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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第4篇 鬼門より竜宮へよみ(新仮名遣い)きもんよりりゅうぐうへ
文献名3第18章 海原の宮〔318〕よみ(新仮名遣い)うなばらのみや
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグニユージランド(ニュージーランド) データ凡例 データ最終更新日2020-05-10 01:07:55
あらすじ
ニュージーランドの沓嶋は、人の上陸を禁じた島である。ただ、飲料水を取るために船が寄港したのであった。

日の出神は、二柱の宣伝使を従えて上陸し、海原彦神の鎮まる宮に詣で、海上の無事を祈願した。

船中で酒を飲みながら四方山話にふけっていたのは、大台ケ原で山を焼いた、田依彦、時彦、芳彦であった。時彦を芳彦は酔って喧嘩を始めた。そこへ日の出神が戻ってきた。

田依彦は、大台ケ原で豆寅の奴扱いにされてつらくて堪らないので、日の出神を追ってやって来たことを告げ、立派な名を頂戴したい、と申し出た。三人のおかしなやり取りに、日の出神も苦笑している。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月31日(旧01月04日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版109頁 八幡書店版第2輯 74頁 修補版 校定版115頁 普及版47頁 初版 ページ備考
OBC rm0718
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本文  船は漸くニユージランドの沓島の港に着きぬ。この島は人々の上陸することを禁じられありき。唯この島より湧き出づる飲料水を船に貯ふる為に寄港したるなり。
 日の出神は、天津祝詞を奏上し、且つ宣伝歌を歌ひながら、二人の宣伝使を伴ひ上陸し、海原彦神の鎮まります宮に詣で、海上の無事を祈願し、風波の都合にてこの島に一月許り避難する事となりにける。
 船中の人々は無聊に苦しみ、又もや珍らしき話を互に始め出し、国々の自慢をなしゐたり。
 中に二三の色黒き大男と、顔の細長く脊の高き大の目を剥ける男と、少しく脊の低き痩顔の三人の男が、チビリチビリと酒を呑みながら話に耽り居る。
『おい、時彦、あんまり酒を喰うと大台ケ原に出会した日の出神が乗つとるぢやないか、見付けられたら大変だぞ』
『芳彦、構ふない。今、日の出神は山へ上つて行つたぢやないか。その間に精出して貴様も呑め、俺も呑むのだ。おい、田依彦。そンな大きな目ばつかりギロつかさずに呑め呑め』
『貴様規則を破ると、俺が承知せぬぞ。俺は酒は香ひを嗅ぐのも嫌ひだのに、両方から俺を困らせようと思ひよつて、また酒を喰ふのか。今度こそは日の出神さまに言うてこます。この長い海の上をアタ世間の狭い、酒を喰ひたいものだから、名乗も上げずに、何時も俯向いて顔を隠して貴様だけなら好いが、俺まで俯向かせられて堪つたものかい』
時彦『業が湧くぢやないかい。若い男と女奴が海に飛び込みたり、上つたりしよつてな、終には気の良い宣伝使を、ちよろまかして夫婦になるなンて、馬鹿にしとるじやないか。俺らは遥々とこの波の上を、常世へ行くのも、ウラル彦さまの乾児となつて、甘い酒を鱈腹呑まして貰うためだ。国の御柱の神さまが根の国とかへ遁げて行つたと云つて、宣伝使とやらが騒いでゐるが、根の国とか、夜見の国とか云ふのは、常世の国のことだい。きつと酒に浸つて酒池肉林といふ、贅沢三昧を遊ばして御座るのよ。俺らもその酒池肉林に逢ひたさに、可愛い女房を捨てて行くのぢやないかエーン』
