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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第4篇 千山万水よみ(新仮名遣い)せんざんばんすい
文献名3第18章 初陣〔411〕よみ(新仮名遣い)ういじん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグテルの国(てるの国)、テルの港(てるの港) データ凡例 データ最終更新日2020-12-30 17:53:00
あらすじ
一方、珍山彦と三姉妹は智利の国の南方にあるハラの港に着いた。一行は船に乗り込んだ。船の名はアタル丸と言い、アタルの港(ヒルの国)に帰るところであった。

船中では、熊公と虎公が雑談話をしていた。虎公は自らの犯してきた悪を自慢していた。智利の港で、桃上彦は死んだ、と嘘の情報を話して三姉妹一行から金を詐取したのは、実はこの虎公であった。

珍山彦は虎公と熊公の会話を聞いて、松代姫に、二人の改心を促す宣伝を命じた。松代姫は船中に立って、しとやかに二人を諭す宣伝歌を歌い始めた。

松代姫はその宣伝歌に自分の身の上を読み込み、また人間は、神から身魂を与えられた神に等しき存在であり、直日に見直し聞きなおして心の玉を取り戻すように、と語りかけた。

船中の人々はこの声に耳を澄ませて静かに聞き入り、また感嘆している。虎公は以前の威勢のよさにも似ず、この歌に感じて大声をあげて泣き伏した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月14日(旧01月18日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版147頁 八幡書店版第2輯 327頁 修補版 校定版153頁 普及版61頁 初版 ページ備考
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本文  珍山彦は松、竹、梅の三人と共に、草の衾に石枕、数を重ねて漸々に智利の国の南方ハラの港に着きぬ。夜船は今に出帆せむとする間際なり。十三夜の月は、満天黒雲に包まれて光を隠し、一点の星影もなき真の闇なり。この船の名はアタル丸といひ、アタルの港より、ハラの港に数多の果物を積み、人を乗せ来り、今や国に帰らむとする時なりき。船頭は黒暗の中より、
『いま船が出ます、乗る人は早く乗りなさいー』
と、声を限りに呶鳴り立て、竹筒を口に当てなどして、ブーブーと吹き知らして居る。折からの南風に、船の帆は風を充分に孕んで、船脚早く進行し始めたり。
 珍山彦一行は船の一隅に乗つて居た。この時船中は誰彼の顔さへ碌に見えない程の暗さなり。船頭は燈台を目標に、
『智利の御国を船出して  夜なき秘露へ帰りゆく
 覆るためしも浪の上  風もあたるの港まで』
と節流暢に歌つてゐる。船中には、あちらこちらと雑談始まる。
熊公『オイ、虎公、貴様は何時やら筑紫の国から帰つて来る時に、三笠丸の船客から、ドツサリと酒代をボツタクツタでないか。貴様も悪い事にかけたら抜目のない奴だなア』
虎公『ここは人中だ、人中で恥を振撒きよるのか。コラ熊公、俺を何だと心得て居る、俺はこの高砂島に、誰知らぬ者もない鬼の虎さまだぞ』
『人中でも船中でも、夜の中でも腹の中でも構ふものか。貴様は却々の悪党だが、しかし其処まで悪党も徹底すれば、却て偉いワ』
『決つた事だい。弁天さまとも、竜宮の乙姫さまとも、例へ方ない立派な美人が、しかも三人。そこに美しい強さうな家来が一人随いて居つた。そこで亀公の野郎、業腹を煮やし自暴自棄になり、酒をチビチビ飲み出して種々な話の末、珍の国の桃上彦命さまが、巴留の国で殺された話をやりよつた。さうすると、その家来が一寸お尋ね申しますとお出でたのだ。そこでこの方が亀公の話を横奪りして「ヘイ、何でございます」とやつた処が、その男は何でも桃上彦命さまの家来の端くれと見えて、私は一寸仔細があつて、面会に参る者と言ふのだ。サア占めた、お出でたなア、と手ぐすね引いて待つて居ると、鰯網に鯨がかかつたやうに、虎さまの舌の先に乗つて、見たこともないやうな立派な金をガチヤガチヤゾロリと出しをつた。それで此奴却々持つて居るワイ、一遍に言つて了つたら物に成らぬ、またお代りをと云ふ調子で、いい加減に言つて居ると、お前の言ふ事は判りにくい、もちと確かりハツキリと言つて呉れと言ふのだ。そこでこの虎さまは、地獄の沙汰も金次第だとかましたところ、何にも知らぬ都人の青首が「うん、さうか、酒代が欲しいのか、うるさい奴だなア」と莞爾と笑つて、またドスンと重たい程呉れよつたのだ。あんなぼろい事は滅多にありやせぬ。誰か、またあんな話をやつて呉れないかなア』
