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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第3篇 天涯万里よみ(新仮名遣い)てんがいばんり
文献名3第14章 闇の谷底〔407〕よみ(新仮名遣い)やみのたにぞこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-14 20:43:59
あらすじ
一行は照山峠を東に向かって下っていった。智利の国の里近くまで降りてきたところで、不思議にも一行の足は一歩も進むことができなくなってしまった。

かたわらの鬱蒼たる森林の中からは、淤縢山津見、駒山彦、照彦を呼ぶ破れ鐘のような声が響いてきた。三人はその声に、ひきつけられるようにして森の中へ入ってしまった。

後には、珍山彦と三姉妹が残された。珍山彦は、これから四人でハラの港からアタルの都に入り、常世の国へ渡って黄泉島の宣伝をするのだ、と伝えた。そして、宣伝使の実地教育を珍山彦自ら行うのだ、と諭した。

珍山彦は三姉妹に、九死に一生の困難を克服しなければ誠の道は開けない、その後は各自宣伝使となってばらばらになり、神業に奉仕するのだ、師匠兄弟を杖に付くようなことでは神界の奉仕はできない、と心構えを伝えた。

四人はハラの港に向かって進んで行く。

一方、淤縢山津見、駒山彦、照彦は怪しい声にひきつけられて谷川をさかのぼり、数里山奥に分け入っていた。高山と高山の深い谷間には月影もささず、夜はおいおいと更けていくばかりであった。

