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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第8篇 一身四面よみ(新仮名遣い)いっしんしめん
文献名3第46章 白日別〔346〕よみ(新仮名遣い)しらひわけ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-06 19:44:12
あらすじ
夜明けになって、日の出神一向は、筑紫の司・白日別の館の門を叩いた。一行には、ウラル教の酒のひょうたんを下げた、おかしな格好の蚊取別が従っている。

しかし呼べども白日別の館からは何の返事もない。日の出神は、蚊取別に、塀を飛び越して門を開けよ、と命じた。

不審がる蚊取別に対して、日の出神は蚊取別が下げているひょうたんから酒をすべて抜いてしまい、息を吹き込んだ。するとひょうたんは風船のように浮き上がり、蚊取別の体も宙に浮くほどになった。

蚊取別は邸内に入るとひょうたんを一度に破いたものだから、屋敷の中にドスンと落ちて、腰を抜かしてしまった。面那芸司は仕方なく、ひらりと塀を乗り越えて門を開けた。

一行は開いた門から奥へと進んで行く。腰を抜かした蚊取別は宣伝使たちに助けを呼んでいる。

祝姫が憐れをもよおして蚊取別を抱き起こそうとすると、蚊取別は祝姫を口説き始めた。祝姫はあきれて蚊取別のはげ頭をぴしゃりと叩いて先へ駆けて行く。

邸内はよく整えられていたが、人っ子ひとりなかった。奥殿には筑紫の国魂である純世姫の御魂が鎮祭されている。日の出神は書置きを見つけた。

その書置きによると、筑紫の大酋長・白日別は霊夢に国治立命の御子と神伊弉諾命の御子が降ることを知り、一族を引き連れて高砂島に渡ったという。そして高照彦に筑紫の守護職を譲る旨がしたためられていた。

