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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第4篇 巴留の国よみ(新仮名遣い)はるのくに
文献名3第19章 刹那心〔369〕よみ(新仮名遣い)せつなしん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 16:21:38
あらすじ
淤縢山津見は荒熊(高彦)が恐れおののいているのを見て、邪神に取り付かれたために、臆病者になってしまったに違いない、と診断した。そして天の数歌の神嘉言を奏上して人差し指から霊光を放射し、荒熊(高彦)を照らし出した。

荒熊はたちまち身体動揺をはじめ、荒れ狂って大地に倒れふした。その刹那、今まで憑依していた悪霊は荒熊の身体から脱出してしまった。

荒熊(高彦)は立ち上がると、大地を踏みとどろかして雄たけびした。淤縢山津見は元の勇ましさを取り戻した高彦の様子に喜び、巴留の国の都へ案内するように、と促した。

高彦は、鷹取別が日の出神を巴留の国に入れまいと、軍勢を動員していることを伝え、自分は鷹取別軍の動静を探るために、駆け出して行ってしまった。後に蚊々虎は、幾百万の軍勢も自分が吹き飛ばす、と大見得を切っている。

淤縢山津見がたしなめても、蚊々虎は一向に聞く気配はなく、ますます法螺を大きく吹いている。逆に蚊々虎は怖気を見せた淤縢山津見に、宣伝使の覚悟はいかに、と問い詰めた。

