漁師たちは猿世彦の言霊に感心して尊敬の念を払い、三五教の教理に服した。猿世彦は教理には通じていなかったため、平然として矛盾脱線の教えを語っていたが、ただ神を祈ることは一生懸命であったので、神徳を授けられたのである。
朴訥な漁師たちにはあまり難しい教理を説く必要もなく、ただ豊漁を与えてもらうことをもって信仰の基礎としていた。
ただ村長の照彦は立派な男であったが、猿世彦の熱心な祈祷の力に感じて、猿世彦を賛美する歌を歌った。
かくして、猿世彦は宣伝使となって法外れの教理を説いていたが、村人たちは信仰を怠らなかった。
アリナの滝から数町奥に、不思議な岩窟があった。岩窟の中には直径一丈ばかりの円い池があり、清鮮な水をたたえていた。村人たちは池を鏡の池と読んでいた。
猿世彦は村人たちを従えて、この鏡の池に禊身にやってきた。村長をはじめ村人たちに池の水で洗礼を施し、そして池に向かって祈願を込め始めた。
その祈願は、村人たちの信仰と救いへの守りを祈り、また自らの過去の罪を懺悔し、日の出神に出会ったことで改心できた感謝を捧げていた。