日の出神はこの書置きに従い、高照彦を白日別と改め、筑紫の守護職に任じた。日の出神は常世の国へ、面那芸司は天教山へ、祝姫は黄金山に向かうこととし、三柱はここに袂を分かった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月02日(旧01月06日) 口述場所 筆録者高木鉄男 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版280頁 八幡書店版第2輯 134頁 修補版 校定版290頁 普及版119頁 初版 ページ備考
OBC rm0746
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本文  夜は仄々と明けかかる。国家興々と鳴く鶏の、声に日の出宣伝使、東天紅を兆して雲を披きて昇りくる、清新の晨の空気を吸ひ乍ら、露路を分けて、日は白々と白日別司の館に進み行く。
 蚊取別は数多の瓢箪を腰にガラガラ云はせながら、跛を引きつつ頭を空中に上げたり下げたり、息もセキセキ四人の後に跟いて来る。その姿の可笑しさは、飯蛸魚が芋畑から立つて逃げる姿その儘なりける。
 日の出神の一行は、白日別の館に近付き、門を叩いて打てども打てども、何の答へもなければ、日の出神は蚊取別に向つて、
『汝はこの塀を越え、中より門を開け』
と命じたまへば、蚊取別は、
『これ程高い塀を私のやうな跛が、何うして越せませうか』
日出神『越せるとも、越せる工夫がある。斯うするのだ』
と云ひ乍ら、腰の瓢箪の詰を抜いて、
日出神『お前はもう酒は嫌ひになつたのであるから、もう酒はいらない、捨てて遣らう、未練は無いか』
蚊取別『ハイ、未練も焼酎も有りませぬ、並酒ばかりです。もう放かしても一寸も惜しいとは思ひませぬ。しかし是れで一生酒と縁切れぢやと思ふと、名残惜い様な気がいたします。放かすは放かしますが、一寸嘗めてみても宜しいか』
日出神『卑しい奴ぢや、思ひ切りの悪い男じやなあ』
と云ひながら、瓢箪の詰を抜いて残らず大地に棄てて仕舞つた。そして沢山の瓢箪の口より、一々日の出神は力限りに息を吹込み玉へば、瓢箪は見る見る膨張して、風船玉のやうに薄くなり、蚊取別は自然にフウと舞ひ颺りたり。
蚊取別『モシモシ颺ります颺ります、どうしたら宜しいか』
日出神『その瓢箪を一つ一つ放かすのだ。薄くなつて居るから爪で破れ』
 蚊取別は爪の先でパチパチと破つた。一度に瓢箪は破れて、図顛倒と屋敷の中に落ちた。門内にはドスン、「アイタタ」の声聞えゐたり。
日出神『おい、早く門を開けぬか』
蚊取別『あかぬあかぬ薩張あかぬ。抜けた抜けた』
面那芸『何が抜けたのだい』
蚊取別『腰だ、腰だ』
面那芸『間に合はぬ奴だナア。腰を抜かしよつて』
と云ひながら翻然と体をかわし、もんどり打つて門内に飛込ンだ、忽ち門は左右にサツと開かれた。
面那芸『皆さま御待たせ致しました、さあお這入り下さい』
 四人の宣伝使はドシドシ奥へ進み行く。
蚊取別『あゝもしもし、私を如何して下さいます。私を、私を』
と叫びをる。祝姫は気の毒がり、後に引返して蚊取別の手を取り抱き起さうとしたるに、蚊取別は何うしても腰を上げぬ。
祝姫『何故起きないのですか』
蚊取別『はい、私は嬶よりも子よりも、好きな酒がすつかり嫌ひになりました。かうなると思ひ出すのは、国に残した女房の事。あゝあゝ、もうこの頃は死んだか生きたか、何分太平洋を越えて永い歳月、何ンぼ女房が有つたとてまさかの間には合ひませぬ、察する処貴方は独身らしい、何うぞ私に輿入れして下さい。そしたら腰が立ちますよ』
祝姫『オホホヽヽヽまだ貴方は酒に酔うて居るのですか。何ほど男旱の世の中でも、云うと済まぬが、貴方の様な黒いお方の女房に誰がなりますか。軈て烏が婿に取りませう。私はたとへ烏に身を任しても、貴方のやうな瓢箪面には真平御免ですよ。阿呆らしい、サアサア早く御立ちなさい。日の出神さまに睨まれたら怺りませぬよ』
蚊取別『アーア、成るは厭なり、思ふは成らず、私の好く人また他人も好く。アーア気の揉める事だワイ』
祝姫『知りませぬ』
とツンとして、足を早めてさつさと奥に行かうとする。蚊取別は蓑を握つて、
『もしもし、さう素気無くしたものでは有りませぬ。旅は道伴れ世は情』
祝姫『エヽ、情け無い』
と禿頭をぴしやつと叩いて一目散に走り行く。蚊取別は腰を抜かした儘、
『オーイ、オーイ』
と叫びゐる。
 日の出神の一行は、館の内を隈なく探し見たが、猫一匹もゐない。不思議ぢやと其処辺中を開けて見たるに、国魂の神純世姫の御魂は奥殿に鄭重に鎮祭されてあり。さうして一切の器具は、秩序よく整頓してある。一同は神殿に向つて天津祝詞を奏上したるが、神殿には何一つ供物は無かりける。一枚の紙片に何事か記しあり。日の出神は恭しく神殿に進み、これを手に戴き拝読したるに、神に奏上する祝詞と思ひの外、次の様なことが記されありける。
一、私は白日別と申す、筑紫の国の大酋長であります。一昨夜の夢に、国治立の命の珍の御子と、神伊邪那岐命の珍の御子が、この筑紫の島にお降りになるから、汝ら一族は、この国と館を明け渡し、一時も早く高砂の島に立ち去りて、その島の守護職となれ。跡は高照彦神鎮まり給へば、筑紫の国も、葦原の瑞穂の国も穏かに治まるべしとの、夢の御告げでありましたから、私は夜の間に一族を引連れてこの島を立退きました。跡は宜しくお願ひ致します。
   日の出神様
   高照彦様
   外御一同様
と記しありぬ。日の出神はこの遺書に依り、高照彦を筑紫の国の守護職となし、名も白日別と改めしめ、天運の到るを待つ事としたまひぬ。
 此より日の出神は常世の国へ、面那芸司は天教山へ、祝姫は黄金山に向つて進む事となり、三柱は此処に惜しき袂を別ちたりける。
(大正一一・二・二 旧一・六 高木鉄男録)
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