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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第4篇 巴留の国よみ(新仮名遣い)はるのくに
文献名3第20章 張子の虎〔370〕よみ(新仮名遣い)はりこのとら
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 16:35:29
あらすじ
淤縢山津見は高彦とその仲間四人らとともにブラジル山の西へ西へと歩を進めた。前方の原野には、黄昏の闇に燈火が瞬いているのが見える。

その中に、松明の光がこうこうと輝いて、大勢のわめき声が聞こえている。一行がその方向に向かっていくと、それは蚊々虎が数百人の群集に取り巻かれながら、怒鳴りつけていたのであった。

蚊々虎は巴留の国の軍勢に向かって、三五教の宣伝歌を歌い、黄泉比良坂の戦いが目前に迫っており、改心しろ、と説教している。

群集はそれを聞いて、きちがいだ、いや勇気のある宣伝使だ、とさまざまに批評している。

群衆の中から、へべれけに酔った男が蚊々虎の前に現れて、酒を飲むなという三五教の教えにいちゃもんをつけはじめた。蚊々虎は男の因縁を無視して、カン声を張り上げて酒を戒める歌を歌った。

男は怒って蚊々虎を殴りつける。蚊々虎はなおも酒をやめよ、と歌う。酔った男はますます怒って蚊々虎を脅しつけるが、蚊々虎がウーンと一声怒鳴りつけると、男はよろめいて転倒し、傍らの石に頭をぶつけて血を流し始めた。

