ひ、水田の中へバサバサと這入つて了つた。
『神が表に現はれて 善と悪とを立てわける』
と大声に呼ばはりながら、二人の宣伝使が此方に向ひ進みくる。
(大正一一・一・二四 旧大正一〇・一二・二七 外山豊二録)
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