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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第1篇 智利の都よみ(新仮名遣い)てるのみやこ
文献名3第1章 朝日丸〔351〕よみ(新仮名遣い)あさひまる
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-30 21:27:18
あらすじ
天下の絶景の海を、筑紫から智利の国に向かう船の中で、猿世彦と駒山彦が、来し方を思い互いに相手の失敗をなじりあっていた。猿世彦、駒山彦は常世彦の部下として、大八洲彦命や言霊別命ら天使の神業を邪魔して竜宮城と戦った邪神であった。

猿世彦はスペリオル湖で元照別に捉えられ、凍える湖に投げ入れられて木乃伊となり、言霊別命に助けられて方法の体で逃げ帰った過去を、駒山彦らにからかわれている。

船中の女客が、猿世彦・駒山彦の連れの宣伝使に、三五教の教えを説いてくれ、と頼みかけた。

連れの宣伝使は清彦(清熊)であった。清彦はかつて鬼城山で駒山彦らの仲間として悪事を働いていたが、どうしたわけか三五教の宣伝使となっていたのである。

猿世彦は清彦の昔の悪事を上げたてて、宣伝の邪魔をする。清彦はそれを笑い飛ばして猿世彦の昔の失敗をなじる。

かくして雑談のうちに、船中の夜はふけて行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月06日(旧01月10日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版5頁 八幡書店版第2輯 153頁 修補版 校定版7頁 普及版3頁 初版 ページ備考
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本文  ひがしや西や北南  のどかな春の海面を
 出船入船真帆片帆  のり行く男子女子の
 かげも静かに揺られつつ  みづさへ清き浪の上
 日の出神の宣伝使  乗せ行く船は朝日丸
 御稜威も高き高砂の  智利の都に進むなり
 折から吹きくる東風に、船脚早く海面に漂ふ大小無数の島影を右に避け、左に曲り、舟人の楫取り巧に天下の絶景を進みゆく。
 東海の波を蹴つて踊り出でたる太陽も、漸く西天にその姿を没し、海面は烏羽玉の暗と化したり。大小無数の漁火は、海面に明滅し漁夫の叫ぶ声は、猛り狂ふ浪の音かと疑はるる許りなり。漁火の光は長く海中に垂れ、浪に揺られて蛟竜の海底より水面に昇るが如く、その壮観譬ふるに物なく、海底の竜宮も忽ち霊光の燈火を点ずるかとばかり疑はるるに至りけり。
 数多の船客は、この光景を眺めて雑談に耽る。
甲『おい、猿世彦、スペリオル湖を渡つた時と此の海を渡る時と、何れ丈心持が違ふか』
猿世彦『ソンナことを誰に聴いたか、そりや他人の事だよ。貴様は高白山で如何だつたい』
駒山彦『高白山は高白山だ。浪の上を渡る時に山の話をする奴があるかい。木乃伊の化物の話なつと聴かして貰はうかい』
丙『互にソンナ昔の碌でもない失敗談を繰返すよりも、もつと気の利いた話をしたら何うだい』
駒山彦『ウン、貴様はなんでも三五教とかの信者になつたと云ふことだが、三五教の教理を偉さうに宣伝使気取りで、そこら中で喋つて居ると云ふことだが、一辺俺にも聴かして呉れないか』
丙『貴様のやうなウラル彦や、美山彦の崇敬者に説教は禁物だ。又海の上でソンナ話を始めると、木乃伊になると困るから止めて置かうかい。俺を「貴様は今信者だ」と言うたが、乞食の子でも三年すれば三つになると云ふことを知らないのか。初めは信者でも今は立派な押も押されもせぬ三五教の宣伝使様だ。「おい、聴かせろ」なんてソンナ失礼なことを、生神の宣伝使に向つて云ふ奴があるかい。吾々は畏れ多くも、天教山の木の花姫命の宣伝使じやぞ』
