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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第8篇 一身四面よみ(新仮名遣い)いっしんしめん
文献名3第47章 鯉の一跳〔347〕よみ(新仮名遣い)こいのひとはね
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-06 19:50:34
あらすじ
瀬戸の海を東南指して進む船中、ある夜に宣伝歌を歌う者がある。尊き神の恩徳に思いを致せ、というこの歌に、船客たちは耳を傾ける。

また船の一隅から女宣伝使は、先に宣伝歌を歌った宣伝使に対して、歌で名を問いかけた。

するとまた船の中ほどから頭の光った男が立ち上がり、しわがれ声を振り絞って歌うのは、蚊取別が祝姫宣伝使への思いのたけを歌う恋歌であった。

祝姫は蚊取別のこの歌に恥ずかしいやらもどかしいやら、船底にかじりついて息を潜めていた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月02日(旧01月06日) 口述場所 筆録者吉原亨 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版287頁 八幡書店版第2輯 137頁 修補版 校定版297頁 普及版122頁 初版 ページ備考
OBC rm0747
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本文  金山彦の生れまして、この世も曇る瀬戸の海、地中海の波を蹴立てて東南指して波上を滑る帆前船あり。頃しも夏の真最中、三伏の暑熱に船の諸人は汗を流し息も苦しげに波に揺られて、彼方の隅にも、こちらの隅にも苦しみ乍ら、ゲエゲエゲエと八百屋店を出すもの多く、無心の船は波を蹴立てて真帆に順風を孕ませながら走りゐる。日は漸く西の山の端に没し、中天の月は洗ひ出した様な、清涼の光を海面に投げゐたり。
 風は漸く凪いで、波は青畳を敷きたる如く穏かになり来り。従つて船の動揺も静まり、船客は追々と元気を回復し、彼方にも此方にも雑話がはじまりぬ。船の一隅よりスラリと立ち上り歌ひ出したるものあり。
『烏羽玉の暗きこの世はよき事に  枉事いつき枉事に
 よき事いつく世の習ひ  科戸の風の凪ぎ渡る
 この海原に照る月は  仰げば高し蒼空の
 限り知られぬうまし世の  ミロクの御代の恵みかな
 あゝさりながらさりながら  この船一つ砕けなば
 何れの人もおしなべて  海の藻屑となりぬべし
 あゝこの船よこの船よ  暗夜を渡す神の船
 天津御空の月よりも  高く尊き神の恩
 千尋の海の底よりも  深き恵みの神の徳
 天と地との中空を  やすやす渡るこの御船』
と歌ふ。諸人はこの歌に耳を傾け、一言も漏らさじと聞き入りぬ。船の一方よりは女の声として、またもや歌が始まりける。
『神の恵みに抱かれて  この海原を渡り行く
 教の友船嬉しくも  真澄の空のその如く
 澄み渡りたる宣伝歌  高天の原も海原も
 実に明らけく住の江の  御前の神の御守りに
 筑紫の嶋を後にして  よしとあしとの瀬戸の海
 今わたらしし皇神の  国治立の始めてし
 その言霊の祝姫  四方の村雲吹きはふり
 はふり清めて今此処に  帰り来るも神の恩
 深き縁の神の声  耳に聞ゆる三五の
 道の教の宣伝歌  汝は何れの神なるぞ
 君は何れの神なるぞ  名告らせ給へすくすくに
 大峡小峡に伸び立てる  檜杉木の芽の如く
 宣らせ給へよ宣伝使  妾は神の命もて
 珍の都のヱルサレム  黄金山のそのもとに
 現はれませる埴安彦の  救ひの神の御もとべに
 侍ふ者ぞいざさらば  名告らせ給へ宣伝使』
と声も涼しく女宣伝使は問ひかけたり。月の光に照らされて、頭の馬鹿に光つた男、船の中程より立ち上り、
『あゝよい月よ よい月よ  いつも月夜に米の飯
 米食ふ虫を乗せて行く  この友船は何処へ行く
 常世の国か唐国か  行衛も知らぬ恋の暗
 俺らの恋は命がけ  命を的に跟いて来た
 祝の姫の宣伝使  千々に心を筑紫がた
 言葉つくして口説けども  蜂を払ふ様な無情さに
 諦めようとは思へども  諦められぬ吾が恋路
 恋し恋しの一筋に  祝の姫の後追うて
 此処まで来たのが蚊取別  堅き心は何処までも
 唐国山の奥までも  千尋の海の底までも
 祝の姫の後追うて  何処々々までも附狙ふ
 祝の姫よ頑固な  心なほして恋ひ慕ふ
 男心を酌みとれよ  男の身もて手弱女の
 後尋ね行く恋の暗  一度は晴らしてくれの空
 空行く鳥も今頃は  夫婦仲善く暮すのに
 一つの船に乗りながら  名告りをせぬとは胴欲な
 好きな酒まで止めにして  お前の後に附纏ふ
 俺の心も酌み取れよ  跳ねるばかりが芸でない
 男冥加に尽るぞよ  蚊取の別のこの面は
 女の好かぬ顔なれど  世の諺にいふ通り
 馬にや乗つて見よ男には  会つて見ようと云ふぢやないか
 素知らぬ顔して白波の  上漕ぎわたる船の中
 俺も一度は漕いで見たい  船の梶取り船人の
 蚊取は別て上手もの  蚊ぢ取は別てうまいぞや』
と、嗄れ声を振り絞つて恋路に迷ふ、耻も情もかまはばこそ、声を限りに海面吹き渡る風に向つて歌ふ。祝姫は蚊取別のこの歌を聞きてもどかしがり、穴でもあらば潜り込みたい心持になつて息を凝らして船底に噛つきゐたりける。
(大正一一・二・二 旧一・六 吉原亨録)
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