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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第4篇 鬼門より竜宮へよみ(新仮名遣い)きもんよりりゅうぐうへ
文献名3第19章 無心の船〔319〕よみ(新仮名遣い)むしんのふね
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-05 17:46:07
あらすじ
船は出港し、竜宮島に向かって進んでいく。暗礁が点在する難路である。日の出神は海上の無事を、沫那岐、沫那美の二神に祈りつつ、宣伝歌を歌った。

時彦と芳彦は、しきりに酒を飲みたがるが、田依彦はそれをたしなめていた。船中には、小声でウラル教の宣伝歌を歌う者がある。

時彦と芳彦はその歌を聞いて酒が恋しくてたまらなくなり、踊り出す。田依彦は二人を鉄拳で張り飛ばした。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年01月31日(旧01月04日) 口述場所 筆録者桜井重雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版115頁 八幡書店版第2輯 76頁 修補版 校定版121頁 普及版50頁 初版 ページ備考
OBC rm0719
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本文  船は纜を解いて、国治立大神の御冠になりませる竜宮島に向つて進み行く。暗礁点綴の間、何時船を打破るかも知れぬ難海路なり。日の出神は海上の無事を沫那芸沫那美の二神に祈りつつ、又もや宣伝歌を歌ひたまふ。
『国の御祖とあれませる  国治立大神は
 蓮華台上に現はれて  その御冠をとりはづし
 海原目がけて投げ給ふ  御魂は凝りて一つ島
 冠島となりにけり  冠島は永遠に
 鎮まりゐます豊玉姫の  神の命や玉依姫の
 貴の命の御恵みに  御船も安く進み行け
 荒浪猛る海原も  闇より暗き世の中も
 朝日夕日の照り映えて  神の御魂の凝りて成る
 天と地との大道の  教を開く宣伝使
 日の出神と現はれて  恵を頭に冠嶋
 天地をまつる祝姫  辛き憂き世を面那芸の
 神の御心に憐れみて  常世の国に恙なく
 渡らせ給へ天津神  神伊弉諾の大御神
 月の大神野立彦  野立の姫やあら金の
 土を守らす要の神  浪路を守る綿津神
 常世の闇を晴らせかし  常世の闇を晴らせかし』
と、歌ひつつ進み行く。田依彦は、
『オイ、時彦、早く日の出神様にお詫をせぬか。「一生お酒は飲みませぬ。目出度い時に限つてお神酒を頂かして貰ひます」と言つて、お辞儀をせぬかい。芳彦貴様もその通りだぞ』
時彦『俺アもう雪隠の火事だ。やけくそだ。嬶アよりも飯よりも好きな酒を止めるなら、誰がこンな常世の国へ行くものかい。アヽ飲みたい飲みたい』
芳彦『時彦、貴様は如何しても改心できぬのかなア、困つたものだよ』
時彦『貴様も改心すると吐してから、一体何年になると思ふ。八尋殿の酒宴に、酔ひ潰れて、竹熊の計略に罹り、イの一番に玉を奪られて、それからと云ふものは、アヽ酒は慎まねばならぬ、俺は酒で縮尻つたと吐かして、毎日日日蒼い顔して、小さくなつてゐたのも、僅かに二月か三月、ソロソロ地金をほり出して、今の今まで酒を喰つてよい程酔うて、舌もロクに廻らぬやうになつた上に、俺は改心したもないものだ。また酔が醒ると、貴様の喉がヂリヂリと焼きついて、太い腹の中から結構な副守護神が飛び出して、「オイ芳彦、酒は飲みてもヨシ彦ぢや、規則は破つてもヨシ彦、飲めよ騒げよヨシ彦、一寸先あ暗でもヨシ彦、暗の後から月が出りや尚々ヨシ彦だ」と吐してな、勧めるのだろ。そこで貴様の喉は焼けるし、元から口汚い、口卑しい性来だから、何でもヨシヨシと吐かして又しても食ふのだ。今一寸のあひだ改心したつて、何にもなりやしない。改心するなら、万古末代変らぬやうに改心せい……俺らはそんな柔弱な事は嫌ひだ。一生涯酒だけは改心せぬ心算だよ』
田依彦『エヽ貴様たちは仕様のない奴らだナ。何でそンな辛い、えぐい物が好きなのだい。貴様も最前船客の言つてゐた雪隠の蟲か蓼喰ふ虫の仲間だナ』
時彦『オイオイ、よい加減にせぬか、日の出神様に聞えるぞ』
 田依彦は大きな声を出して、
『聞えるやうに云ふのだ。如何しても止まぬか、ウラル彦の処へどうしても行きたいか』
と故意と大声に呶鳴り立てる。時彦と芳彦は両方の耳を閉いで縮こまりゐる。
田依彦『貴様は自分の耳を押へて何をするのだい』
時、芳『日の出神に聞えぬやうに、蓋してるのだい。貴様があまり大きな声を出すからナ』
田依彦『耳を蓋して鈴を盗むやうな馬鹿な真似をしたつて、日の出神さまの耳にはよく分つてるぞ。ソレソレこつちを今向いて恐い顔してゐらつしやる。綺麗、サツパリと改心すると吐せ』
 この時、傍の船客のなかに幽かな声を搾つて、
『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ  暗の後には月が出る
 とかく此の世は色と酒  酒が無ければ世の中は
 面白可笑しく暮せない  泣いて暮すも一生なら
 笑つて暮すも一生ぢや  一升徳利首に懸け
 二生も三生も夫婦ぢやと  誓うた女房も何のその
 お酒は私の女房ぢや  酒より可愛妻あろか
 酒より甘いものあろか  酒を嫌ひと吐す奴
 変チキチンの馬鹿者か  この世に生れて来た上は
 酒と肴と心中して  死ンで地獄へ落ちたとて
 酒の嫌ひな鬼はない  恐い鬼めに徳利を
 見せてやつたらニーヤリと  忽ち相好を崩すだろ
 この世もあの世も神の世も  酒でなければ渡られぬ
 お神酒あがらぬ神はない  酒を嫌ひと吐す奴
 神には非で狼か  顔色悪い貧乏神
 シミタレ神の腐れ神  日の出神とはそりや何ぢや
 酒が無くては日が照らぬ  肴無くては夜が明けぬ
 ドツコイシヨのドツコイシヨ  ドツコイシヨのドツコイシヨ
 トツクリ思案をして見れよ  さした盃やクルクル廻る
 廻る浮世は色と酒  ドツコイシヨのドツコイシヨ』
と、小声に歌ひ出したるものあり。
 時彦、芳彦は耐らなくなり、情なささうな声を出して、
時、芳『あゝア、酒は止めなら止めもしよ  飲まぬとおけなら飲みもせぬ
 それでも天地の神さまは  お神酒あがるが俺ア不思議
 酒を飲むのが悪いなら  俺はこれからサツパリと
 改心いたして神酒を飲む  改心いたして神酒を飲む』
と調子に乗つて歌ひ始め、踊り狂ふ。
 田依彦は眼を丸くし、又もや鉄拳を振つてポンポンと続け打ちに二人の横面をイヤといふほど喰はしける。
 無心の船はこの囁きを乗せてドンドンと竜宮島指して進み行く。
(大正一一・一・三一 旧一・四 桜井重雄録)
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