淤縢山津見も蚊々虎の的を射た指摘に、やや反省の色を見せた。そこへ高彦が戻ってきた。高彦の報告によると、鷹取別が動員した軍勢は、不思議にも人影もなくなっていた。

これは計略に違いない、と怪しむ高彦らに対して、蚊々虎は意に介さず、刹那心だ、と嘯いて一人、どんどんと坂道を下って行ってしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版127頁 八幡書店版第2輯 196頁 修補版 校定版129頁 普及版56頁 初版 ページ備考
OBC rm0819
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本文  淤縢山津見の宣伝使は大地に伏したる荒熊に向ひ、
『高彦殿、貴下は今まで大胆不敵の強者なりしに今斯く卑怯未練の精神になられたのは、察するに貴下の身体には、邪神悪鬼が憑依して、天授の身魂を弱らせ臆病者と堕落せしめたるならむ。凡て人は心に悪ある時は物を恐れ、心に誠ある時は物を恐れず、吾は是より貴下の魂を入れ替へせむ。暫くここに瞑目静坐されよ』
と厳命したるに、荒熊は唯々諾々として、命のまにまに両手を組み、路上に瞑目静坐したり。
 宣伝使は双手を組み、一二三四五六七八九十百千万の神嘉言を奏上し終つて、左右の手を組みたるまま食指の指頭より霊光を発しつつ、荒熊の全身を照したり。荒熊は忽ち身体動揺し始め前後左右に荒れ狂ひ、キヤツと一声大地に倒れたるその刹那、今まで憑依せる悪霊は、拭ふが如く彼が身体より脱出したり。宣伝使は『赦す』と一声呼ばはると共に荒熊は元の身体に復し、心中英気に満ち顔の色さへ俄に華やかに成り来たりぬ。
 荒熊は突立上り大地を踏み轟かし、
『吾こそは元を糺せば、大自在天の宰相醜国別の御片腕、一時の失敗より心魂阻喪し、千思万慮の結果度を失ひて、八岐大蛇に憑依され、風の音、雨の響きにも心を痛め茅の穂にも戦き恐れ、折角神より受けたる吾が御魂も、殆ど潰え果て、弱り切りたるその所へ、如何なる神の引き合せか、昔仕へし醜国別の宣伝使に、人跡稀なるこの山奥に廻り合ひ、危難を救はれ、日頃吾身を冒しゐたる悪鬼邪神を取払はれ、心は晴れて大空の月の如く輝き渡り、澄みきりたり。最早かくなる上は幾百万の敵軍も、億兆無数の曲神も、真澄の鏡振りはへて、誠の剣抜き持たし、縦横無尽に切りまくり天地に轟く言霊の力に、巴留の都に蟠まる、鷹取別を言向けて功績を立てむ。嗚呼嬉しし嬉しし悦ばし』
と腕を叩いて雄叫びしたり。
 宣伝使は満面に笑を湛へ、
『あゝ勇ましし勇ましし。高彦殿これより巴留の都に向はむ、案内されよ』
と、先に立ちて行かむとするを、高彦は袖を扣へて、
『暫くお待ち下さいませ。この先には数万の群衆、日の出神の当国に押し寄せ来ると聞き軍勢を整へ、伏兵を設けて待ち居れば、如何に神徳高くとも軽々しく進むべからず、一と先づ我は様子を窺ひ報告仕らむ。暫く此所に待たせ給へ』
と、雲を霞と駆け出したり。
 蚊々虎は肘を張り、右の手の拳を固めて左の利き腕を打ち敲きながら、
『たとへ悪魔の軍勢幾百万押し寄せ来る共、この蚊々虎が腕に任せ、寄せ来る敵を縦横無尽に打ち伏せ張り倒し、一泡吹かせて呉れむ。ヤー面白し面白し、吾一生の腕試し、腕が折れるか千切れるか、蚊々虎の隠し力の現れ時、サアサア出て来い、やつて来い。役にも立たぬ蠅虫奴ら、この蚊々虎の鼻息に百や二百の木端武者、吹いて吹いて吹捲り……』
『その広言は後の事だ、さう今から力むとまさかの時に力が抜けて了ふぞ、蚊々虎』
『宣伝使様、オー此処な四人の守護神、人間様、心配するなよ。俺の力をお前達は知らぬから取越苦労をするが、神の道に取越苦労は大禁物ぢや。今と云ふこの刹那が勝敗の分るる所、最初から敵を恐れてどうならうか、戦はぬ内から蚊々虎は敵を呑んで居るのだ。臆病風に誘はれては成らないぞ。この蚊々虎さまがブラジル峠を登つて来る時に、道の両方に雲霞の如き、数限りも知れぬ沢山の敵が、俺等を待ち伏せて居た。その時この宣伝使を傍の木の蔭に忍ばせ置き、数万の敵に向つて大音声。ヤーイ皆の奴木端武者共、俺を何と心得てゐる。この方は広い世界に二人とない智勇兼備の天下の豪傑蚊々虎さまとは吾事なるぞ。相手になつて後悔するな。サー来い勝負と大手を拡げた。数多の敵は言はして置けば要らざる広言、目に物見せてくれむと、四方八方より、タツタ一人の蚊々虎さまを目蒐けて攻め寄せたり。強力無双の蚊々虎さまは、寄せ来る敵を箸で蚕を撮む如うに、右から来る奴を左へポイトコセ、左から来る奴を右へポイトコセ、終にはエヽ面倒と、首筋を一寸撮んで空を目がけてプリンプリンプリン、また来る奴を一寸撮んでプリンプリンプリン、上から降りて来る奴、下から上へ放られる奴、空中で頭の鉢合せをして、アイタヽヽヽピカピカと目から火を出し、放り上げられた奴と、宙から落ちて来る奴と、途中で貴方お上りですか、私は降りです、下へ降りなしたら蚊々虎さまに宜敷……』
『コラコラ法螺を吹くにも程がある。黙らぬかい。言はして置けば調子に乗つて……ここを何と心得をる。数万の強敵を前に扣へて置いて、ソンナ気楽なことを言うて居る所で無いぞ』
『ヤー、ヤツパリ淤縢山津見ぢやなあ、数万の敵にオドオドして、向ふは真暗がり、暗墨の如うに、一寸先は真黒黒助だ。エヘン豪さうに口ばつかり、取越苦労はするな過越苦労は禁物ぢやのと、口先で立派なことを仰有るが、この蚊々虎さまはかう見えても刹那心、たとへ半時先に嬲殺しに逢はされやうが、ソンナ事は神様の御心に任して居るのだ。モシ宣伝使さま、さうぢや有りますまいかな。釈迦に説法か、負うた子に教へられて浅瀬を渡ると言ふのか、いやもうトンとこの辺が合点の虫が、承知しませぬワイ。まさかの時になつて来ると、宣伝使さまの覚悟も誠に怪しい頼り無いものだワイ』
と、目を剥き舌を少し出して、宣伝使の顔をチヨツと見上げる。
 宣伝使は顔を少しくそむけながら、
『さうだなア。さう言へば、マアソンナものかい』
『ソンナものかいも有つたものかい。甲斐性無し奴が、ちと改心したか、エーン』
『蚊々虎、無礼で有らうぞよ』
 斯かる所へ以前の荒熊は、呼吸を喘ませながら、坂道を上り来たりぬ。
 蚊々虎は頓狂な声で、
『ヤー帰つたか様子は何んと、仔細は如何に、細に、言上仕れ』
『また貴様出しやばるな』
『出しや張るツて、刹那心ですよ。気が何だか急くから急いで問うたのですよ。決して取越苦労ではありませぬよ』
 荒熊が、
『申し上げます、不思議なことには何時の間にか人影も無くなつて居ります。之には何か深い計略の有る事と思ひますが、軽々しく進む訳には行きますまい。一つこれは考へものですな』
『ナーニ刹那心だ。行く所まで行かな分るものかい。進め進め』
と蚊々虎は、先に立つて進み行く。
 後に六人は路傍の岩に腰打ち掛け、何かヒソヒソと頭を鳩めて囁きゐたり。
 蚊々虎は只一人、ドンドン腕を振りながら一目散に坂道を下り行く。
(大正一一・二・八 旧一・一二 森良仁録)
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