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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第4篇 巴留の国よみ(新仮名遣い)はるのくに
文献名3第23章 黒頭巾〔373〕よみ(新仮名遣い)くろずきん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 14:49:02
あらすじ
蚊々虎と高彦は、五月姫の心中を忖度しながら滑稽な問答を交わしている。淤縢山津見と五月姫が門内に入った後、蚊々虎と高彦は締め出されてしまうが、再び招き入れられて館に入った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版154頁 八幡書店版第2輯 206頁 修補版 校定版156頁 普及版68頁 初版 ページ備考
OBC rm0823
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本文の文字数2007
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本文  五月姫の従者は松明を点し乍ら、先に立つて道案内をなす、三人の宣伝使は後に随いて行く。蚊々虎、高彦の二人は途々話しを始める。
(小さい声で)『おい、縁は異なもの乙なものじやないか。吾輩のやうな目許の涼しい鼻筋の通つた、口許の締つた男らしい、そしてお負に立派な毛の生えた男を嫌つて、あの禿茶瓶の醜国別が好きだとは、何処で勘定が合ふのだらう。彼奴が頭巾を着てよるから、夜の事なり間違へよつたのだぜ。頭巾を脱いだら五月姫は吃驚しよつて「矢張り人違ひで御座りました。こちらのお方」ナンテ言ひよつて、俺の方へ秋波を送るに決つてるわ。アンナ男を可愛がつたところで、何処が尻やら頭やら判つたものぢやない。物好もあればあるものだね』
高彦『俺が女だつたら……』
『さうだつたら、俺に惚れるだらう』
『自惚れない。貴様の腰はくの字に曲つて居るなり、皺嗄声の疳声を出して、石原を薬罐でも引摺る様な宣伝歌を歌はれたら、愛想が尽きて了ふわ。マア何かい、宣伝使の禿頭の化が露はれて、五月姫が尻を振つたら、第二の候補者はマア高さまかい』
『高が知れたる高彦が、何だい。山道の関守奴が、余り自惚れな』
『へつぴり腰の薬罐声の貴様に、五月姫も有つたものかい』
『何、馬鹿にしよるない』
と蚊々虎は、高彦の横面を拳骨を固めてポカンとやらうとするを、高彦は、
『おい、三五教だよ、堪へ忍びだ』
『ヤアー、宣伝使も辛いものだナ。俺が今迄の蚊々虎だつたら、貴様の頭を思ふ存分やつてやるのだけれど、あゝ神様も胴欲だワイ』
 五月姫は二人の争ひを聞いて、思はず知らず、
『ホヽヽヽ』
と笑ひ出したり。
『おい高公、ホヽヽホケキヨーぢやと。まるで鶯の様な声だね』
『そらア貴様の薬罐声とは、テンデ物が違ふよ。金と鉛か、お月さまと鼈か、雲と泥か、まあソンナものだなあ』
『何つ! キリキリキリキリ』
『こら、歯軋りを噛んで握り拳を固めよつて、そら三五教だよ。見直し、聞直しだ』
『直に人に轡を篏めよつて、コンナ奴に生半熟教理を教へると都合が悪いわ』
『皆さま暗夜に御苦労に預りました。これが妾の両親の住まつて居ります破屋でござります。さあさあお上り下さいませ』
 淤縢山津見は、
『然らば御免』
と、五月姫に導かれ、先に立つて進んで行く。蚊々虎はその口真似をして、
『暗夜の処、ご苦労で御座いました。これが妾の両親の住まつて居ります荒屋でござります。さあさあお上り下さいませ。……然らば御免』
『貴様独言いうて、一人返事をしてるのか。馬鹿だなあ』
『おい高彦、馬鹿と言ふ事があるか、宣り直せ』
『馬鹿々々しい目に逢つたワイ。おい蚊々虎、愚図々々しとると門から突出されやしまひかな』
『何、突き出しよつたら突き出たら可いのだ。つき出て、月出る彦の神さまに成るのだ。あゝ、月が上つた、あれ見い、三五の明月だ』
 四辺は月光に照されて、昼の如くに明るくなりぬ。
 二人は今や東天をかすめて差昇る満月の光を眺めて、色々と無駄話に耽る内、中門はガラガラ ピシヤツと閉められ、五月姫、淤縢山津見は、深く門内に姿を隠したりける。
『おい高公、ガラガラ ピシヤンぢや』
『オイ蚊々虎、ガラガラ ピシヤンて何だい』
『何だつてガラガラ ピシヤンぢや無いか』
『ガラガラ ピシヤンが何だい。閉る時はピシヤンと云ふし開ける時はガラガラと云ふのだ。何処の門口だつて、ガラガラ ピシヤンはするよ。何が珍しいのだ』
『貴様も血の環りの悪い奴だな。それでは宣伝使も落第だよ。天の岩戸はピツシヤリと閉つて、俺ら二人は放つとけぼりだ。人を雲天井に寝さしよつて、自分らは綾錦に包まれて淤縢山津見の奴、今晩は神楽をあげて面白さうに岩戸開きをやりよるのだよ。馬鹿々々しいぢやないか。一つ今晩門の戸でも叩いて囃してやらうかい、むかつくからなあ』
『三五教だ。堪へ忍びだ。怒つちやいかぬよ』
『馬鹿にしやがるなアー、辛抱せうかい』
 この時又もやガラガラと音がして、三人の若い女、徐々と二人の前に現はれ、
『これはこれはお二方様、夜の事と言ひ、取り込んで居りますで、つい忘れました。お姫様がお二人の方は何処へゐらつしやつたと、大変にお尋ねで御座います。どうぞ早く此方へお這入り下さいませ』
『おい、これだから堪へ忍びが第一だと言ふのだナ。俯伏いた拍子に頭巾を辷り落して光つた頭を五月姫に見られて、落第しよつたのだぜ。斯う成ると矢張り蚊々虎さまだよ』
『糠喜びをするない、お前のやうな腰付きでは誰だつて惚やしないよ。それは目のまん丸い鼻の大きい口の大きい締りのある、一寸見ても強さうな高彦さまに、白羽の矢が立つのだよ。まあまあ明日の朝に勝敗が分るわ』
『もしもしお客様お話は後でゆつくりして下さいませ。お姫様が大変お待ちで御座います』
蚊々虎『吐したりな吐したりな、お姫様がお待遠だとい。エヘン』
と蚊々虎は肩怒らして先に立ち門内に姿を隠したりけり。
(大正一一・二・八 旧一・一二 東尾吉雄録)
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