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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第4篇 巴留の国よみ(新仮名遣い)はるのくに
文献名3第28章 玉詩異〔378〕よみ(新仮名遣い)たましい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 15:03:03
あらすじ
一行は巴留の都の入口の森林に駱駝をつないて休息し、作戦を立てていた。淤縢山津見は大軍を持つ敵を言向け和す宣伝使の氏名について語り始めるが、蚊々虎が茶々を入れておかしな問答にしてしまう。

そこへ長剣を提げ甲冑に身を固めた荒武者数十名の駱駝隊が現れて、三五教の宣伝使を槍で突こうとする。

蚊々虎は自分は盤古神王の忘れ形見・常照彦であると名乗り、武者たちに向かって大音声で怒鳴り名乗りを上げた。

その権幕に恐れてか、一目散に逃げ帰ってしまった。一同はその場で神言を奏上し、宣伝歌を歌いながら城下に向かって進んで行く。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月09日(旧01月13日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版190頁 八幡書店版第2輯 218頁 修補版 校定版192頁 普及版84頁 初版 ページ備考
OBC rm0828
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本文  一行は巴留の都の入口の、老木茂れる森林に駱駝を繋ぎ休息したりぬ。淤縢山津見は一同と車座になり、作戦計画を相談しゐたり。
『此処は大自在天、今は常世神王の領分、鷹取別が管掌するところだから、よほど注意をせなくてはならぬ。大自在天の一派は、精鋭なる武器もあれば、権力も持つて居り知識もある。加ふるに天の磐船、鳥船など無数に準備して、併呑のみを唯一の主義として居る体主霊従、弱肉強食の政治だ。吾々はこの悪逆無道を懲さねばならぬのだ。さうして吾々の武器といつたら、唯一つの玉を持つて居るのみだ。その玉をもつて、言向和すのだから、大変に骨が折れる。先づこの戦に勝のは忍耐の外には無い。御一同の宣伝使、この重大なる使命が勤まりますか』
 蚊々虎は、
『勿論の事、武器もなければ爆弾もない、唯天から貰つたこの玉一つだ』
と握拳を固め一同の前に突出し、肩を怒らしながら、
『吾は天下の宣伝使、腰に三尺の秋水は無けれども、鉄より固いこの拳骨、寄せ来る敵を片端から、打つて打つて打ちのめし、一泡吹かして呉れむ』
『コラコラ、ソンナ乱暴な事をやつてよいものか。ミロクの教を致す吾々は、一切の武器を持つ事は出来ない。唯玉のみだ』
『その玉はこれだ』
と握拳を丸くして、ニユツと突出して見せる。
高彦『馬鹿だなあ、そりや握り玉だ。玉が違ふよ』
蚊々虎『ソンナラ俺は玉を二つ持つてゐる蚊々虎だ。何方を使はうかな。貴様らの持つて居るのとは余程大きい立派なものだよ。駱駝に乗つて走る時には邪魔になる。歩く時にも大変な邪魔物だ、一つ貴様に貸してやらうか。それはそれは立派な睾の玉だぞ』
『洒落どころかい、千騎一騎の正念場だ。貴様の魂を以て敵に当れと云ふ事だよ』
『宣伝使がそれ位の事を知らぬで勤まるかい、一寸嬲つてやつたのだよ。敵地に臨んでも、綽々として余裕のある、蚊々虎さまの度胸を見せてやつたのだよ。高彦、これ見よ、だらりと垂下つて居る。度胸の無い奴は強敵の前に来ると縮み上ると云ふことだが、貴様の玉は二つとも臍下丹田天の岩戸の辺に鎮まつて居るのだらう。否舞ひ上つて居るのだらう』
 五月姫は、
『ホヽヽ蚊々虎さまのお元気な事、妾は腸が撚れます』
と腹を抱へて忍び笑ひに笑ふ。
