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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第3篇 秘露より巴留へよみ(新仮名遣い)ひるよりはるへ
文献名3第16章 霊縛〔366〕よみ(新仮名遣い)れいばく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-03-30 15:19:22
あらすじ
一行はブラジル峠の山頂辺りの風景を眺めながら、四方山話をしていた。風が次第に強くなり、周囲の樹木も倒れんばかりに激しくなってきた。

蚊々虎は側の木の根にしがみついて、泣き言を言っている。蚊々虎を皆でからかい、蚊々虎はそれに負けずにおかしな答えでやり返す。

義太夫調にまぜっかえすその歌の中に、蚊々虎は常世姫の落胤である常照彦であり、稚桜姫命の孫神である、と自分の出自を織り込んでいた。

蚊々虎が一人狂言芝居をして淤縢山津見と滑稽な問答をしている折から、突然幾十万とも知れない声が辺りから聞こえてきた。淤縢山津見は顔色を変えて両手を組み、その場に座り込んだ。

蚊々虎はにわかに前後左右を飛び回り、くにてるひめ、と口を切った。淤縢山津見は天の数歌を唱えて審神に着手した。

蚊々虎は自分は鬼城山の国照姫と名乗り、淤縢山津見に巴留の国から引き返してアーメニヤに戻れ、と託宣した。淤縢山津見は力を込めて、神言を奏上して蚊々虎に霊光を放射すると、蚊々虎は大地に七転八倒した。

淤縢山津見は、自分を巴留の国から追い返そうとする邪神であると断じた。認めない蚊々虎の神懸りに対して霊縛を施すと、霊は自分は八岐大蛇の眷属で、淤縢山津見を高砂洲から追い返すつもりだったのだ、と白状した。そして、ロッキー山へ逃げるから霊縛を解いてくれ、と懇願した。

