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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第5篇 宇都の国よみ(新仮名遣い)うづのくに
文献名3第38章 華燭の典〔388〕よみ(新仮名遣い)かしょくのてん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ梅ケ香姫(梅香姫) データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 15:55:39
あらすじ
一同は神前に神言を奏上し、賛美歌を唱えて休息していた。正鹿山津見はふすまを開けて入り来た。そして御飯の用意ができたことを告げた。

蚊々虎は妻のない正鹿山津見の様子を見て、一国の守護職であり宣伝使でもある正鹿山津見に、女房を世話しよう、と申し出た。そして、候補に五月姫を挙げた。

淤縢山津見が正鹿山津見にこのことを伝えた。また、蚊々虎の説き諭しに五月姫は涙を流して感謝の意を表し、承諾した。

ここに一同は盛大な結婚の式を挙げた。直会の宴のさなか、番頭の国彦がやってきて、聖地エルサレムから正鹿山津見を訪ねて三人の娘、松代姫、竹野姫、梅ケ香姫がやってきた、と伝えた。正鹿山津見は嬉しいことは重なるものだと言って喜んだ。

正鹿山津見はかつて聖地の天使長・桃上彦であった。兄・広宗彦や行成彦の神政を奪って体主霊従の限りを尽くし、地の高天原は混乱の極みに陥った。妻は病死し、自分は常世彦・常世姫によって追放されたのである。

船に乗っていたところ暴風にあって船は転覆したが、琴平別の亀に救われて竜宮城にいたり、門番となって長い間艱難辛苦を嘗めたが、日の出神に救われて、珍の国の守護職となった。