『コレコレ、姫御前のあられもない事、宣伝使の仰有る事を、若い女の分際として笑ふと云ふ事があつたものか。女らしうもない、ちとらしうしなさい』
『淤縢山津見様、蚊々さまや、高さまのお話では一向要領を得ませぬ。一つ大方針を駒山彦に示して下さいな』
 淤縢山津見は立つて歌を歌ふ。
『宣伝将軍雷声有  進神兵万里沙程
 争知臨敵城下地  大道勝驕却虚名』
『何と六ケ敷い歌だのう。宣伝使様、一遍審神をして上げませうか、蚊々虎が。妙な事を云ひますなあ、猿の寝言のやうにさつぱり訳が分らぬじやないか』
『イヤ、駒山彦は分つてゐますよ』
『分つてゐるなら云うて呉れ、ヘボ審神者の誤託宣だ。どうで碌な事はあるまい。蚊々虎さまを大将とすれば、総ての計画はキタリキタリと箱指たやうに行くのだが、淤縢山津見は我があるから、サツパリ行かぬのだ。駒山彦よ、貴様も犬や猿の寝言みたやうな事を、知つとるの、知らぬのと云うて、貴様達が知つて怺るか。もう教へて貰はぬわ。脱線だらけの事を聞いたつて仕方がないからなあ』
 斯く談合ふ所へ、長剣を提げ甲冑を身に纒うた荒武者数十名の駱駝隊現はれ来り、
『ヤア、その森林に駱駝を繋ぎ、休息せる一行のものは、三五教の宣伝使には非ざるか、潔く名乗を上げて吾らが槍の錆となれよ』
と呼ばはりたり。
『ヤアお出たなあ、日頃の力自慢の腕を試すは今この時だ。ヤア五月姫殿、この蚊々虎が武勇を御覧あれ。オイオイ三人の弱虫共、この方の武者振を見て膽を潰すな』
 高彦は蚊々虎に向ひ、
『貴様三五教の教理を忘れたか』
『危急存亡のこの場に当つて、三五教もあつたものか。機に臨み、変に応ずるはこれ即ち神謀鬼策。汝らの如き愚者小人の知るところで無い。邪魔ひろぐな』
と赭黒い腕を捲つて数十人の群に飛び入り仁王立となつて大音声、
『吾こそは、元を糺せば盤古神王の遺児、常照彦なり。今は蚊々虎と名を偽つて、巴留の都に天降り来りし、古今無双の英雄豪傑だぞ。この鉄拳を一つ揮へば百千万の敵は一度に雪崩を打つて、ガラガラガラ。足を一つ踏み轟かせば、巴留の都は一度にガラガラガラ滅茶々々々々。鬼門の金神国治立尊の再来、蓮華台上に四股踏鳴らせば、巴留の国の三つや四つ、百や二百は忽ち海中にぶるぶるぶる、見事対手になるなら、なつて見よー』
と眼を剥いて呶鳴りつけたり。
 この権幕に恐れてか、数十騎の駱駝隊は、駱駝の頭を立て直すや否や、一目散にもと来た道へ走り去りぬ。蚊々虎は大手を振り一同の前に鼻ぴこつかせながら帰り来り、
『オイ、どうだい、俺の言霊は偉いものだらう。言霊の伊吹によつて雲霞の如き大軍も瞬く間に雲を霞と逃散つたり』
一同『ハヽヽヽヽ』
『イヤもうどうも駒山彦は恐れ入つた。随分吹いたものだね』
『吹かいでか、二百十日だ。吹いて吹いて吹き捲つて巴留の都を、冬の都にして仕舞ふのだ』
高彦『油断は大敵だぜ、逃たのは深い計略があるのだよ。蚊々虎が勝に乗じて追ひかけて行くと、それこそどえらい陥穽でもあつて豪い目に遇はす積りだよ。それに違ひない、さすがは淤縢山津見様だ。最前も吟はつしやつたらう、
 争知臨敵城下地  大道勝驕却虚名
だ。オイ敵の散乱した間に何とか工夫をしようではないか』
『女の俄宣伝使の差出口、誠に畏れ多い事では御座いますが、此処で有り難い神言を奏上して宣伝歌を歌つたらどうでせう。蚊々虎さまの言霊よりも御神徳が現はれませう』
 淤縢山津見はやや感心の体にて、
『ヤア、これは好いところへ気がついた。ヤア一同の方々、神言を力一ぱい奏上いたしませう』
一同『御尤も御尤も』
と異口同音に答へながら、芝生の上に端坐して神言を奏上し、終つて五人の宣伝使は蚊々虎を真先に宣伝歌を歌ひながら、城下に向つて進み行く。
(大正一一・二・九 旧一・一三 加藤明子録)
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