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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第3篇 秘露より巴留へよみ(新仮名遣い)ひるよりはるへ
文献名3第15章 ブラジル峠〔365〕よみ(新仮名遣い)ぶらじるとうげ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-04 18:15:40
あらすじ
淤縢山津見(醜国別)は蚊々虎を連れてブラジル峠を上っていく。春とはいえ、赤道直下の酷熱の中を、蚊々虎に荷物を持たせて登って行く。

蚊々虎はちょっと一服させて欲しい、と頼んだが、淤縢山津見は竜宮の底で苦労艱難を嘗めて門番をしてきたことを思えば、どうということなはい、と説教する。

蚊々虎は愚痴をこぼす。淤縢山津見がそれを咎めると、逆に淤縢山津見のかつての悪事を責める。淤縢山津見が昔のことは過ぎ越し苦労するな、と諭しても、何かと理屈をつけて淤縢山津見をからかった。

淤縢山津見が昔の主人に向かって無礼であろう、と返すと、蚊々虎は、過ぎ越し苦労するなとおっしゃったじゃないか、と返す有様。
主な人物淤縢山津見、蚊々虎 舞台ブラジル山 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版94頁 八幡書店版第2輯 184頁 修補版 校定版96頁 普及版41頁 初版 ページ備考
OBC rm0815
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本文  春霞棚引渡る海原の  浪掻き分けて立昇る
 日の出神の宣伝使  醜の曲津を払はむと
 醜国別の体主霊従  霊主体従と成り変り
 禊祓ひし生魂  心つくしのたちばなの
 淤縢山津見と改めて  従属の司も腰骨の
 蚊々虎彦を伴ひつ  教を巴留の国境
 ブラジル山に差掛る。
 春とはいへど赤道直下の酷熱地帯、木葉を身体一面に纏ひ暑熱を凌ぎ乍ら、腰の屈める蚊々虎彦に荷物を持たせ、ブラジル峠を登り行く。
『モシモシ一寸一服さして下さいな。汗は滝の如く、着物も何も夕立に逢うたやうにびしよ濡れになつて了つた。何処かに水でもあれば一杯飲みたいものですワ』
『確かりせぬか蚊々虎、何だ、海の底に吾々は長らくの苦労艱難を嘗めて金門の番をして来たことを思へば、熱いの苦しいのと云つて居れるか。空気は十分に無し彼方此方を見ても水ばつかりで、碌に息も出来はしない。何ほど嶮しい坂だつて、汗が出ると云つても、涼しい風がちよいちよい来るじやないか。十分に汗を搾り足を疲らして、もう一歩も前進することが出来ないやうになつた所で、一服するのだ。その時の楽さと云ふものは、本当に楽の味が判るよ。竜宮の苦しい、息も碌に出来ない所から、陸へ揚げて貰つた嬉しさと云ふものは、たとへ足が棒になつても万分の一の苦労でも無いワ。貴様はまだ苦労が足りないからさう云ふ弱いことを云ふのだ。俺に随いて来い』
『それはあまり胴欲ぢやございませぬか。私は竜宮へ行つたことが無いから、貴下のお話は嘘か、本当か知りませぬが、水の中で苦しいのは分つて居ります。併し本当の水の中なら三分か、五分経ぬ間に息が断れて了うぢやありませぬか。それに長らく竜宮に貴下は居られたのぢやから、それを思へば貴下の御言葉は割引して聞かねばなりますまい。私はもう半時も休まずに、この山道を歩かされようものなら、身体の汁はさつぱり汗になつて出て了ひ、コンナ熱い山の中で木乃伊になつて了ひます。ソンナ殺生な事を云はずと貴下も改心なさつたぢやないか、ちつと位の情容赦は有りさうなものだナア』
と涙を溢す。
『オイ蚊々虎、貴様はなんだい、男じやないか。この位なことで屁古垂れて涙を流すと云ふことがあるかい』
『私は決して泣きませぬ』
『ソンナラ誰が泣くのだ』
