淤縢山津見は荒熊(高彦)が恐れおののいているのを見て、邪神に取り付かれたために、臆病者になってしまったに違いない、と診断した。そして天の数歌の神嘉言を奏上して人差し指から霊光を放射し、荒熊(高彦)を照らし出した。
荒熊はたちまち身体動揺をはじめ、荒れ狂って大地に倒れふした。その刹那、今まで憑依していた悪霊は荒熊の身体から脱出してしまった。
荒熊(高彦)は立ち上がると、大地を踏みとどろかして雄たけびした。淤縢山津見は元の勇ましさを取り戻した高彦の様子に喜び、巴留の国の都へ案内するように、と促した。
高彦は、鷹取別が日の出神を巴留の国に入れまいと、軍勢を動員していることを伝え、自分は鷹取別軍の動静を探るために、駆け出して行ってしまった。後に蚊々虎は、幾百万の軍勢も自分が吹き飛ばす、と大見得を切っている。
淤縢山津見がたしなめても、蚊々虎は一向に聞く気配はなく、ますます法螺を大きく吹いている。逆に蚊々虎は怖気を見せた淤縢山津見に、宣伝使の覚悟はいかに、と問い詰めた。
淤縢山津見も蚊々虎の的を射た指摘に、やや反省の色を見せた。そこへ高彦が戻ってきた。高彦の報告によると、鷹取別が動員した軍勢は、不思議にも人影もなくなっていた。
これは計略に違いない、と怪しむ高彦らに対して、蚊々虎は意に介さず、刹那心だ、と嘯いて一人、どんどんと坂道を下って行ってしまった。