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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第8篇 一身四面よみ(新仮名遣い)いっしんしめん
文献名3第44章 福辺面〔344〕よみ(新仮名遣い)ふくべづら
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-06 19:40:40
あらすじ
一同は突然聞こえた宣伝歌に肝をつぶしている。蚊取別がこのすきに逃げようとするのをまた住民たちに捕まり、腰の酒の入ったひょうたんを割られて酒びたしになってしまった。

するとまた闇の中に宣伝歌が聞こえ、酒は常世の国の少彦名神様が醸した神酒なので、少しはほどほどに飲めよ、と諭す。蚊取別はこの宣伝歌に、ウラル教の加勢が来たと勘違いして、勢いづいた。

住民たちは恐れをなして逃げてしまった。後には、蚊取別は一人威張り散らしている。

そこへまた面那芸の宣伝歌が聞こえてきた。蚊取別はこの歌を聞いてにわかに醒め、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月02日(旧01月06日) 口述場所 筆録者井上留五郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版267頁 八幡書店版第2輯 130頁 修補版 校定版277頁 普及版113頁 初版 ページ備考
OBC rm0744
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本文  思ひがけなき藪から棒の宣伝歌に、一同は肝を潰し、キヨロキヨロと四辺を見廻したれど、それきり何の声もなければ、群衆は又もや口々に喋りはじめけり。
『今の声は何だらうな。大変に涼しい、力のある、儼として犯す可からざる、荘重なる、立派なる、厳格なる』
『オイ貴様、同じことばつかり並べよつて、訳の判らぬ奴だな。厳格だの、荘重だのと、何の事だい。貴様も蚊取別の仲間だナ』
『黙れツ。貴様のやうな不分漢に、判つてたまるかい』
『おい、蚊取別が逃げるぞ逃げるぞ。皆気を付けぬかい』
 蚊取別は、この声に驚きて振りかへり、止まつた蚊を敲くやうな手つきをして、自分の顔をぴしやりと打ち敲き、猫のやうに右の手を、口の辺りにちよこなんと据ゑながら、左の手に、落つる涙を拭ひ、蚊の鳴くやうな声を出して、
『皆のお方、どうぞ赦して下さいませ。その代りにこのお酒を飲まして上げます』
『馬鹿な奴ぢやな、酒がいかんと云うて吾々は、貴様と談判をして居るのだ。吾々は同じ人間だ。酒と○○と女の嫌ひな奴は、三千世界にありやしないよ。それでも吾々は三五教の教を守つて、好きな酒もよう飲まずに辛抱してゐるのだ。ただ神様の御神酒を頂くばかりのことだ。貴様のやうに粟嶋さまの化物のやうに腰が重たいほど瓢箪を吊りよつて、世界を酒で乱さうとしても、筑紫の国に限つて、貴様らに乱される人間は一人もゐないのだ』
『ソヽヽそれはごもつとも、思ひは同じ酒の味、酒の嫌ひな人間が、広い世界にあるものか、酒は生命の親ぢやぞい』
『渋太い奴だ、こやつは酒に魂を腐らしてけつかる。何と云うても判らぬ奴だな。おい蚊取別、俺の前でその瓢箪を皆空にして了へ』
 蚊取別は耳を少し左方に傾けながら、右の手に額をぴしやりと打ち、
『貴方は今かんとり酒とおつしやつたが、瓢箪を火にかけて燗をする訳にも行かず、どうした拍子の瓢箪やら』
『おいおい皆の者、此奴は酒に喰ひ酔うて俺らを肴にしよつて、いい気になつて玩弄にしよるのだよ。俺らが蚊取別を虐めた積りで、却つて蚊取別に管を巻かれて虐められて居るのだよ。馬鹿々々しいぢやないか。一つ頭をこの杖でかんとり別とやつてやろかい』
 群衆は『よからう、よからう』
と、四方八方より棒千切を以て、蚊取別の頭を目がけて打ちかからうとするを、蚊取別は腰の瓢箪を両手に抱へ、頭の上に載せて、打つなら打てと云はぬ許りに、身構する。
 群衆は我劣らじと打つてかかる。打たれて瓢箪は破れ、酒は四方に飛び散る。蚊取別は頭から酒を浴びて、俄に誕生のお釈迦さまになりてしまひける。
 このとき暗を衝いて、又もや宣伝歌が聞えきたりぬ。
『常世の国に生れませる  少彦名の神様の
 醸し給ひし神酒なれば  少しは飲めよ程ほどに
 御神酒を飲むはよけれども  酒に飲まれな百の人
 飲みたい酒も飲まずして  気張つてをれば何時か又
 心荒びて暗雲に  酒を飲まねばならうまい
 神に供へた其の後に  神酒を飲まずに頂けよ
 神酒を飲まずに頂けよ』
と涼しき声聞え来たる。蚊取別はこの声を敏くも耳に入れ、
『やい、皆の奴、今の歌を聞いたか。貴様らは大勢だと思つて、俺を馬鹿にしたが、俺も今まで多勢に無勢だ。強い奴にア負けて置けと、むかつく腹をじつと堪へて疳癪玉を抑へて居たが、モヽヽもう俺は承知せぬぞ。今の歌を聞いたかい。御神酒は飲むな頂けと聞えたであらう。飲むのも頂くのも同じことだ。さあ、俺の味方のウラル彦の宣伝使が現はれた以上は、もはや鬼に鉄棒だ。なンぼなと喋れ、頭を敲け、敲いて後で後悔するな』
と鼻息荒く両臂を振つて威張り出しける。
『やいやい、禿頭の瓢箪面が俄にはしやぎよつたぞ。愚図々々してゐると、彼奴の同類が暗がりから出て来て、どンな事をするか判らない。逃げろ逃げろ』
 群衆はこの声に驚き、先を争ひ暗に紛れて逃げ散りにけり。
 蚊取別はただ一人篝火の前に立ち塞がり大音声を張りあげて、
『俺を誰だと思うて居るか。勿体なくも鬼城山に館を構へて、御威勢並びなき美山彦の第一番の家来』
 少し小声で、
『家来のその家来の、も一つ家来の又家来蚊取別とは我事なるぞ。ごくにも立たぬ雲虫奴ら、雲を霞と逃げ失せたな』
と威張り散らしをる。又もや暗の中より、
『神が表に現はれて  善と悪とを立て別る
 蚊取の別の曲神は  鬼城山をば抜けて出て
 筑紫の国まで流されて  瓢箪面を曝しつつ
 知らぬ他国の人々に  頭を張られ油を搾られ
 その有様は何の事  三五教の宣伝使
 面那芸彦とは吾事ぞ  面那芸彦とは吾事ぞ』
と大音声に歌交りに呼ばはりける。
 蚊取別はこの声を聞きて俄に酔も醒め、頭を抱へてその場に蹲踞みたりにける。
(大正一一・二・二 旧一・六 井上留五郎録)
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