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文献名1霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻
文献名2第8篇 五伴緒神よみ(新仮名遣い)いつとものおのかみ
文献名3第44章 俄百姓〔294〕よみ(新仮名遣い)にわかひゃくしょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-09-12 11:06:32
あらすじ
広道別と雲路別は、百姓たちが忙しく働いている様を見て感心し、また感謝のためにひとつ農作業を手伝おうということになった。

農民の中に喧嘩を始める者がいたが、そこへ宣伝使が仲裁に入り、農作業の手伝いを申し出た。

広道別と雲路別は汗みどろになって、田植えが済むまであちこちを手伝いまわった。このことが百姓たちに感謝され、早苗饗祭まで、田んぼの中での生活を続けた。

早苗饗祭では宣伝使たちも招かれて、餅を振舞われた。このとき、二人の宣伝使は三五教の教理を説き諭した。このため、この村一村は神の恩恵に浴することになった。
主な人物 舞台御年村 口述日1922(大正11)年01月24日(旧12月27日) 口述場所 筆録者井上留五郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月10日 愛善世界社版267頁 八幡書店版第1輯 722頁 修補版 校定版269頁 普及版111頁 初版 ページ備考
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本文  狭田長田、高田窪田に三々五々隊伍を整へ、鋤の後均しする男、声面白く唄ひながら苗を挿す早乙女の姿の勇ましさ。
 二人の宣伝使はこの光景を見てゐたりしが、広道別は開口一番、
『嗚呼立派なものだ。この光景を見ると、まるで天国のやうな思ひがするね。世界中の人間が、かうやつて一生懸命に働かうものなら、世の中に一つも苦情は起りはしない。吾々は宣伝使が辛いと思つてをるが、この百姓の働きを見れば、別にどんな苦労艱難しても足りないやうな心持がする。粒々みな辛苦になつた米を吾々は頂いて、神様や社会の恩に浴し、手厚い保護を受けながら、御道の為だの、国の為だのと云つて、宣伝使面を提げて歩いて居るのは、実にお百姓に対しても、天の神様に対しても、恥かしいやうな気がする。一つ吾々は冥加だ、百姓に頼んで手伝はして貰ひたいものだナア』
 雲路別天使も、
『なるほどそれは結構だ。一つ掛け合つてみようかな』
と覚束なげに首を傾けたりける。
田男甲『アーア、お百姓さまも随分苦しいね。オヽ、吾輩はモヽモウ倦がきた。アー嫌いや』
と溜息をつく。
乙『なンだい。烏の案山子のやうに田の中に立てつて、大きい口開けよつて、欠伸ばかり為よつて、倦がきたなンて、何とぼけてゐるのだい。立てつて夢みる奴があるかい。秋が来りやお米が穫れて結構だが、まだ夏の最中だぞ。泥水なと掬つて、手水でも使へ。貴様のやうに立てつてをると、空の鳶奴が糞引つかけるぞ。案山子野郎奴』
甲『猫の手も人の手なンて、なンぼ忙しいといつて、人間の手を猫の手にしよつて……』
乙『さうだから手水を使へといふのだ。昨日も雨が降るといつて、俺ンとこの三毛が唾をつけては自分の顔をなでて手水使うてをつた。貴様の手は猫で結構だ』
 甲は怒つて、携へ持つた鍬を振り揚げ、泥田を力かぎりびしやつと打ち叩いた。その途端に泥水は乙の顔にどさりとかかつた。乙は怒つて、
『貴様なにをする』
といひながら、又もや鍬を振り揚げて、甲の方めがけてぴしやつと泥田を打つた。泥水は甲の顔に、嫌といふほど飛びかかれば、
甲『オイ、喧嘩か。喧嘩なら俺ら飯より好きだ』
と泥田の中に立つて、両手に唾しながら四股踏み鳴らし、
『サア来い』
と大手を拡げる。乙は負けぬ気になり、
『己れ田吾作見違ひするな。虎も目をふさぎ爪を隠してをれば、猫だと思ひよつて、コラ、この虎はんの腕力を見せてやらう』
といふより早く、節くれだつたり、気張つたり、仁王の様な瘤だらけの腕を捲つて、泥田の中にて角力をはじめた。数多の百姓は、一時に仕事を止めて、
『オイ、田吾待て待て、喧嘩なら山でせい』
と四方八方より走り寄る。田吾作は一生懸命に逃げ出す。虎は追ひかける。丙は虎の蓑を引つつかみ、
『逃げる奴を追ひかけるに及ばぬ、降参した奴は許せゆるせ』
虎公『杢兵衛の知つたことかい。貴様俯向いて蛙飛ばしが性に合ふてゐらア。俺をなんと心得てをる。丑の年に生れた虎さまだぞ。丑寅の金神さまぢや。相手になつたら祟るぞ』
と眼玉を剥いて呶鳴りつけた。二人の宣伝使は思はず知らず、田の中へ飛び込み、
『マアマア、丑寅の金神さま、どうぞ穏かにお鎮まりを願ひます。私が貴方に代つて御手伝をさして頂きますから、どうぞ貴方はお疲れでせうから暫くお休みください』
虎公『どこの何者か。百姓のやうなえらい仕事は、どうしてもよう宣伝使、貴様たちは気楽相に「飲めよ騒げよ一寸先ア暗だ」なんぞと吐かして、気楽相に歩く風来者だらう。一遍百姓の辛い味も知つたがよからう。サア、この鍬を貸してやらう、これで泥を均すのだ、判つたか。アヽ俺も休みたいと思つてをつたとこへ、妙な奴が降つてきよつたものだ。オイここに田吾の鍬もあるわ。丁度合うたり、叶うたり、神妙にやつてくれ。御褒美には麦飯の握飯でも、一つや半分は振れ舞つてやるからな』
 二人の宣伝使は何事もただ「ハイハイ」といつて、田植の手伝ひを、汗みどろになつて行つて居た。さうしてその翌日も、その翌々日も田植の済むまで、彼方此方を手伝ひ廻つた。
 この事が百姓仲間に感謝されて、たうとう早苗饗祭まで水田の中の生活を続けたりける。
 早苗饗祭には、田植の無事終了を祝するため村中の老若男女が集まり、団子や餅を搗きて祝ふ。
 この時に二人の宣伝使も招かれて此席に列し、三五教の教理を説き諭したれば、これがためこの一村は、全部神の恵に浴する事となりける。
(大正一一・一・二四 旧大正一〇・一二・二七 井上留五郎録)
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