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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第3篇 秘露より巴留へよみ(新仮名遣い)ひるよりはるへ
文献名3第17章 敵味方〔367〕よみ(新仮名遣い)てきみかた
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-04 17:27:32
あらすじ
淤縢山津見は峠を下りながら、蚊々虎が不平ばかりを言って心身がしっかりせぬから、邪霊に取り付かれるのだ、と説教している。二人はまた頓珍漢な問答をしながら下っていく。

すると、傍らに大きな滝があるところへ、四五人の荒くれ男が腰掛けて、なにやらささやきあっている。淤縢山津見と蚊々虎が男たちの前を横切ろうとしたとき、一人が大手を広げて谷道をさえぎった。

曰く、鷹取別のしろしめす巴留の国へは、他国の者は入れない決まりだという。蚊々虎は腕をまくり、ねじ鉢巻で荒男に食ってかかった。荒男は荒熊と名乗り、蚊々虎に喧嘩を吹っかけた。

以外にしぶとい蚊々虎の抵抗に、荒熊は仲間を呼んで、のしてしまおうとする。蚊々虎は得意になって啖呵を切っている。

威勢よく啖呵を切っていた蚊々虎だが、いざ五人の荒男にいっせいに打ってかかられると、たちまち弱音をはいて、淤縢山津見に助けを求めた。淤縢山津見は自業自得、と傍観している。

蚊々虎は荒熊たちに、柔らかく喧嘩しろ、と口の減らない負け惜しみを言っている。荒熊が得意になって蚊々虎をなぶっていると、途端に崖から落ちて谷底に落ち込んでしまった。仲間の四人は驚いて蚊々虎の手足を放した。

