一行はブラジル峠の山頂辺りの風景を眺めながら、四方山話をしていた。風が次第に強くなり、周囲の樹木も倒れんばかりに激しくなってきた。
蚊々虎は側の木の根にしがみついて、泣き言を言っている。蚊々虎を皆でからかい、蚊々虎はそれに負けずにおかしな答えでやり返す。
義太夫調にまぜっかえすその歌の中に、蚊々虎は常世姫の落胤である常照彦であり、稚桜姫命の孫神である、と自分の出自を織り込んでいた。
蚊々虎が一人狂言芝居をして淤縢山津見と滑稽な問答をしている折から、突然幾十万とも知れない声が辺りから聞こえてきた。淤縢山津見は顔色を変えて両手を組み、その場に座り込んだ。
蚊々虎はにわかに前後左右を飛び回り、くにてるひめ、と口を切った。淤縢山津見は天の数歌を唱えて審神に着手した。
蚊々虎は自分は鬼城山の国照姫と名乗り、淤縢山津見に巴留の国から引き返してアーメニヤに戻れ、と託宣した。淤縢山津見は力を込めて、神言を奏上して蚊々虎に霊光を放射すると、蚊々虎は大地に七転八倒した。
淤縢山津見は、自分を巴留の国から追い返そうとする邪神であると断じた。認めない蚊々虎の神懸りに対して霊縛を施すと、霊は自分は八岐大蛇の眷属で、淤縢山津見を高砂洲から追い返すつもりだったのだ、と白状した。そして、ロッキー山へ逃げるから霊縛を解いてくれ、と懇願した。
淤縢山津見はロッキー山への退去を禁じ、変わりに巴留の国を去って海の外へ退去するように命じた。蚊々虎に懸った邪霊はうなずいて承知した。
淤縢山津見が霊縛を解くと、蚊々虎の身体は元のようになおった。そしてまた馬鹿話をしながら先にたって、ブラジル山を西へと下っていく。