 田依彦は丸い目を剥き出し、口を尖らせ、
『貴様はいよいよ怪しからぬ奴だ。常世の国に稚桜姫命が現はれ遊ばして、神政を再び御開き遊ばす。夫れに就て昔の竜宮の家来は、元のごとくに使うてやらうとおつしやるのだから、一時も早う行かうじやないかと、俺を此処まで誘ひ出しよつたのは嘘だつたな』
時彦『今頃に貴様嘘に気が付いたのかい。田依ない奴ぢや。夫れで頼り無い彦と皆が云ふのだよ。頼りに思ふ女房を玉を奪られた玉彦に玉なしにされて其上に玉を奪られたこの時彦に、魂を奪られて何の態。貴様の性念玉は気の毒ながら腐つて居るよ。併しなンぼ腐つて居ても仕様が無い。貴様と一緒にかうして暮さにやならぬ腐れ縁だもの』
 田依彦は、
『何、馬鹿吐かす』
と云ふより早く鉄拳を固めて、時彦の横面をポカンとやる。
 時彦は酒が廻り、舌は縺れ、足はひよろひよろなりき。口ばかり達者なるが、身体の自由は一寸も利かぬ。船の人々は、
『喧嘩だ喧嘩だ』
と総立になつて眺めてゐる。日の出神は宣伝歌を歌ひながら、海原の神の宮を後にして、この船に向つて帰りきたる。
 時彦、芳彦は蝸々虫のやうに縮まつて、船の底に平太ばりぬ。田依彦は、むつくと立上り、
『もしもし日の出神様、私は田依彦であります。大台ケ原で御別れ致し申しましてから、豆寅は久々能智と云ふ立派な御名を頂戴して、大屋毘古と一緒に家造りをやつて居ります。それはそれは偉い鼻息で、私らは奴扱ひにされて堪りませぬので、たうとう貴下の後を慕つて参りました。何卒私にも結構な名を命けて下さい。何時までも田依彦でも頼るところがなければ仕方がありませぬ』
と、目をギヨロギヨロさせながら頼み入る。
『あゝさうか。夫れに相違なければ感心な男だ。しかし其処に平太ばつて居る二人は、時彦と芳彦では無いか。頻りに、酒の香ひがするなア。その徳利は誰のだ』
『ハイ、これはトヽヽヽヽトヽヽヽヽトントもう解りませぬ。トキドキこンな事があります』
『それは芳彦のじやないか』
『ハイハイ、田依彦はヨヽヽヽヽヨヽヽヽヽヨソの人かと思ひます。ヨヽヽヽヽ酔うて居ります』
『なンだ貴様は、俄に吃になつたのか』
『ハイ、ドヽヽヽヽドヽヽヽヽドウもなりませぬ。時や、芳が私の云ふことを聞かぬものだから、私も共々にイヤもう何うもかうも申上げやうはありませぬ。何卒神直日に見のがし、聞のがして下さいませ。併し、此奴は燗直日で無うて、冷酒で呑ンでゐます。私も側に居つて、貴下に見つかりやせぬかと思ひまして、ヒヤヒヤアブアブしとりました。私は性来の酒嫌ひですから、一つも呑みませぬ。時彦や、芳彦は、たとひ何うならうとも私だけは赦して下さい。日の出神さま』
『馬鹿言ふな、貴様だけが助かつたら好いのか』
『イーエ、成る可くは貴様も、時も、芳も救けて貰ひたいものです。おい時、芳、面を上げい。日の出神さまだぞ。目から火の出るやうな目に一遍逢はされて見い、酒も酔も醒めるだらう。今なんと吐かした。国の御柱の神さまは、常世の国へ酒呑みに行かつしやつたなンて云うただらう』
 日の出神は微笑しながら、
『好い加減にせよ。今船が出る。船の中で悠久と油を搾つてやらうかい』
 船は又もや錨を捲き揚げ、順風に帆を上げて竜宮島さして進み行く。
(大正一一・一・三一 旧一・四 外山豊二録)
(第一三章~第一八章 昭和一〇・二・二三 於徳山 王仁校正)
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