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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第1篇 長途の旅よみ(新仮名遣い)ちょうとのたび
文献名3第2章 エデンの渡〔395〕よみ(新仮名遣い)えでんのわたし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-24 11:17:42
あらすじ
姫たちは渡し場で、男たちに向こう岸に渡してくれるよう交渉を始めた。しかし姫たちが桃上彦の娘と分かると、船頭たちの態度は一変した。

そして、姫たちに自分たちの妻になれ、と無理難題を言い始めた。そこへ照彦が追いついて、自ら大天狗と名乗って船頭たちを掴んでは投げ、追い散らしてしまった。

一同は危機を乗り越えたことを神に感謝した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月12日(旧01月16日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版12頁 八幡書店版第2輯 279頁 修補版 校定版14頁 普及版4頁 初版 ページ備考
OBC rm0902
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本文  松、竹、梅の三人の美人はエデンの渡し場に漸く辿り着きぬ。松代姫は五人の男に向ひ、豊な頬に紅の潮を漲らし、潤ひのある涼しき眼に緑の黒髪の乱れを繕ひながら、
『もし、貴方等はこのお里の方で御座いますか。何卒妾を向ふ岸へ渡して下さいませぬか』
甲『ヤ、天の川を下つて御出でなさつた棚機姫様で御座いますか。ハイハイ喜んでお供いたしませう。天の川のやうに深い事もありませぬ、又高いこともありませぬから、滅多に天へ落ちる筈はありませぬ、サアサ、天の棚機姫様御一同、私の宅へおいで下さいませ』
『イヤ、妾は天から来たのでは御座いませぬ。聖地エルサレムから一人の父を探ねて、ウヅの国へ参るもので御座います』
乙『アヽお前さまは矢張りさうすると人の子だなア。あまり美しいので天女の天降りか、棚機さまだらうかと、今も今とて五人の者が噂を致して居りました。アヽ一寸見れば年は二八か二九からぬ、十九か二十の花盛り、真実に惜しいものだね。そして今貴女は一人の父を探ねると仰有つたが、其お父さまと云ふのは何方様の事ですかい』
『ハイ、妾の父は聖地ヱルサレムの元の天使長でありました桃上彦命で御座います』
丙『ヤア何だい、極悪無道の桃上彦命の娘かい、何とまあ烏が鶴を生んだのか、鳶が鷹を生んだと云ふのか、世の中は変なものだなア。吾々の妹も桃上彦命の家来の奴に誘拐されて今に行衛も知れず、如何なつた事かと、毎日日日妹の在処を心にかけて忘れた遑はないのだ。思へば敵の端だ、ヤアもう今日は妙な心持になつて来た、何程綺麗な女でも敵の娘と聞けば、エー面黒くもない』
と黒い腕をヌツと出し、握り拳を三人の娘の前につき出しながら、
『ヤイ、貴様は神様だと思つて、チツトは俺等も面喰つて居た処だ。それに、そつちから吾と吾手に桃上彦の娘と名乗つた以上は、ヨモヤそれに相違はあるまい。サアかうなる以上は五人の荒くれ男に三人の孱弱い女だ。ジタバタしたつて、もうあかぬ。潔く俺らの女房となるか。嫌ぢやなどと貴様の白い首を横にでも振つて見よれ、この鉄拳が貴様の頭上にポカンと御見舞だぞ。サア返答はどうだ』
乙『ヤイヤイ、見れば見るほど美しい、惜しいものだ。いづれ貴様らも一篇は夫を持たねばなるまい、ドンナ男に添ふのも因縁だ。俺らの女房になる気はないか。ヤイ何、嫌と云ふのか、素直に首を縦に振つてアイと云はつしやい。お姫さま、之程恐く見えても矢張り男と女だ。女にかけたら涙脆いものだよ。一黒、二赤、三白といつて、黒い奴は味がよいものだ。どうだ、如何だい、返答聞かう』
『オホヽヽヽ、皆さま、こんな不束な女に対してお嬲りなさるのですか。冗談も良い加減にして下さいな。妾の父は貴方の仰有る通り悪い者で御座いましたか知りませぬが、妾には何の罪咎もない。幸ひ女の身の姉妹三人、旅は道伴れ世は情、世界に鬼はないと聞きました。何卒妾にそんな事仰有らずにこの河を渡して下さいませ』
