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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第4篇 千山万水よみ(新仮名遣い)せんざんばんすい
文献名3第19章 悔悟の涙〔412〕よみ(新仮名遣い)かいごのなみだ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-14 20:52:49
あらすじ
黒雲に包まれていた空は雲も晴れ、十三夜の月がアタル丸の船中を照らし出した。珍山彦は、熊公に向かって霊をかけた。すると熊公は神懸りになって口を切り、大蛇彦命と名乗った。

そして虎公に対して、これまでの悪の心を改めるよう諭し、改心を促した。説示が終わると、熊公の神懸りは元に戻った。

虎公は大蛇彦命の教訓に胸を打たれて断腸の念に苦しみ、煩悶した挙句、海に向かって身を投げてしまった。これを見た熊公は、虎公を助けようと続いて海に飛び込んだ。

先客は総立ちとなって二人の行方を探している。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月15日(旧01月19日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版156頁 八幡書店版第2輯 330頁 修補版 校定版162頁 普及版64頁 初版 ページ備考
OBC rm0919
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本文  今まで黒雲に包まれたる大空は、所々綻びを見せて天書(星)の光り瞬き始め、十三夜の月は漸く東天に姿を現はし給ひ、皎々たる光りに照されてアタル丸の船中は昼の如く、誰彼の顔も明瞭に見え来る。珍山彦は虎公の話相手なる熊公に向つて霊をかけたれば、熊公は忽ち身体震動して、ここに神憑状態となり口を切つて、
『此方は大蛇彦命である。いま虎公に申渡すべき事あれば、耳を澄まして確と聴け』
と雷の如くに呶鳴りつける。船客一同は熊公に向つて視線を集注し、如何なり行くならむと片唾を呑んで凝視つてゐる。
『悪の企みの現はれ時、何時までも悪は続かぬぞよ。動きのとれぬ汝の自白、閻魔の調べは目のあたり、大蛇彦が今言ひ聞かす、神の教をしつかり聴け。木に餅のなる様な、うまい事ばかり考へて苦労もせずに、他人の苦労の宝を奪ひ、誇り顔に述べ立てる怪しき卑しき汝が魂、心の鬼の囁きを吾と吾手に白状せしは天の許さぬ所、審神者の眼に睨まれて、その本人がこの船に居るともシヽヽヽ知らず知らずに口挙げ致した。悪は永うは続きはせぬぞ。速かに前非を悔い、澄み渡る大空の月の如くに心を洗へ。世界広しと雖も其方のやうな悪逆無道の痴漢は少ない。誰に依らぬ、皆心得たがよい。些の悪でも積み重ぬれば根底の国に行かねばならぬ。強さうな事を言つても、人間の分際として木の葉一枚自由にならぬ、障子一枚先の見えぬ人間、天地の神を畏れよ。虎公ばかりでないぞ、長い間に重ねた罪はわが身を亡ぼす剣の山だ。憎まれ子世に覇張る、西も東も弁へずに、吾さへよけりやよいと申して、人の目をぬすみ、宝を盗み取り、悪の身魂に狙はれて根底の国に連れ行かれ、喉から血を吐く憂き目に遇うて恥を曝し、果敢なき運命に陥るやうな僻事を改めよ。日に夜に行ひを改めて心の雲を科戸の風に吹き払へ。悪は一旦栄えても永うは続かぬ、滅の種子だ。この世に悪を為すほど下手な事はない。生きても死んでもこの世の中は神のまま、長い月日に短い生命、太う短う暮すが得だと日夜吐いた虎公のその吠え面は何のざま、誠の道を踏み外し、身欲に迷うて無理難題を人に吹きかけ、誠の人を誑かしむしり取つたるその金子は、大蛇となつて火焔を吐き、冥途へ送る火の車だ。大勢の中で面目玉を潰されてもがき苦しむのも自業自得だ。八十の曲津よ、僻み根性の虎公よ。夢にも知らぬ三人の娘の前で、偉さうに吾身の悪をべらべらと、ようも喋り居つたな。羅刹のやうな心を以て利欲の山に駆け登り、人を悩ます悪魔の容器、わが身の仇とは知らずして、欲に呆けて何のざま。いよいよ改心いたせばよし、改心いたして生れ赤子の心になり、今までのゑぐたらしい心を立替へよ。鬼も大蛇も追ひ出せよ。虎公、今が改心のよいしどきだ。天国に救はれるか、地獄に墜ちて無限の苦しみを嘗めるか、神になるか、悪魔になるか、二つに一つの境の場所だ。ヤア船中の人々よ。必ず虎公のこととのみ思はれな。めいめい罪の大小軽重こそあれ、九分までは皆悪魔の容器だ、罪の塊だ。大蛇彦命が一同に気をつけるぞよ。今は余が懸つてゐる熊公とても同じことだ』
と言葉終つて神憑りは元に復したり。
 虎公は船底に畏縮して涙に暮れながら、この教訓を胸に鎹打たるるが如く、呑剣断腸の念に苦しみ、身の置き処もなく煩悶の結果、月照り渡る海原に向つてザンブとばかり身を投げたり。船客一同は、アレヨアレヨと総立ちになり、
『誰か救けてやるものはないか』
と口々に叫び合ふにぞ、熊公は堪り兼ね、忽ち真裸体となり、又もや海中に飛沫を立ててザンブとばかり飛び込みぬ。船客は総立ちとなつて立上り、海面に目をさらしてゐる。船は容赦もなく風を孕んで北へ北へと進み行く。
 アヽこの二人の運命は如何なりしぞ、心許なき次第なり。
(大正一一・二・一五 旧一・一九 外山豊二録)
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