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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第2篇 一陽来復よみ(新仮名遣い)いちようらいふく
文献名3第8章 再生の思〔401〕よみ(新仮名遣い)さいせいのおもい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-23 21:16:38
あらすじ
松代姫、竹野姫、梅ケ香姫は、智利の港で男に、父・桃上彦が巴留の国で命を落としたと聞かされて、泣いていた。

従者の照彦は、三人の姫たちを励ましていた。そこへ船中から大蛇彦と名乗る色の黒い男が現れて、桃上彦は珍の国で正鹿山津見という立派な神となって無事であることを告げた。一同は大蛇彦の話に勇気付けられた。

大蛇彦は珍の国まで道案内をしようと申し出た。大蛇彦は、高砂洲での桃上彦の遍歴を歌に歌いこみながら一行を案内した。

大蛇彦が歌を歌い終わると、不思議にも大蛇彦の姿は煙のように消えうせていた。そして一行はいつの間にか珍の国の正鹿山津見(桃上彦)の館の門前にたどり着いていた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月12日(旧01月16日) 口述場所 筆録者河津雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版61頁 八幡書店版第2輯 297頁 修補版 校定版65頁 普及版26頁 初版 ページ備考
OBC rm0908
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本文  珍の都の桃上彦命は、巴留の都に出でまして、敵の鋭き槍に突き刺され、沙漠の露と消え給ひしと、聞くに驚く三柱の姫はワツと絶え入るばかり、船底に喰ひついて、声を忍びに泣き入るにぞ、照彦は当惑の息を漏らしながら、
『これはしたりお三方様、御父上の亡くなられたといふことは、決して確なものではありませぬ。察する処、吾々に酒代が欲しさに、斯様なことを申して吾らの心を動かせ、目的を達せむとした悪者の悪企みにかかつたのでせう。必ず必ず御心配下さいますな。行く処へ行つて見なくては実否は判るものではありませぬ。道聴途説に誤られて、肝腎な時になり、小さき女の胸を痛め、若しも御身にささはりでも出来たならば、この家来の照彦は、どうして御父上様に申訳が立ちませうか。冥途にござる母の君へも済みませぬ。どうかお三人様、気を確に持つて下さい、屹度この照彦が御主人様にお会はせ申しませう』
 松代姫は涙を拭ひながら、
『あゝ照彦、よく言うて呉れました。お前の親切は身に沁み渡つて嬉しいが、嘘とは思へぬ客人の咄、まさかの時には妾は何うしようぞ。折角長の海山を越え、孱弱き妹を伴れて、やうやうここに着きは着いたものの、お父上の訃音を聞いて、天にも地にもない一人の親、妾はどうして忍ばれませうぞ』
竹野姫『姉様、どうなり行くも因縁づく、万々一お父さまがお隠れになつたとすれば、力と頼むは姉さまばかり、何卒しつかりして下されませ。梅ケ香姫はやうやう十六歳、花の蕾の開かぬうちから、こんな憂き目に出会ふとは、何たる因果のことでありませう』
『モシモシお三人様、決して決して御心配下さいますな、ここは名に負ふ智利の国、あれ御覧なさいませ、今日の日輪様は殊更麗しい、御機嫌のよい顔をしてにこにこと笑つてゐられます。若しもお父さまが此世に御座らぬやうな事なれば、どうして日天様があのやうな麗しいお顔で吾々を照して下されませうぞ。要らざる取越苦労を止めて、先を楽しんで参りませう。一歩々々珍の都へ近寄るのですから、サアサア上陸致しませう』
 此時船の一隅より、中肉中背の色浅黒き男、四人の前に現はれ来り、
『私は恐ろしい名のついた、大蛇彦といふ男でございます。これから珍の国へ帰りますから丁度よい道伴、都近くまで御供いたしませう、御安心なされませ。今承はれば、貴女様は珍の都に其御名も高き桃上彦命様の御娘子とやら、今は正鹿山津見神といふ立派な神様になつて、御無事でゐらつしやいます。決して決して御心配なく、私と共にまゐりませう』
 松代姫は飛び立つばかり嬉しげに、
『それはそれはよい事を聞かして貰ひました。有難うございます』
 竹野姫、梅ケ香姫は俄に顔色麗しく、冴え渡りし声にて、
『お姉さま、嬉しいワ』
『アヽ嬉しかろ嬉しかろ、姉さまも嬉しい、心が冴え冴えして来ました』
照彦『ヤア、大蛇彦さま、あなたは珍の国の御方、イヤモウ、よいことを聞かして下さりました。吾々もこれで安心いたします。足も何となく軽いやうな気分になつて来ました。どうかお頼みですから、ひとつ道伴れになつて下さいませ』
『ハイ、宜しう御座います。私が道案内を致しませう』
 三笠丸を乗り棄て、ここに一同は智利の港の町をあとに、南を指して心もいそいそと進み行く。
 大蛇彦は先に立ち、
『ここは高砂智利の国  竜世の姫の鎮まりて
 守り給へる神の島  御空に高く月照彦の
 貴の命の神魂  鏡の池に現れまして
 日に夜に詔らす言霊の  恵も深き智利の国
 珍の都に現れませる  桃上彦の神司は
 名さへ目出度き宣伝使  正鹿山津見神となり
 珍山峠を乗り越えて  巴留の都を救はむと
 出でます折しも曲神の  鷹取別の僕人に
 とり囲まれて玉の緒の  一度は息も切れたれど
 木の花姫に救はれて  再びここに蘇り
 珍の都に帰りまし  花を欺く手弱女の
 心も清き宣伝使  五月の姫を妻となし
 淤縢山津見や駒山彦の  神の命の宣伝使
 珍山彦と諸共に  千歳を契る妹と背の
 今日は祝ひの宴の庭  喜びたまへ三柱の
 姫の命よ千代八千代  変らぬ松の色深く
 心のたけのすくすくと  開く梅ケ香芳ばしも
 月日は空に照彦の  御供の神と諸共に
 大蛇の船に乗せられて  はやくもここに着きにけり
 はやくもここに着きにけり』
と歌ひ終るよと見れば、大蛇彦の姿は煙と消えて、呼べど叫べど何の応へもなく、樹々の梢を渡る松風の音、颯々と耳に響くばかりなり。
 さしもに嶮しき遠き山路も瞬間に送られて、ここに主従四人は正鹿山津見神の門前近くに現はれける。
(大正一一・二・一二 旧一・一六 河津雄録)
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