蚊々虎は、自分の霊光に打たれて谷底に落ち込みよった、と一人悦に入っている。その間に淤縢山津見は谷底へ降りて、荒熊を助けて引き上げてきた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版109頁 八幡書店版第2輯 190頁 修補版 校定版111頁 普及版48頁 初版 ページ備考
OBC rm0817
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本文  山頂の木を捻倒す如き暴風もピタリと止みて、頭上は酷熱の太陽輝き始めたり。淤縢山津見は、蚊々虎と共にこの山を西へ西へと下りつつ、
『オイ蚊々虎、足はどうだイ。ちつと軽くなつたか』
『ハイもう大丈夫です、この調子なれば如何な嶮しき山でも岩壁でも、たとへ千万里の道程でも行ける様な心持になつて来ましたワ』
『お前はしつかりせぬと曲津に取り憑かれる恐れがある。何と云つてもまだ改心が足らぬから、ちつとも臍下丹田に魂が据わつて居ないので、種々の曲津に憑かれるのだよ。それで足が重くなつたり、苦みたり弱音を吹いたりするのだ。曲津は我々のこの山を越えて巴留の国へ行くのを大変に恐れて居るのだよ。それで腹の据わらぬお前に憑つて弱音を吹かすのだ。魂さへしつかりすれば、たとへ億兆の邪神が来たとて指一本さへられるものではないよ』
『ほんたうにさうですな、イヤこれからしつかり致しませう。随分私も貴下の悪口を言ひましたが、赦して下さいますか』
『赦すも赦さぬもあつたものか、皆お前に憑依した副守が言つたのだ。お前の言つたのぢやないワ』
『三五教は甘い抜道がありますな。あれ丈私が貴下のことをぼろ糞に云つたつもりだのに、それでもやつぱり副守が言つたのですか』
『さうだ。邪神か四足の言葉だよ』
『それでも現に私が確に云つた事を、記憶して居ますがなあ』
『サア記憶して居る奴が四足だもの、虎の本守護神は奥の方にすつこみて、副守がアンナ下らぬ事を云ふのだ。蚊々虎も副守も、まあ似た様なものだねー』
蚊々虎『さうすると私が副守の四足ですか、そりやあまり非道いぢやありませぬか。一体貴下のおつしやる事は何が何だか判らなくなりましたよ』
『人間の云ふことならちつとは、こつちも怒つても見たり、理屈を云うて見るのだけれども、何分理屈を言うだけの価値がないからなー』
『へー妙ですなー。テンで合点の虫が承知しませぬわい』
『まあ好い。俺の言ふ通りにさへすればよいのだ。その内に身魂が研けて本守護神が発動するよ』
 二人はコンナ話しに旅の疲労を忘れて、ドンドンと雑木の茂る、山道を下り行く。傍に可なり大きな瀑布が、飛沫を飛ばして懸つてゐる。見れば四五人の荒くれ男が瀑布の前に腰打掛けて、何か面白さうに囁いてゐた。二人はその前を過らむとする時、その中の一人の男が大手を拡げて谷道に立塞がり、
『オイ暫く待つた。お前は何処のものだ。ここは巴留の国だぞ。鷹取別の司の御守護遊ばす御領地だ。他国の者はこの滝より一人も前へ進む事を許さぬのだ。速かに後に引帰せ』
と睨み付ける。蚊々虎は腕を捲り捻鉢巻をしながら、
『巴留の国が何だ。鷹取別がどうしたと言ふのだ。勿体なくも三五教の大宣伝使淤縢山津見のお通りだ。邪魔を致すと利益にならぬぞ』
 途に立塞がつた男、
『俺は巴留の国の関所を守る荒熊といふ者だ。此方の申す事を聞かずに通るなら通つて見よ。利益にならぬぞ』
『よう吐かしよつたな。俺が為にならぬと云へば、猿の人真似をしよつて為にならぬと吐きよる。ウンそれも判つて居る。人に物を貰つて返しにお返礼を出す事がある。オツトドツコイ貰ひ言葉に返し言葉、しやれるない。俺を一体何と心得てをる。俺は貴様のやうな副守の容器になつた四足魂とは訳が違ふのだ。本守護神様の御発動なされる正味生粋の蚊々虎の狼だぞ。下におれ下におれ。神様のお通りに邪魔ひろぐと貴様の為にならぬぞ。コラ荒熊もうお返礼は要らぬぞよ』
『此奴は執拗い奴ぢや。オイ皆の者来ぬか来ぬか。五人寄つてこの黒ん坊を倒ばしてしまへ』
『アハヽヽヽ、蚊々虎は流石に虎さまだ。俺一人に五人も掛らねば、どうする事も出来ぬとは、貴様らが弱いのか、俺が強いのか、根つから葉つから分らぬ。ヤイ荒熊の五つ一美事掛るなら掛つて見よ』
と拳を握り、腕をニユツと前に突き出し、黒い目をグルグルと剥いて見せる。
『ヤイ貴様あ、何処の馬の骨か、牛の骨か知らぬが、偉う威張る奴だナ。もうそれ丈か、もつと目を剥け、鼻を剥け、口を開け、お化奴が』