猿世彦『さうだらう、気違ひの癲狂山だらう』
丙『木乃伊の知つたことかい。木乃伊が海へ嵌りよつて、化けて鱪になると云ふことがある。彼の日の光に照して見よ。海の底に沢山貴様の友達が泳いで居るわい、木乃伊が鱪になつて、鱪の頭に虱が生て世界の事は、何一つ鱪の盲目神が三五教の教理を聴いたところで分るものでない。言はぬは言ふに弥勝るだよ』
 猿世彦は面膨らして、丙の顔を睨みつける。其の膨れ面は、漁火に照されて面白く明瞭と見えたり。
『よう、猿世、大分に膨れて居るな』
と云はれて、猿世彦はますます膨れる。暗の中から二三人の女の声として、
『やあ、貴方は承はれば三五教の宣伝使とか聴きましたが、斯うして広い海を無難に気楽に渡らして頂くのも、皆神様の御神徳だと思ひます。斯う云ふ結構な機会はありませぬ、何卒一つ三五教の教を聴かして下さいませぬか。吾々は熊襲の国の者であります』
と誠心から頼み入るにぞ、宣伝使は二人に構はず、
『何れの方か、何分暗夜の事とて御顔も分りませぬが、私は三五教の宣伝使の卵ですよ。最前から二人の男が、余り豪さうに法螺を吹くものですから、俺は三五教の宣伝使だと威張つて見せたものの私も熊襲の者で、未だ宣伝使の卵で自称候補者です。何でも日の出神とか云ふ立派な宣伝使が、高砂の島へ行かれたとか、行かれるとか云ふことを、風の便りに聞いたので高砂の智利の都に行つて、其の御方に会つて見たいと思ふのです』
 暗黒の中より女の声、
『貴方は其所までの御熱心なら、三五教の教理は少しは御存じでせう。一歩でも先に聴いた者は先輩ですから、貴方の御聴きになつた事だけなつと話して下さい』
猿世彦『世間には、物好きもあるものだなあ。何方か知らぬが、コンナ宣伝使に聴いたつて何が分るものか。この男はな、偉さうな面付して宣伝使の卵だと言つて、傲然と構へて居るが、此奴の素性を洗つて見れば、元は竜宮城に居つて、其処を追ひ出され、鬼城山の食客をしてゐて、鬼城山でまた失敗をやつて縮尻つて、改心したとか云つて常世の国を遁げ出し、筑紫の国で馬鹿の限り、悪の限りを尽して再び元の古巣へ帰る所なのですよ。此奴は清彦ナンテ名は立派だが、実は濁彦の、泥彦の、穴彦といふ男だ。彼岸過ぎの蛇の様に、穴ばつかり狙つて居るのだ。貴方は女の方と見えますが、コンナ奴に相手になりなさるな。穴恐ろしい奴ですよ。此奴はうまうまハマる穴が無いので穴無い教の宣伝使ナンテ吐かすのだ。アハヽヽヽ』
と大口を開けて力一杯嘲りける。
清彦『コラ猿、何を吐かすか。貴様も鬼城山で国照姫の御主人面をして偉さうに構へて居つたが、何時の間にやら棒振彦にその位地を奪られよつて、馬鹿の美山彦の家来となり、どどのつまりは大勢のものに愛想を尽かされて、いよいよ鬼城山を泣く泣く猿世彦の馬鹿者、他の穴をほぜくると自分の穴が出て来るぞ。俺は縦から見ても横から見ても立派な智仁勇兼備の穴の無い男だ。それで三五教の宣伝使様だ。
 穴を出て穴に入るまで穴の世話 穴おもしろき穴の世の中
人の穴は、探らむがよからうぞ。ナンボ猿世彦でも、猿の人真似ばかりしよつて恥を掻くよりも、これから改心して庚申さまの眷属のやうに見猿、聞か猿、言は猿を守るが、貴様の利益だ。愚図々々言うと又木乃伊にしてやらうか』
 斯くの如く雑談に耽つて居る。春の夜は短く明けて再び東天に陽の影が映し、一同の顔にも夜が明けたやうに元気輝きにけり。
(大正一一・二・六 旧一・一〇 外山豊二録)
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