この男は喧嘩虎と言って、巴留の国の鼻抓み者であった。誰も喧嘩虎を助けるものはいない有様であった。喧嘩虎は自分の悪口を言った仲間に喧嘩をふっかけ始めた。

蚊々虎はそこへ割って入って、喧嘩虎に勝負を挑みかける。喧嘩虎は立ち上がって蚊々虎に殴りかかった。蚊々虎はただ、喧嘩虎の打つままに任せている。

そこへ、声さわやかな宣伝歌が聞こえてきた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版134頁 八幡書店版第2輯 199頁 修補版 校定版136頁 普及版59頁 初版 ページ備考
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本文  淤縢山津見は荒熊の高彦その他の四人と倶に静々と、ブラジルの山を西へ西へと降り行く。遥か前方に展開されたる原野あり、彼方此方に黄昏の暗を縫うて燈火が瞬きゐる。前方遥かに見渡せば松明の光、皎々と輝き大勢の喚き声聞えけり。一行は、その声の方に向つて急ぎけり。
 見れば蚊々虎を真中に、数百人の群衆は遠巻に取り巻きて何事か呶鳴りつけ居る。蚊々虎は中央の高座に上り、
『朝日は照とも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 神が表に現はれて  善と悪とを立て別ける
ヤイ、巴留の国の奴共、善と悪との立別の戦争は、今におつ始まるぞ。黄泉比良坂の戦ひが目前に差し迫つて居るのだ。何をキヨロキヨロして居るのだい。お前達は朝から晩まで「飲めよ騒げよ一寸先は暗夜、暗の後には月が出る」などと、真黒けの一寸先の判らぬウラル彦の宣伝歌に呆けて、酒ばかり喰つて腸まで腐らして居る連中だらう。勿体なくも黄金山から御出張遊ばした天下の宣伝使、常照彦とは我輩の事だ。確かり聞け、諾かな諾く様にして改心さして遣るぞ。おーい。盲目共、聾共、どうだ改心するか、するならすると男らしくキツパリ此処で神様に申し上げろ』
 群衆の中から、
甲『オイオイ何だ彼奴は、偉さうに吐かしよつて、よつぽど酒が飲み度いと見えるぞ。貴様らウラル彦の宣伝歌を聞いて酒ばかり飲んで俺には少しも飲まして呉れぬと呶鳴つて居るではないか』
乙『貴様、聞き違ひだ。彼奴はなあ、三五教の宣伝使で俺らに酒を飲むな、酒を飲むと腸が腐つて死んで終うと云うて呶鳴つて居るのだ。彼奴の言草はチツとは気に喰はぬが然し吾々を助けてやらうと思つて、大勢の中に単身で飛び込んで、生命を的に彼様な強い事を云うてるのだ。何ほど度胸があつても、吾身を捨てて懸らな、アンナ大胆なことは云はれるものぢやないよ』
丙『何、彼りや狂人だよ。当り前の精神でソンナ馬鹿な事が云へるか。これほど皆が一に酒、二に女、三に○○と云うて居るその一番の楽みを放かせと云ふのだもの、どうせ吾々のお気に入らぬことを喋べくるのだから、生命を的にかけて、ああやつて歩いてゐるのだ。チツとは聞いてやらぬと冥加が悪いて』
甲『何だか知らぬが、この間ウラル彦の宣伝使が来た時には、沢山の瓢箪を腰につけて自分一人酒をグツと飲んでは、酒飲め飲めと勧めて居つたが、何程飲めと云つたとて、俺らは酒をもつて居ないのに飲む事も出来ないし、宣伝使奴が甘さうに飲んで管を巻きよるのを、唇を嘗めて青い顔して、羨り相に聞いて居るのも余り気が利かぬぜ。それよりも彼奴のやうに自分が飲まずにおいて、皆に飲むな飲むなと言ふ方が、まだましだよ。根性なりと僻まいで宜いからなあ』
 大勢の中より酒にへべれけに酔うた男、片肌をグツと脱ぎ、黒ん坊が黄疸を病んだ様な膚を現はし乍ら、宣伝使の前に歩々蹣跚として進み寄り、
男『やい、やーい、貴様あ、ささ酒を飲むなと吐すぢやないかエーン、酒は飲んだら悪いかい、馬鹿な奴だなあ、これほど甘いものを喰うなと吐かしよる奴は一体全体、何処の唐変木だい。エーン、酒が無うてこの世が渡られると思うとるのか、馬鹿、何でもかでも酒が無ければ、夜も明けぬ、日も暮れぬ世の中だ。そして貴様、さけもさけも、世の中に、酒ほど甘いものがあらうか、四百種病の病より酒を止めるほど辛い事は無いと云ふ事を知つとるか、貴様のやうな唐変木には話が出来ぬワイ。トツトと帰れ。俺の処のお多福奴が、毎日日にち酒を飲むな飲むなと吐かしよつて、むか付くのむか付かぬのつて、腹が立つて腸が沸えくり返る。それで俺あ、意地になつて嫌でもない酒を無理に飲んでやるのだ。それに貴様は何処の奴か知らぬが、自家の嬶と同じやうに酒を飲むな、喰ふなとは何の事だい。真実に人を馬鹿にしやがらあ、コンナ事でも自家の嬶が聞きよつたら、三五教の宣伝使様が酒を飲んだら腸が腐るとおつしやつたと、白い歯をむき出し、団栗眼を釣りよつてイチヤイチヤ云ふにきまつてらあ。糞面白くもない。俺の処の嬶の出て来ぬ中に早う去なぬか、待ち遠い奴だ。何をほざいて居やがるか』
 蚊々虎は泥酔者の言葉を耳にもかけず疳声を張り上げて、
『世の中に酒ほど悪い奴は無い  家を破るも酒の為め
 離縁になるのも酒の為め  喧嘩をするのも酒の為め
 生命を捨てるも酒の為め  小言の起るも酒の為め
 ケンケン云ふのも酒の為め  酒ほど悪い奴は無い
 腸腐らす悪酒に  酔うて管巻く悪者は
 扨もさても気の毒な  酒を飲むなら水を飲め』
と歌ひ出すを、泥酔者はますます怒つて、蚊々虎の横面目蒐けてポカンと殴りつける。蚊々虎は又もや疳声を張上げて、
『人を殴るも酒の為め  夫婦喧嘩も酒の為め』
男『まだ吐かしよるか、しぶとい奴だ。もつと殴つてやらうか』
 蚊々虎は目を塞ぎ、泥酔者に向つてウーンと一声呶鳴りつけたるに、泥酔者はヒヨロヒヨロとよろめきながら、傍の石原に顛倒し額を打ちて、滝の如く血を流しゐる。大勢の中より、
甲『おいおい、泥酔者が転けよつた。あらあ何だ、血が出て居るぢやないか、救けてやらぬかい』
乙『救けてやれと云うたつて、コンナ者に相手になる者は、この広い巴留の国には一人もありはせないよ。彼奴はグデン虎のグニヤ虎の喧嘩虎と云うて大変に酒の悪い奴だ。指一本でも触へ様ものなら、因縁をつけよつてヘタバリ込んで、十日でも二十日でも愚図々々云うて只の酒を飲む奴だ。アンナ者に相手になつたらそれこそ家も倉も山も田も飲まれて了ふぞ。相手になるな、放つとけ放つとけ。彼奴が死によると皆の厄介除けだ。国中の者が餅でも搗いて祝ふかも知れないよ』
乙『彼奴が噂に高い酒喰ひの喧嘩虎か。やあ煩さい煩さい、よう云うて呉れた』
虎『だ、だ、誰だい、俺をグデン虎のグヅ虎の喧嘩虎だと、何処に俺がグヅを巻いたか、喧嘩をしたか。さあ承知せぬ、俺を誰様と心得て居る。俺は広い巴留の国でも二人とない虎さまだ。虎さまが酒を飲むのが何が不思議だい。酒飲みは皆酔うと首を振りよつて、誰も彼も張子の虎になるのだ。虎が酒飲んだのが、な、な、何が悪い。さあ承知せぬ、貴様の家は知つとるから之から行つても家も、倉も、山も、田も、御註文通り飲んで遣らうかい。二人の奴、酒の燗をして置きよらぬかい』
と団栗目をむいて睨みつける。
甲 乙『モシモシ、虎さまとやら、お気に障りまして誠に済みませぬ。私は決して貴方の事を申したのではありませぬ。他の国にソンナ人があるげなと云うたのです。取違して貰つては困ります』
『いかぬいかぬ、誤魔化すか。何でも宜い、飲んだら良いのだ、コラ、八頭八尾の大蛇の子とは俺の事だぞ。何も彼も飲むのが商売だ』
 二人は顔を顰め当惑して居る。蚊々虎はこの場に現れて、
『おい虎公、酒喰ひ、何を愚図々々云ふか、俺の腕を見い、誰だと思つてる、三五教の宣伝使だ。貴様が喧嘩虎なら此方さんは蚊々虎ぢや、虎と虎との、一つ勝負を始めようかい』
『な、何だ、喧嘩か、喧嘩は酒の次に好きだ。こいつ、酒の肴に喧嘩でもやらうかい、面白からう』
と虎は立上つて、蚊々虎目蒐けて飛び掛る。蚊々虎は泰然自若として彼が打擲するままに身を任せ居る。斯る処へ暗を破つて、
『神が表に現れて  善と悪とを立別る』
と声爽かな宣伝歌は聞え来たりける。
(大正一一・二・八 旧一・一二 北村隆光録)
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