丙『何卒妾にソンナ事仰有らずに渡して下さいませ、ソリヤ、何吐しよるのだ。此渡しを渡して下さいませ、なんて、此方が石のやうに硬く出れば綿のやうに柔かく出よつて、イヤモウ優しい面をして酢でも菎蒻でもゆく奴ではないワイ。オイ皆のもの、掛合ふも面倒臭い。此奴ら三人の奴をこの船に乗せて、河の真中に連れて退引きさせぬ談判をやるのだ。兎に角、船に乗せた上は此方のものだ。河の真中に船をとめてゆつくりと談判をやるに限る。女の一心、岩をも徹すと云ふが、男の一心は一口、半句もいはいでも徹すのだ。河の中へ伴れて行けば、変り易きは女の心、乗りかけた船だ、アヽア仕方がない、それなら貴方等の仰有る通りに致します。此エデンの河の様に、深くふかくかはいがつて下さいと仰有るのは目のあたりだ。淵瀬と変る人の行末、昨日や今日の飛鳥川、明日をも知れぬ生命だ、一寸さきは暗の世だ。たとへ一息の間でもコンナ綺麗な女と添ふ事が出来たら一生の光栄だ。イヤ三人のお方、船に乗つて下さい、乗せませう。その代りに、吾々ものせて貰はなならぬからな、宜しいかな。親切を尽して助け助けられ、世の中はまはり持ちだ。浮世の船に棹さして激しき河の瀬を渡るも何かの因縁だらう。此処は三途の川ぢやない、花は麗しく果物豊かな顕恩郷だ、イヤ貴女等も顕恩郷の花となつて睦じく暮すのだよ。さうなれば妹の仇も何も此エデンの河へサツパリ流れ勘定だ。流れ川で尻を洗つたやうにすつかり打ち解けて、清い清い水も洩らさぬ顕恩郷の恵みを楽しむのだな。売言葉に買ひ言葉、魚心あれば水心あり、斯う見えても真実に優しい男だよ。人には添うてみい、馬には跨つて見い、船には乗つて見いだ。さあ早く乗つたり乗つたり』
 竹野姫はためらいながら、
『姉さま、妹、如何致しませう。妾恐ろしいワ』
『姉さま、やめませうか、もう帰りませう、生れてからコンナ恐い目に遇つた事はありませぬ。アヽ誰ぞ助けに来て呉れるものはありますまいかね』
と梅ケ香姫は憂ひを浮べて涙を袖に拭ふ。
甲『さあ早く乗らぬかい、何を愚図々々してるのだ。乗せて呉れえと頼んだぢやないか。吾々は色々と評議をして、到頭お前たちを乗せてやることになつたのだ。人の親切を無にして乗らぬと云ふのか。この場になつて乗るの乗らぬのと、そんな馬鹿なことがあつたものかい、乗らぬなら乗らぬで宜い、男の一心いはいでも徹す、フン縛つてでも乗せてやるのだ』
と云ひながら五人の男は、今や三人の美人に向つて乱暴に及ばむとする。此時浅黄の被布に襷を綾取つた男、息せききつて此場に現はれ、
『ヤアヤア、待つた待つた、待てと申さば待つが宜からうぞ』
甲『ナヽヽ、ナヽヽ何邪魔をするのだ、唐変木奴が。九分九厘と云ふ処へやつて来よつて、待つも待たぬもあつたものかい、邪魔をひろぐと生命がないぞ』
一人の男はカラカラと打笑ひ、
『吾こそは地教の山に鎮まる大天狗だ。愚図々々吐すと、腕をむしり股を引裂き、エデンの河に投込んでやらうか』
 一同は、
『何、その広言は後にせよ』
と、各自に拳骨を固めて四方より打つてかかるを、一人の男は縦横無尽に五人の間を駆廻り、襟髪とつてドツとばかりエデンの流れに向つて投げつけ、また来る奴を首筋掴んで、以前の如くドツとばかりに投り込む早業。残る三人は捻鉢巻をしながら又もや武者振りつくを、
『エイ面倒』
と足をあげてポンと蹴る途端に、ヨロヨロヨロとよろめき大地に大の字に倒れ伏す。残る二人は雲を霞と韋駄天走り……。松、竹、梅の三人は地獄で仏に会うたる心地して、一人の男の前に現はれ両手をつき、
松代姫『何処の方かは知りませぬが、危き処をお助け下さいまして……』
と云はむとすれば、男は大地に平伏して、
『イヤ勿体ない、お姫様、私は照彦で御座います。一足の事で大変で御座いました。九分九厘で神様がお助け下さつたのでせう。私も今日に限つて思はぬ力が出ました。これ全く国治立大神の御神徳の然らしむるところ、此処で一同揃うて神様に御礼を致しませう』
『アヽ、汝は照彦、ようまア、いい処へ来て呉れました。妾ら姉妹はお前に黙つて来て済まなかつたが、お前に旅の苦労をさすのが可愛さうだと思つて、姉妹三人牒し合せ、此処まで来るは来たものの、虎、狼、獅子、大蛇の荒び猛ぶ山の尾踏み越え、心淋しき折柄に、此渡し場にヤツト一息する間もなく、又もや荒くれ男の無理難題、進退谷まつた其の刹那、お前に会うたのは全く神様のお引合せ、何卒、父上の国まで送つて下さらぬか』
 照彦は、
『ハイ』
と答へて平伏する。二人の妹は嬉しさうに、
『アヽ、照彦、能う来て下さつた。サアサ一同、お祝詞を奏上げませう』
 茲に四人の主従は路傍の芝生に端坐し、拍手をうつて天津祝詞を奏上し、神恩を感謝しぬ。
(大正一一・二・一二 旧一・一六 北村隆光録)
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