三人の身体はまたもや強直して動くことができなくなった。照彦は神懸りし、月照彦命である、と口を切った。そして淤縢山津見と駒山彦の心構えの甘さを厳しく問い詰め始めた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月14日(旧01月18日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版110頁 八幡書店版第2輯 314頁 修補版 校定版117頁 普及版43頁 初版 ページ備考
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本文  淤縢山津見一行は、照山峠を東に向つて下つて行く。智利の国の里近くなつた時、一行の足はぴたりと止まり、どうしても一歩も進む事が出来ない。
珍山彦『ヤア、足が歩けないやうになつちまつた。どうだ、皆さまは』
一同『イヤ、吾々も同じ事だ。合点の行かぬ事もあるものだ』
駒山彦『何でもこれは向ふに悪い奴が沢山居て、吾々を待ち討ちしようとして居るのに違ひないワ。そこで神様が吾々の足を縛つて、軽々しく進むでない。胸に手をあて、よく後前を考へて見よ、との暗示を与へられたのだらう』
 一行七人は途上に立つたまま、石地蔵のやうに固まつて仕舞つた。傍の老樹鬱蒼たる森林の中より、
『淤縢山津見、駒山彦、照彦』
と破鐘のやうな声が響いて来る。その声と共に三人の身体は、何物にか惹きつけらるるが如き心地して、思はず知らず声する方に向つて、自然に足が進み、遂に三人の姿は見えなくなりたり。
 後に珍山彦、松、竹、梅の四人は、何時の間にか足も自由になり、路傍の清き芝生の上に端坐して、
珍山彦『サア皆さま、繊弱き女の身で、まだ三五教の教理も知らずに、宣伝使となつて、悪魔の蔓る此の世の中を教導すると云ふ事は、一通りの苦労では行くものではない、さうして、斯うどやどやと七人も列んで宣伝に歩くと云ふことは、一寸見れば華々しく立派に見えるが、それは皆仇花だ。誠の道の宣伝は一人々々に限る。これから姉妹三人は、この珍山彦が及ばずながら実地の教訓を施して上げますから、今の間に吾々四人は、三人の宣伝使に離れてハラの港からアタルへ着き、それから常世の国に廻つて、実物教育を受け、黄泉島を宣伝致しませう。サアサアお出でなさいませ』
と先に立つて行く。三人は引かるるやうに珍山彦の後を追ふ。珍山彦は言しづかに、
『皆さま、淤縢山津見や駒山彦や照彦のことはすつかり忘れて仕舞ふのだ。人間は背水の陣を張つて、九死に一生の困難に遭はねば、真実の誠の道は開けるものではない。苦労の花の咲いたのは盛りが長い、これから吾々と共に概略仕事が出来たら、姉妹三人手分けして、ちりちりばらばらになつて神業に奉仕するのだ。仮令一人になつても神様が守つて下さるから、師匠や兄弟を力にしたり、杖につくやうな事では、到底神界の奉仕は完全に出来るものでない。サア行きませう』
とハラを指して進み行く。
 淤縢山津見ほか二人は、怪しき声に惹きつけられ、不知不識の間に谷川を遡つて、数里の山奥に迷ひ入る。
 折しも十五夜の月は東天に輝き渡れども、峨々たる高山と高山との深き谷間は、月影もささず、夜は追々と更け行くばかり、寂しさ刻々に迫り、三人は此処に云ひ合したる如く一度に腰を下し、谷川の傍に端坐しぬ。三人の身体は又もや強直して、びくとも出来なくなり、自由の利くは首のみ、鬱蒼とした樫の木の上から俄に
『ウヽ』
と大なる唸り声聞え来る。
淤縢山津見『ヤア二人の方、私は身体が一寸も動かない、貴方は如何ですか』
駒山彦『へヽヽ変だ。こんな変梃な事はないワ』
 照彦は雷のやうな声を出して、
『此方は月照彦の命であるぞよ』
駒山彦『何、月照彦だ。馬鹿言へ、そんな狂言をすな。貴様は三人の娘さまにつきてる彦だが、今は薩張離れてる彦ぢやないか。こんな闇い山奥へ踏み迷うて、馬鹿な真似をすると、駒山が承知をしないぞ。そんな気楽な事かい』
照彦『アハヽヽヽ、阿呆らしいワイ。三五教の宣伝使と豪さうに言つて、そこら辺を大きな声を張りあげて歩き廻る馬鹿宣伝使、どうぢや、一寸先は真の暗の、此谷底に捨てられて、アフンと致したか。顎が外れたか。あまり呆れてものが言はれぬ。開いた口がすぼまらぬぞよ。アハヽヽ憐れなものぢや、身魂の性来の現はれに魂を洗へよ、尻を洗へよ、足を洗へよ、明かな神の教はありながら、歩み方が違ひはせぬか』
『アヽ、此奴は悪魔の神懸りになりよつた。あられもない事を口走りよつて、ほんにほんに憐れな者だな。これこれ淤縢山さま、貴方もぢつとして居ずに、此場合あつぱれ審神をして照彦に憑依して居る悪魔を現はしてやつて下さいな』
『イヤ、吾々も、俄に足腰たたぬ不自由の身、あまりのことであふんと致して、荒膽をとられて了つた。アヽ耻づかしい事だワイ』
照彦『イヒヽヽヽ、可愍しいものだ。異国の果で威張つた報いで、いまはの際にいろいろと悔んだところで、如何ともする事は出来まい。かやうな処を数多の国人に見られたならば、宣伝使の威厳は全く地に墜ちるぞ。神が意見致さうと思つて、いろいろ雑多に苦労を致し、湯津石村の此谷底に誘ひ来りしは神の慈悲。宣伝使は只一人で天下を布教宣伝すべきものだ。それに何ぞや、物見遊山のやうに、ぞろぞろと幾人もつらつて宣伝に歩く屁古垂者、以後は必ず慎しめよ。神の言葉に違背するな。いいか、返答如何に』
駒山彦『いかにも、蛸にも、蟹にも、足は四人前、もういい加減に下つて下さい、お鎮まりを願ひます。天狗か何だか知らないが、こんな谷底へ放り込まれて意見も何も聞かれるものか、こら照彦の副守護神よ、何時までも愚図々々致して居ると、霊縛をかけてやらうか』
『ウフヽヽヽ、うしろを振り向いてよく考へて見よ。うろうろと此山奥に踏み迷ひ来りしは、全く汝の身魂の暗きがため、動きの取れぬ汝の体、うかうか致すと足許から火が燃えて来るぞよ。艮の金神の教を何と心得て居る。牛の糞のやうな身魂を致して、天下の宣伝使とは片腹痛い、有為転変は世の習ひ、牛の糞でも天下を取る、煎豆にも花が咲くと、万一の僥倖を夢みて迂路つき廻る宣伝使、後指を指されて居るのも気がつかず、得意になつて濁つた言霊の宣伝歌を歌ふ狼狽へもの、此上もなき迂濶、迂愚、迂散な奴ども』
駒山彦『うつかりしとると、どんな目に遭はされるか分つたものぢやない。これこれ淤縢山、俯いてばかり居らずに、貴方も天下の宣伝使ぢやないか、何とかして照彦の憑霊を縛つて下さいな』
『煩くても仕方がない。これも神様の試みだ。気を落ち付けて聞いて居れば大に得るところがある。私は却つてこれが嬉しい』
照彦『エヘヽヽヽヽ』
駒山彦『ヤア、又エヘヽヽヽだ。豪い事になつて来た。もう好い加減にお鎮まりを願ひませうか、遠慮会釈もなしに、吾々の小言ばかり言つて、得体の知れぬ神憑りぢやなあ』
照彦『エヘヽヽヽ閻魔様とは此方の事ぢやぞ、これから些と、豪い目に遭はしてやらう。遠近を股にかけて、遠慮会釈もなしに囀り居る駒山彦の宣伝使、一つや二つの山坂を越えて、えらいの、苦しいのと、耻も知らずに、よくもほざいたなあ、口ばかり偉さうに申す宣伝使』
駒山彦『エヘヽヽヽえぐい事ばかり言ふ得体の分らぬ副守護神だ。もう結構です、これで御遠慮申しませう。好加減にやめて下さい。縁起の悪い、此暗の晩に谷底に坐らせられて、怺まつたものぢやありやしない、馬鹿々々しい、照彦の奴、もう好加減に鎮まつたらどうぢや』
照彦『オホヽヽヽ、臆病者の二人の宣伝使。淤縢山津見、何をオドオドと恐れて居るのか。奥山の谷より深い、道を分け行く三五教の宣伝使、負うた子に教へられ、浅瀬を渡るおろか者の、狼心の鬼と悪魔の容物となつたお化の宣伝使。お気の毒でも、蠅毒でも、猫入らずでも、汝の心の鬼は容易に往生致さぬぞよ。恐るべきは人の心の持方一つ、往生際の悪い守護神は、神は綱を切つて仕舞はうか』
駒山彦『モヽヽヽおいて呉れ、大きな声で俺達を脅かしよつて、そんな事で怖ぢつく俺ぢやないワイ。をかしな声を出しよつて、人の欠点ばかりほじくる奴は、鬼か大蛇か狼の守護神だ。俺の神力を見せてやらうか、おつ魂消て尾を捲きよるな。俺が奥の手を出して見せたら、遉の鬼の守護神も尾をまいて落ちるだらう』
照彦『オホヽヽヽ面白い面白い』
(大正一一・二・一四 旧一・一八 加藤明子録)
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