日の出神ら三神は、腰を抜かして泣き叫ぶ豆寅を置いて、宣伝歌を歌いながらどんどんと先へ進んでいってしまった。
闇の中で、豆寅をからかう歌声が聞こえ始めた。豆寅は聞き覚えのある声に呼ばわった。田依彦は火打ちを取り出して枯れ枝に火をつけると、ようやく一同の顔が現れた。
しかし折からの烈風に火は燃え広がり、全山を焼き尽くすほどに勢いになってしまった。日の出神一行はこの山火事に驚いて引き返してきた。
このとき、山上を登ってきたのは、黄金山の三五教の宣伝使・国彦の三男・梅ケ香彦であった。梅ケ香彦は、満身の力を込めて伊吹戸主神に祈願をこらし、燃え広がる火に向かって息を吹きかけた。風はたちまち方向を転じて、ぴったりと消えうせた。
夜が明けると、山の八合目以下は全部灰の山になってしまっていることがわかった。焼き出された山麓の住人たちは田依彦たちを見つけて取り囲み、犯人を火あぶりの刑に処すると宣言した。
豆寅や田依彦たちが住人たちに責められているところへ、日の出神一行が戻ってきた。日の出神は、豆寅たちを山麓の酋長に預けて、焼けうせた人々の家を再建させた。豆寅は久々能智と名を与えられた。
そして、梅ケ香彦の功労を賞して、風木津別之忍男と名を与えた。日の出神、大戸日別、天吹男、風木津別之忍男の四柱は山を下り海を渡り、そこで別れて東西南北にいずこともなく宣伝使として進んで行った。