正鹿山津見の三人の娘は、神夢に感じてはるばるここに訪ねて来た。黄泉比良坂の上で黄泉軍を待ち討った伊弉諾命の三個の桃の実とは、すなわち桃上彦の三人の娘の活動を示したものである。
主な人物 舞台ウヅの館 口述日1922(大正11)年02月10日(旧01月14日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版268頁 八幡書店版第2輯 247頁 修補版 校定版272頁 普及版119頁 初版 ページ備考
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本文  一同は国魂の神前に神言を奏上し、讃美歌を唱へ終つて休息してゐた。正鹿山津見は襖を押開け入り来り、
『御飯が出来ました。どうぞ御上り下さいませ。何分長らく留守に致して置きましたのと、家内がないので不行届き、不都合だらけですけれど』
と挨拶を述べ、この場を立ち去りぬ。
珍山彦『皆の方々、今承はれば正鹿山津見様は女房が無いと云ふ事だ。一国の守護職として宣伝使を兼ねられた急がしい身体、肝腎の女房が無いとは気の毒でないか。一つ珍山彦が奥様を御世話しようと思ふが如何でせうな』
 駒山彦は膝をのり出し、
『それは結構だな。適当の候補者の見込みがあるのかい』
『あらいでか、確にあるのだ。吾々の御世話したいのは、女宣伝使の五月姫だよ。ナア五月さま、貴方は珍山峠の麓の岩の上で、正鹿山津見さまは誠に男らしい、立派な御顔付きの方だと云うて居ましたね、御異存はありますまい』
 五月姫は黙つて袖に顔を隠す。駒山彦は言葉せはしく、
『そらいかぬ。お人が違ふではないかな。貴様はあれ丈け惚れてゐたではないか。俺は貴様の奥さまに世話したいと思つてゐたのだ。ソンナ遠慮は要らぬ。遠い所からくすぐるやうに謎かけをせずに、「五月姫殿、珍山彦の女房になつて下さい」と、男らしくキツパリと切り出したら如何だい。奥歯に物の詰つたやうな事を言ひよつて、何処までも図々しう白ばくれる男だな』
『このはなさまは故あつて女房は持ぬのだ。それ丈は怺へて呉れ。余り俺が洒落るものだから、本当にし居つて痛うない腹を探られて迷惑だよ。さうぢやと云つて、此の可愛らしい五月姫が嫌ひだと云ふのでは無い。好きの好きの大好きだが、女房を持れぬ因縁があるのだよ』
『オイ蚊々虎、ドツコイ珍山彦、その因縁を聞かうかい』
『お前に聞かせるやうな、因縁なら何に隠さう。こればかりは怺へて呉れ。俺は未だ未だ重大なる任務があるのだから』
 淤縢山津見は、
『ヤア珍山さま、貴方の事は何うしても吾々は合点が往かない。丸切り天空を翔る蛟竜の如く、千変万化捕捉すべからずだ。もう何事も言ひませぬ。貴方の御意見に任して五月姫さまを、此家の主人の奥様に推薦したいものですな』
 珍山彦は、
『どうか貴方も御同意ならば、正鹿山津見さまに一つ掛合つて見て下さいな』
 淤縢山津見は『よろしい』といつて其の場を立ち一室に行つた。
 五月姫は顔を赤らめて俯向いてゐる。駒山彦は、
『これこれ五月さま、女にとつて一生の一大事、俯向いてばかり居つては事が分らぬ、珍山さまにするか、正鹿山津見さまにするか、右か左か返答しなさい。御意見あらば吾々に、隔ても何もない仲だ、キツパリ云つて下さい。万々一両人の御方が気に入らねば、外に候補者も無いことはありませぬよ。コーと云ふ頭字のついた人を御世話致しませうか』
 珍山彦は駒山彦の顔を眺めて、
『ウフヽヽヽ』
 五月姫は漸くに面を上げて、
『ハイハイ、正鹿山津見さまさへ御異存無くば』
 珍山彦は手を拍つて、
『お出でたお出でた、願望成就、時到れりだ。ヤア、さすがは五月姫殿、天晴れ天晴れ、よう目が利いた。夫れでこそ天下の宣伝使だ。思ひ立つたを吉日に、今日婚礼の式を挙げませう』
 駒山彦は、
『コラコラ、珍山彦、一方が承知したつて、一方が何う云ふか判りはしない、鮑の片想ひかも知れないのに、よく周章てる奴だな』
珍山彦『なに大丈夫だよ。猫に鰹節だ、狐に鼠の油揚だ、二つ返事で喰ひつき遊ばす事は、請合ひの西瓜だ、中まで真赤だ。コレコレ五月姫さま、貴方も今までは押しも押されもせぬ一人前の女だ、男も女も同じ権利だつた、言はば男女同権。しかし今日から結婚したが最後、夫に随はねばならぬ。夫唱婦従の天則を守り、主人によう仕へ、家の中を治めて行くのが貴女の役だよ。男女同権でも、夫婦同権でないから、それを忘れぬやうに良妻賢母の鑑を出して、三五教の光を天下に現はすのだ。広い世の中に夫となり妻となるのも深い深い因縁だ、神様の御引合せだから、決して気儘を出してはいけませぬぞ。私が珍山峠で御話ししたやうに、どうぞこの花婿を大切にして蓮の台に末永う、必ず祝姫の二の舞を踏まぬやうにして下さい。頼みます』
 五月姫は涙をボロボロと零しながら、
『ハイ、何から何まで、貴方の御親切は孫子の時代は愚か、五六七の世まで決して忘れは致しませぬ。貴方の御教訓は必ず固く守ります。御安心して下さいませ』
『ナント珍山、貴様は変な男だねー。ホンニ合点のゆかぬ男だ。コンナ別嬪を人にやるなどと、ナントした変人だらう。が併し感心だ。この駒山だつたら迚も其処まで身魂が研けて居らぬからなー』
 斯く話す折しも、正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ、この場に現はれ叮嚀に辞儀をしながら、
『御一同様、いろいろと御世話になつた上、今度は結構な御世話を下さいまして有難う。御恩の返し様は、もう御座りませぬ』
と感謝の意を漏した。
 珍山彦は、
『あゝ結構々々、それで安心して吾々も宣伝に参ります。どうぞ幾久しく夫婦仲好くして此の神国を永遠に治めて下さい。一朝事ある時は、夫婦諸共神界の御用に立つて下さい』
と日ごろ快活な男に似ず、声を曇らして嬉し涙を零し居たり。
 淤縢山津見は、
『ヤア、斯く話が纏まつた上は、善事は急げだ。早く神前結婚の用意にかかりませうか』
 茲に一同は家の子郎党と共に、盛大なる結婚の式を挙げける。一同は直会の宴にうつり、各手を拍ち歌を歌ひ、感興湧くが如き折しも、番頭の国彦は襖を開いて、
『御主人様に申上げます。只今ヱルサレムの聖地から松代姫、竹野姫、梅香姫の三人の御嬢様が、「御父様の住家は此処か」と云つて、一人の供を伴れて御出でになりました。如何が取計らひませうか』
 正鹿山津見は驚きながら、
『あゝ嬉しいことが重なるものだな』
 一同手を拍つて、ウローウロー。
   附言
 正鹿山津見は、聖地ヱルサレムの天使長であつた桃上彦命である。兄広宗彦命、行成彦命の神政を奪ひ、体主霊従の限りを尽し、地の高天原は為に混乱紛糾の極に陥り、その妻は病死し、自分は常世彦、常世姫のために、或一時の失敗より追放され、三人の娘を後に残して住み慣れし都を後に、一つ島に進む折しも、暴風に逢ひ船は忽ち顛覆し、琴平別の亀に救はれ竜宮城にいたり、門番となり果てし折しも、日の出神に救はれ、この珍の都の守護職となれるなり。
 この事を三人の娘は、神夢に感じて遥々此処に尋ね来たり。黄泉比良坂の坂の上に於て、黄泉軍を待ち討ち給ひし伊弉諾命の三個の桃の実は、即ち桃上彦命の三人の娘の活動を示されたるなり。
(大正一一・二・一〇 旧一・一四 外山豊二録)
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