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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第5篇 宇都の国よみ(新仮名遣い)うづのくに
文献名3第30章 珍山峠〔380〕よみ(新仮名遣い)うづやまとうげ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 15:30:00
あらすじ
高彦は、巴留の国の西部の守護職となって、国魂・竜世姫神の神霊を奉斎し、鷹取別の後を継ぐことになった。

一行は数日間滞在して国人たちに宣伝歌を教えた後、珍の国へさして進んでいった。蚊々虎が珍山峠で川の水を飲んだ際、熱くて妙な味がすることから、上流に温泉が湧いていることを知った。

一行は旅の疲れを癒すために、温泉を訪ねることにした。するとはるか向こうに宣伝歌を歌う声が聞こえてくる。蚊々虎は先に立って声のする方に行ってしまった。そして、後から来る宣伝使たち一行をしきりに呼びたてている。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月09日(旧01月13日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版205頁 八幡書店版第2輯 224頁 修補版 校定版209頁 普及版91頁 初版 ページ備考
OBC rm0830
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本文  高彦は巴留の国の西部の守護職となり、国魂竜世姫神の神霊を奉斎し、鷹取別の後を襲ふことになりぬ。一行は数日間ここに滞在し国人に宣伝歌を教へ、名残を惜しみつつ又もや宣伝歌を歌つて、珍の国を指して進み行く。夜を日に踵いで四人の宣伝使は、漸くにして巴留と珍との国境、珍の峠の山麓に着いた。四人は芝生の上に腰打掛け折柄吹きくる涼風に汗を払ひつつ、四方山の話に耽りぬ。
 四辺の木々の梢には油蝉が、ミーンミーンと睡たさうな声で囀つて居る。駒山彦は細谷川の清き水を手に掬つて飲みながら、
『アヽ水ほど甘いものは無い。酔醒の水の甘さは下戸知らずだワイ』
蚊々虎『オイ駒、酒も呑まずに酔醒もあつたものかい。余り日が長いので草臥れて夢でも見居つたな。夢の浮世と云ひながら、さてもさても困つた駒山彦だ。アハヽヽヽ』
『オイ蝉の親方、乾児が沢山ゐると思つて威張つてるな』
『蝉の親方つて誰のことだい。よもや俺のことぢやあるまいな』
『誰のことだか知らぬが、蝉といふ奴は人が来ると啼き止んで、パーイと隣の木へ遁て行く奴ぢや、その機に屹度小便をかけて行くよ。貴様はこれまで何でも物を買ひよつて、好い程使ひよつてモー嫌になつたと云ひよつて、価も払はずに小便をかける奴ぢやらう。矢釜敷吐く奴は蝉だよ。しかしモーコンナことは免除して置かうかい、この山坂になつてまた悄気て平太りよると一行の迷惑だからな』
『殊更暑き夏の日に、巴留の都を立出でて、岩の根木の根踏さくみ、心の駒に鞭打ちてここまで来るは来たものの、こないな奴と道伴れに、なるのは俺も秋がきた。大神さまも胴欲だ。困つた駒山彦の奴、珍山峠の頂辺から、駒の如くに転げ落ちて……』
『コラコラ蚊々虎、縁起の悪いことを云ふな。淤縢山津見さまが居らつしやるのを知らぬか』
『おど山も何もあつたものかい。俺の困るのは珍山峠だ。一つ水でも飲んで元気を出して越えてやらう』
と云ひながら、谷水を掬うて一口飲み、
『ヨー、此奴は妙な味がするぞ。さうして湯のやうに熱いじやないか。ナンデも此の水上に温泉が湧いて居るに違ひ無いわ。余り急く旅でも無し、一つ此の谷川を伝うて湯の湧いて居る所まで探検しようぢやないか』
 淤縢山津見は不思議さうに、
『さうか、温いか、妙だナア』
『大変に暖かくつて好い味のする水ですよ。旅の疲れを癒すには持つて来いだ。一つ行つて見ませうか』
『よからう』
と一同は、谷川を右へ飛び越え、左へ渡り上ること数十町、漸くにして谷幅の広い処に出て来た。はるか向ふに谷間を響かす宣伝歌聞え来たる。
蚊々虎『やあ宣伝歌だ。コンナ所に誰が来て居るのだらう』
駒山彦『莫迦云へ、誰がコンナ所に来て気楽さうに人もをらぬのに宣伝歌を歌ふ奴があるものか。きつと天狗だよ』
『何ツ! 天狗だ。そいつは面白い。一つ蚊々虎と天狗と力競べでもしてやらうか』
『オイオイ、貴様は何でも彼でも向ふいきの強い奴だナ。ドンナ危ない処でも一番に飛び出しよつて、しまひには失策るぞ』
『俺が失策つたことが一度だつてあるかい。強敵を前に控へて矛を納め、旗を巻て予定の退却をするのは大丈夫の本懐では無いぞ』
『また法螺を吹きよる。まあまあ油断大敵だ。そーつと様子を考へて行つて、其の上のことにせい』
『貴様は何時もそれだから困る。畏縮退嬰主義だ。出る杭は打たれる。触らぬ蜂は刺さぬ、事勿れ主義の腰弱宣伝使。俺は偵察ナンテ、ソンナ気の長い事はして居れない。これから一歩先へ行つて偵察兼格闘だ。俺が勝たら呼ぶから出て来い。俺が負けたら黙つて居るわ。お前の様な弱虫が随いて来ると足手纏ひになつて、碌に喧嘩も出来はしない』
と云ひながら一目散に歩足を速めて、猿の如く谷川の岩をポンポンと飛び越えて、姿を隠したり。
 三人の宣伝使は、その後を追うて悠々と登り行く。忽ち前方に当つて、
『オーイ、オーイ』
と呼ぶ蚊々虎の疳高い声が、木霊に響き来たる。
駒山彦『ヤア、あれは蚊々虎の声ですな。また何か一人で威張つてるのでせう。面白い奴もあればあるものですな』
淤縢山津見『彼奴は剽軽な奴で、比較的豪胆者だから伴れて歩いて居るのだが、旅の憂さ晴らしには打つてすげたやうな男だ。アハヽヽヽヽ』
五月姫『本当に面白い方ですね。彼の方と一緒に宣伝に廻つてをれば、何時も笑ひ通しで春のやうな心持がしますわ。ホヽヽヽヽ』
駒山彦『大変な御執心ですな。お浦山吹さま、駒も堪りませぬワ』
 五月姫は、
『ホヽヽヽ』
と笑ひながら袖口に顔を隠す。又もや、
『オーイ、オーイ』
と云ふ声が響き来たりぬ。一行は思はず足を速めて声する方に急ぎける。
(大正一一・二・九 旧一・一三 外山豊二録)
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