『オイ、虎公、柳の下に何遍も鰌は居らぬよ。お前のやうな、欲の熊鷹には同情は出来ない』
 松、竹、梅の三人の娘は側にあつて、熊と虎との対話に耳を傾け聴いてゐる。
 珍山彦は小声で、
『松代姫様、妙な話をやつてますなア。蛙は口からとやら、現在あなた方の乗つて居らつしやるのも知らずに、自分の悪事を手柄さうに囀つて居る妙な奴もあるものだ。一つあの男を帰順させたら何うでせうか。悪に強い奴は、また善にも強いものですよ』
『さうでせうかなア。あんな人でも改心するでせうか』
『あなたも宣伝使の初陣だ。あの男を改心さす事が出来ぬやうでは、到底宣伝使は勤まりませぬなア』
『アヽ、一つそれではやつて見ませう』
 松代姫は立つて声しとやかに宣伝歌を歌ひ始むる。
『神の造りし神の国  神の御魂に生れませる
 神にひとしき人の身は  いかで心の曲るべき
 いかで心の曇るべき  心の空に月は照る
 心の海に天津日の  輝き渡る人の身は
 善きも悪しきも押しなべて  神の恵をうくるなり
 禍多き世の中に  父には離れ垂乳根の
 母にはこの世を先立たれ  憂ひに悩む雛鳥の
 心悲しき波の上  恵みも高き高砂の
 珍の御国に現れませる  恋しき父に会はむとて
 心も清き照彦の  従僕の司ともろともに
 花咲き匂ふはるの空  恋しき都を後にして
 歩みも馴れぬ山坂を  草の衾や石枕
 恵みの露に潤ひつ  心つくしの国を経て
 神の力によるの市  よるの港を船出して
 恋しき父をみかさ丸  波風荒き海原を
 渡るも淋しき手弱女の  心の中にたつ雲の
 黒白も判かぬ真の闇  闇より出でて闇に入る
 日数重ねてやうやうに  月日もてるの港まで
 来たる折しも何人か  恋しき父の物語
 桃上彦の垂乳根は  遠き御国へ出でますと
 聞きたる時の吾胸の  悲しさ辛さ如何ばかり
 量り知られぬ滝津瀬の  涙に咽ぶ折からに
 この世に鬼はなきものか  木の花姫のみかへるの
 神と現れます大蛇彦  その温かき言の葉に
 憂ひの雲も晴れ渡り  波を押分け昇る日の
 光る心の嬉しさよ  神が表に現はれて
 善と悪とを立別る  この世を造りし神直日
 心も広き大直日  ただ何事も人の世は
 直日に見直せ聞き直せ  身の過ちは宣り直せ
 吾身の仇は赦せかし  人を恕すは烏羽玉の
 闇に彷徨ふ身の罪を  祓ひ清むるものぞかしと
 教へ導く神の道  神と君とにあななひの
 道を教ふる麻柱教  教の船に乗せられて
 暗き闇世もてるの国  光り輝くひるの国
 朝日あたるの港まで  進み行くこそ楽しけれ
 あゝ虎公よ虎公よ  われは御教の宣伝使
 奪られた金は惜しくない  ただ惜しむべきものがある
 神に貰うた虎公の  清き身魂を枉津見の
 神に心を曇らされ  吾身を守る魂を
 奪られ給ひし事ぞかし  奪られた魂は是非なしと
 思ふことなく今よりは  霊の真柱立て直し
 下津磐根に千木高く  言霊柱建てかけて
 天津御神の賜ひてし  心の玉をとり返せ
 心の玉をとり返せ  返す返すも悲しきは
 魂を抜かれし虎公の  おん身の上ぞ行く末ぞ
 あゝ虎公よ、とら公よ  一日も早く片時も
 誠の道にのりなほせ  神の産みてし人の身は
 神にひとしき者ぞかし  神にひとしき者ぞかし
 神の身魂と現はれて  善しと悪しとを省みよ
 ただ今までの曲業を  直日に見直せ宣り直せ
 直日の神の分霊  わけて尊き神の子よ
 誉めよ称へよ神の恩  魂を洗へよ神の前
 暗を馳せ行くこの船よ  神の身魂の照り渡る
 てるの港を後にして  大御恵みも弥深き
 青海原を渡りつつ  よるなきひるの神の国
 あたるの港に進むごと  いと速かに速かに
 心の塵を払ふべし  心の玉を洗ふべし』
 船中の人々は、この声に耳を澄ませ、首を傾けて静かに聞き入る。暗き船の中にはこの歌を聞いて、何れも感歎する声頻りに起れり。虎公は以前の元気にも似ず、大声をあげて泣き叫び伏しぬ。アタル丸は燈台を目標に、暗を破りて荒浪を切りながら、チヨクチヨクと進み行く。
(大正一一・二・一四 旧一・一八 東尾吉雄録)
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