淤縢山津見はロッキー山への退去を禁じ、変わりに巴留の国を去って海の外へ退去するように命じた。蚊々虎に懸った邪霊はうなずいて承知した。

淤縢山津見が霊縛を解くと、蚊々虎の身体は元のようになおった。そしてまた馬鹿話をしながら先にたって、ブラジル山を西へと下っていく。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版101頁 八幡書店版第2輯 187頁 修補版 校定版103頁 普及版44頁 初版 ページ備考
OBC rm0816
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本文  一行はブラジル峠の山頂に四辺の風景を眺めながら、下らぬ話に耽り居たり。涼しき風は吹き捲り、次第に烈しく周囲の樹木も倒れむ許りなりけり。蚊々虎は側の樹の根にしつかとしがみ付き、
『モシモシ宣伝使様、どうしませう。散ります散ります』
『それだから蚊と言ふのだ。これつ許りの風が吹いたと云つて、木の根にしがみ付いて散ります散りますもあつたものかい。まるで酒でも注いで貰ふ時の様なことを言ひよつて、弱虫奴が、これから巴留の国へ行つたら、これしきの風は毎日吹き通しだよ。大沙漠を駱駝の背に乗つて横断しなくてはならぬが、貴様の様な弱いことでは、駱駝の背から蚊のやうに吹き飛ばされて了ふかも知れぬ。あーあ旅は一人に限るナ。コンナ足手纏ひを連れて居ては、後髪を牽かれて、進むことも、何うする事も出来やしない嫌な事だワイ』
『モシモシ宣伝使様、偉さうに仰有るな、後髪を牽かるると云つても、髪の毛は一本もありやしないワ。俺の頭を見やつしやれ、棕梠のやうな立派な毛が沢山と、エヘン、アハン』
『貴様のは髪ぢや無いよ。それは毛だ。誠の人間には髪が生えるし、獣には頭に毛が生えるのだ。俺の頭は髪だぞ。髪と云ふ事は、鏡を縮めたのだ。よう光つとらうがな』
『蚊が止まつても辷り落ちる様な頭をして、神様も何もあつたものか。蚊が止まつて噛様だ。アハヽヽヽヽ』
『何を言ふ。俺は勿体なくも頭照す大御神様だ。頭照す大御神様の御神体は八咫の御鏡ぢやといふ事は知つて居るだらう』
『ヘン、甘いことを仰有いますな。流石は宣伝使様。大自在天の一の御家来、悪い事ばかり遊ばして、根の国底の国に追ひやられて、終には国処を売つて、世界中を迂路つき廻つて、負け惜みの強い体のよい乞食だ。宣伝使様と云へば立派な様だが、乞食の親分見た様なものだ。頭照す大御神様も有つたものか。国処立退の命だ』
『貴様にはもう暇を遣はす。これから帰れ。何と云つても連れて行かぬ』
 (義太夫調)
『私を何うしても連れないと言ふのですか。それはあんまり無情い、胴欲ぢや。思ひ廻せば廻すほど、俺ほど因果な者が世に有らうか。常世の国に顕れませる、大自在天の其の家来、醜国別と歌はれて、空行く鳥も撃ち落す、勲もしるき神さまの、家来となつた嬉しさに、有らう事かあるまい事か、勿体ない天地の神の鎮まり遊ばした、ヱルサレムの宮を穢し奉り、その天罰で腰痛み、腰はくの字に曲り果て、蚊々虎さまと綽名をつけられ、今は屈みて居るけれど、元を糺せば尊き神の御血筋、稚桜姫の神の御子の常世姫が内証の子と生れた常照彦。世が世であれば、コンナ判らぬ淤縢山津見のお供となつて、重い荷物を担がされ、ブラジル山をブラブラと、汗と涙で駆け登り一息する間もなく、もうよいこれで帰れとは、実につれない情ない、善と悪とを立別る、神がこの世に坐ますなら、淤縢山津見の醜国別、体主霊従の宣伝使、義理も情も知らぬ奴、矢張り悪は悪なりき。猫を冠つた虎猫の蚊々虎さえも舌を捲いて、泣くにも泣かれぬ今の仕儀、どうして恨を晴らさうか、今は淤縢山津見と、厳めしさうな名をつけて、肝腎要の魂は、醜の枉津の醜国別、その本性が表はれて、気の毒なりける次第なり。それよりまだまだ気の毒なは、この山奥で只一人、足の痛みし蚊々虎に、放とけぼりを喰はすとは、ホンに呆れた悪魂よ。玉の緒の命の続く限り、こいつの後に引添うて、昔の欠点をヒン剥いて、邪魔して遣らねば置くものか。ヤア、トンツンテンチンチンチンだ』
『こらこら蚊々虎、馬鹿な事を云ふな。貴様そら本性か、心からさう思つてるのか』
『本性で無うて何んとせう』
と手を振り口を歪め、身振り可笑しく踊り出したり。
『ハヽヽ貴様は気楽な奴だナ。コンナ処で狂言したつて、見る者も、聞く者も有りやせぬぞ。誰に見せる積りぢや』
『お前は天下の宣伝使、これ丈沢山の御守護神が隙間もなしに聞いて居るのが分らぬか。俺はお前に聞かすのぢや無い。其処らあたりの守護神に、お前の恥を振舞うて行く先き先きで神懸りさせて、お前の欠点をヒン剥かす俺の仕組を知らぬのか。それそれそこにも守護神、それそれあそこにも守護神、四つ足身魂も沢山に面白がつて聞いて居る。夫れが見えぬか見えないか。お気の毒ぢや、御気の毒では無いかいな』
 このとき幾十万とも知れぬ叫び声が四辺を圧して、蚊の鳴く如くウワーンと響きぬ。稍あつて幾十万人の声として、ウワハヽヽヽとそこら中から、声のみが聞え来たる。淤縢山津見は両手を組み、顔の色を変へ、大地に胡坐をかき、思案に暮るるものの如くなりけり。
 蚊々虎は俄に顔色火の如くなり、両手を組みしまま前後左右に飛び廻り、
『くヽヽくにくにくに
てヽヽてるてる
ひヽヽめヽヽ
くにてるひめ』
と口を切りぬ。
 淤縢山津見は、直に姿勢を正し両手を組み審神に着手したり。
『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』
と、唱ふる神文につれて蚊々虎は大地を踏み轟かし踊り出したり。
『汝国照姫とは何れの神なるぞ』
『キヽ鬼城山に立籠り、美山彦と共に常世姫の命の命令を奉じ、地の高天原を占領せむと、昼夜苦労を致した木常姫の再来、国照姫であるぞよ。その方は醜国別、今は尊き淤縢山津見司となりて、日の出神の高弟、立派な宣伝使、妾は前非を悔い木花姫の神に見出され、アーメニヤの野に神都を開くウラル彦と共に、発根と改心を致して今は尊き誠の神と成り、アーメニヤの野に三五教を開き神政を樹立し、埴安彦命の教を天下に布くものである。これより巴留の国に宣伝の為に出で行かむとするが、暫く見合して後へ引き返し、この海を渡つてアーメニヤの都に立帰れ。巴留の国は神界の仕組変つて日の出神自ら御出張、ゆめゆめ疑ふな。国照姫に間違は無いぞよ』
 淤縢山津見は、全身に力を籠めて神言を奏上し、ウンと一声蚊々虎の神懸りに向つて霊光を放射したるに、蚊々虎は大地に顛倒し、七転八倒泡を吹きだしたり。
『其方は邪神であらう。今吾々の巴留の国に到る事を恐れて、この蚊々虎の肉体を使つて、天下の宣伝使を誑かさむとする枉津の張本、容赦は成らぬ。白状いたせ』
『畏れ多くも日の出神の御使、国照姫に向つて無礼千万。容赦はせぬぞ』
『容赦するもせぬも有つたものか、この方から容赦いたさぬ』
と云ひながら、又もやウンと一声、右の食指を以て空中に円を画き霊縛を施しければ、
『イヽ痛い痛い、赦せ赦せハヽ白状する。妾はヤヽ八岐の大蛇の眷属、八衢彦である。この巴留の国は妾らが隠れ場処、いま汝に来られては吾々仲間の一大事だから、国照姫が改心したと詐つて、汝をこの嶋よりボツ返す企みであつた。斯の如く縛られては何うすることも出来ぬ。サアもうこれから吾々一族は、ロッキー山を指して逃げ行く程に、どうぞ吾身の霊縛を解いて下さい。タヽ頼む頼む』
『巴留の国を立去つて海の外に出て行くならば赦してやらう。ロッキー山へは断じて行く事ならぬ。どうだ承知か』
 蚊々虎の神懸りは、首を幾度とも無く無言のまま縦に振つてゐる。淤縢山津見は、ウンと一声霊縛を解けば、蚊々虎の身体は元の如くケロリとなほり、流るる汗を拭ひ乍ら、
『あゝ偉い事だつたワイ。何だか知らぬが俺の身体にぶら下りよつて、ウスイ目に逢うた。サアサア宣伝使様、もういい加減に行きませうかい。コンナ処に居つては碌なことは出来ませぬよ』
と正気に帰つた蚊々虎は先に立つてブラジル山を西へ下り行く。
(大正一一・二・八 旧一・一二 東尾吉雄録)
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