『ハイハイ、私は立派な一人前の男です。苟くも男子たるもの如何なる艱難辛苦に逢うてもびくとも致しませぬ。私について居るお客さまが泣くのですよ』
『お客さまて何だ、貴様の副守か、よう泣く奴だな。蚊々虎と云ふからには、蚊の守護神でも憑いて居るのぢやらう。今まで人の生血を吸ふやうな悪い事ばかり行つて来た報いだ。貴様の腰は何だい、くの字に曲つて了つとるぢやないか。今までの罪滅しだ。副守に構はず、本守護神の勇気を出して俺に随いて来ぬかい』
『貴下は今まで醜国別と云うて、随分善くないことをなさいましたなあ。私は貴下の御命令でこいつは悪いな、コンナことしたらきつと善い報いはないと思つたが、頭からがみつける様に云はれるものだから、今までは虎の威を借る狐のやうに、心にも無いことを行つてきました。言はば貴下が悪の張本人だ。私は唯機械に使はれたのみですワ』
『ウン、何方にせよ使はれたのみか、使はれぬしらみか、人の生血を吸ふ蚊か、虎か、狼か、熊か、山狗かだよ』
『モシモシそれは余ぢやありませぬか。虎、狼とは貴下のことですよ。日の出神さまに助けて貰うて淤縢山津見とやらいふ立派な名を貰つて、偉さうにしてござるが、貴下は人を威す淤縢山津見だ。余りどつせ、ちつと昔のことも考へて見なさい。大きな口もあまり叩けますまい。此処には貴下と私とただ二人で傍に聞いてをるものも無いから遠慮なく申しますが、本当に醜の曲津と云つたら貴下のことですよ』
『三五教は過ぎ越し苦労や、取越し苦労は大禁物だ。何事も神直日、大直日に見直し聞直し、宣り直す教だから、ソンナ死んだ児の年を数へるやうな、下らぬ事は止したがよからうよ。過ぎ去つたことはもう一つも云はぬがよいワ』
『ヘーイ、うまく仰有いますワイ。竜宮で門番をして苦かつたつて、仰有つたじやないか、それは過ぎ越し苦労ぢやないのですか』
『よう理屈をいふ奴ぢやな。今までのことはさらりと川へ流すのだい。さうして心中に一点の黒雲も無く、清明無垢の精神になつて、神様の御用をするのだよ』
『また地金が出やしませぬかな。何ほど立派な黄金の玉でも、竹熊の持つて居るやうな鍍金玉では直に剥げると云ふことがありますよ。地金が石であれば何ほど金が塗つてあつても二つ三つ擦ると生地が現はれて来るものですからナア』
『莫迦いへ、俺の身魂は中まで水晶だ。元は立派な分霊だ。雉もなかねば射たれまいといふことがある。もう生地の話しは止めて呉れ』
『ヘーン、うまいこと仰有りますワイ。口は重宝なものですな』
『オー最早山頂に達した。オイ蚊々虎、話しをしとる間に何時の間にか、山の頂辺に来てしまつたよ。貴様が苦い苦い、もう一歩も歩けぬなどと屁古垂れよつて男らしくもない、副守か何か知らぬが、吠面かわいて見られた態ぢや無かつたぞ。もう此処まで来れば涼しい風が当つて、今までの苦労の仕忘れだ。お前の顔の黒くなつたのも、これも苦労の仕忘れになつて、白い顔になると重宝だが、これ丈は矢張り生地が鉄だから、金にはならぬよ。まあ、顔が黒いたつて心配するには及ばない。貴様の何時も得意な暗黒で、ちよいちよい何々するのには持つて来いだ。暗に烏が飛つたやうなもので、誰も見付けるものが無いからな。本当に苦労の苦労甲斐があるよ』
『暗黒に出るのは矢張り蚊ですもの、貴下の仰有ることが本当かも知れませぬ。間違つてゐるかも知れませぬ。しかし貴下の名はいま出世して淤縢山津見とか仰有つたが何と黒い名ですな。恐さうなおどおどとした暗の晩に烏の飛つたやうな暗ずみナンテ、あまり人のことは言はれますまい。日の出神さまも偉いワイ。それ相当な名を下さる。人を威したり、暗雲になつて訳も分らぬ明瞭せぬ墨のやうな屁理屈を列べる醜国別に淤縢山津見とは、よくも洒落たものだワイ、アハヽヽヽ』
『オイ蚊々虎、主人に向つて何を言ふ。無礼であらうぞよ』
『ヘン、昔は昔、今は今と、日の出神が歌はれたことを貴下覚えてゐますか。昔は昔、今は今後は何だつたか忘れました。エヘン』
(大正一一・二・八 旧一・一二 外山豊二録)
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