『言はして置けば何を吐かすか判りやしない。愚図々々吐かすとこの鉄拳で貴様の横面を、カンカンと蚊々虎さまが巴留の国だぞ』
『オイオイ掛れ掛れ。伸ばせ伸ばせ』
と荒熊が下知するを、蚊々虎は両方の手に唾しながら、
『サア来い、五つ一、一匹二匹は面倒だ。一同五人の奴、束になつて束て一度にかかれ』
『何だ、割木か、柴のやうに束になつてかかれと、その広言は後にせえ。吠面かわくな、後の後悔は間に合はぬぞ』
と前後左右より蚊々虎に武者振りつく。
『ヤー、わりとは手対へのある奴だ。もしもし、センセン宣伝使様、鎮魂だ、鎮魂だ、ウンと一つやつて下さいな』
『マー充分揉れたがよからうよ。あまり貴様は腮が達者だから、鼻の一つも捻ぢ折つて貰へ。アハヽヽヽ』
『そりやあまり胴欲ぢや、聞えませぬ。コンナ時に助けて下さるのが宣伝使ぢやないか、人を見殺しになさるのか。もしもし、もうそれそれ今腕を抜かれる。イヽヽヽイツターイ腕が抜ける。コラ荒熊、荒い事するな。柔かに喧嘩せぬかい』
『喧嘩するに固いも柔かいもあるか。この鉄拳を喰へ』
と云ふより早くポカリと打つ。四人は蚊々虎の左右の手足に確りと、獅噛付きゐる。
『オイ四人の者共それを放すな。これからこの蚊々虎の身体を突かうと殴らうと俺の勝手だ』
『オイ突くのも撲ぐるのもよいが、あまり酷いことをするなよ。ちつと負けとけ、割引せい』
『俺は負けと云つたつて、喧嘩に負けるのは嫌ひだ。木挽なら何の様にも割挽くが俺や止めた、嫌だ。貴様の生首をこれから捻ぢ切つてやるのだ。アー面白いドツコイ、貴様の面ぢや面黒いワイ。ワハヽヽヽ』
と笑ふ途端に崖から谷底目がけてヅデンドウと落込みける。四人は驚いて掴まへた手足を放したれば、蚊々虎は元気づき、
『さあ大丈夫だ。貴様らもこの谷底へみんな葬つてやらう』
 四人は慄ひ戦き、岩に獅噛付いて居る。
『アハヽヽ、俺の真正面に来よつて、この方の霊光に打たれたと見えて、荒熊奴が仰向けに谷底にひつくり返つた。オイ荒熊の乾児共、面を上ぬかい。俺の霊光にひつくり返してやらうかい。もう大丈夫だ。もしもし宣伝使様、貴方はあまり卑怯ぢやないですか。味方の味方をせずに敵の味方をするとはよつぽど好い唐変木ですよ。それだから貴方はおーどーやーまーづーみーと云ふのだ。この蚊々虎の御神力に恐れ入つたらう。これからは荷物持ちになれ』
と云つて大法螺を吹きながら四辺を見れば、宣伝使の影は煙と消えて見えざりけり。
『あゝ弱い宣伝使だな。此奴もまた谷底に放られたのか知らぬ、あゝ気の毒なことだ。袖振り合ふも多生の縁、躓く石も縁の端、折角ここまでやつて来たものの、荒熊と一緒に谷底に放られてしまうたか、エー気の毒ぢや、アー人間と云ふものは判らぬものだナア。今まで偉さうに蚊々虎々々々だのと昔のかばちを出しよつて、偉さうに言つて居たのが、この悲惨な態は何の事かい。昔は昔、今は今ぢや』
と調子に乗つて四人の男を前に据ゑ、一人御託を並べて居る。そこへ流暢な声で、
『神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 この世を造りし神直日』
と云ふ宣伝歌聞え来たりぬ。
『ヨウまた宣伝使か、誰だらう。谷底へ嵌つた幽霊の声にしては、何んとなしに力がある。ハテナ、怪体な事があれば有るものぢや』
と独語を云つてゐると、そこへ淤縢山津見は谷底に落ちたる荒熊を、背に負ひ労り乍ら宣伝歌を歌ひつつ上り来たり。
『ヤヤ バヽ化け者が、よう化けよつたナア』
『オイオイ蚊々虎、俺だよ。化物でも何でもない真実者だ。宣伝使は善と悪とを立別る役だ。貴様があまり御託を並べるから同情は出来ない。却つて俺は荒熊に同情してこの危難を助けたのだ。神の道には敵も味方もあるものか。三五教の御主旨は味方の中に敵が居り、敵の中にも味方が在ると教へられてある。貴様は俺の味方でありながら神様の御心を取違ひ致して、却て敵になるのだ。この荒熊さまは吾々に対して無茶なことを云ひ、吾々の通路を妨げる敵の様だが、敵を敵とせず、敵が却て味方となる教だ。どうだ合点が行つたか』
 蚊々虎は怪訝な顔して、
『へー』
と味のない味噌を喰つた様な顔をして、首を傾け指をくはへ、アフンとして山道に佇立しゐたり。
(大正一一・二・八 旧一・一二 谷村真友録)
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