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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第4篇 千山万水よみ(新仮名遣い)せんざんばんすい
文献名3第20章 心の鏡〔413〕よみ(新仮名遣い)こころのかがみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-23 22:43:55
あらすじ
三姉妹は月に照らされて崇高な面持ちで船のへさきに立ち、海面に向かって拍手し、虎公と熊公の身の安全を琴平別大神に祈願する歌を歌い、また元の座に復した。

船客たちは、松代姫の宣伝歌や熊公の神懸りの宣示について、雑談にふけっている。自らの身の上を見直したり、虎公は神の教示に感じて海に飛び込んだところから、意外にも根は善人であった、などと話あっている。

また、智利のアリナの滝に現れた宣伝使・狭依彦の噂をなし、鏡の池の洗礼を受けに行こう、と神徳話にふけっている。

船客たちは海に飛び込んだ虎公・熊公の身の上についても心配をしているが、珍山彦はにこにこしながらその話を聞いているのみであった。

アタル丸がようやく港に安着すると、波止場には虎公・熊公が無事に立ってこの船を待ち迎えていた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月15日(旧01月19日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版160頁 八幡書店版第2輯 332頁 修補版 校定版166頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm0920
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本文  六月十三夜の皎々たる月光に照されて、三人の松、竹、梅の娘、顔の皮膚滑らかに潤ひのある眦、柳の眉、紅の頬、雪の肌、殊更目立ちて麗しく、三五の明月か、冬の夜の月を宿した積雪か、桃か桜か白梅か、丹頂の鶴の掃溜に下りて遊ぶが如き、得も言はれぬ崇高な面容である。三柱の女神は舷頭に立ち、海面に向つて拍手しながら声しとやかに歌ふ。
『神が表に現はれて  善と悪とを立て別ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 身の過ちは宣り直せ  この世を造りし皇神の
 厳の御息に生れたる  青人草は神々の
 鎮まりいます生宮ぞ  人の霊魂は初めより
 曇り穢れしものならず  清き尊き天地の
 御息を受けて神の子と  生れ出でにしものなれば
 いとも広けき御心に  万の罪を宣り直し
 助け給へや天津神  国津御神や百の神
 琴平別の大神よ  海より深き罪咎を
 赦して神の船に乗せ  花咲き匂ふ高砂の
 島根に救ひ給へかし  心の浪も治まりて
 罪を悔いたる虎公の  心の空は真寸鏡
 光りも清き月照彦の  神の心に見直して
 身魂を救へ照彦の  清き身魂に立て直し
 海に落ちたる熊、虎の  二人の御子を救ひませ
 二人の御子を救ひませ  三五教は現世の
 穢れを清め人草の  悩みを救ふ神の道
 鳥獣はまだ愚  虫族までも御恵みの
 教の露に霑ひて  天地四方の海原も
 清めて澄ます神心  大御心の幸はひに
 助け給はれ貴の御子  憂瀬に沈む人々の
 身体の穢れと村肝の  心の塵を吹き払ひ
 朝日も清くテルの国  夜なきヒルの国原に
 月日の光隅もなく  アタルの港へ救ひませ
 アタルの港へ救ひませ』
と歌ひ神言を奏上し、再びもとの座に帰りぬ。船中にはヒソビソと雑談がまた始まる。
甲『今の神懸りや歌の心を何と思ふか。実に恐ろしいやうな、有難いやうな、結構なことだのう。俺はモウあの神懸りの言葉を聞いて、一つ一つ身にこたへて、自分が叱られた様な気がしたよ』
乙『さうだな、俺らも同じ事だ。虎公とか言ふ悪人ばかりぢやない。胸に手を置いて考へて見ると、吾々の腹の中にも悪い奴が居つて、暗々裡に罪の方へ罪の方へと引張つて行かるる様な気がしてならぬワ』
丙『ヤ、誰しも蓋をあけたらチヨボチヨボだよ。虎公のやうに露骨に悪をやるか、やらぬかだけのものだ。善人らしい蚤一つ殺さぬやうな優しい顔した奴の中に却て悪い奴があるものだ。人間から悪人ぢや悪人ぢやと嫌はれる者に却て善人があつたり、聖人君子を気取つて、世の中の人に賢人ぢや、善人ぢやと持て囃される人間の中に却て悪人があるものだ。悪魔と言ふものは善人の身体を容器にして化けて悪い事をやるものだよ。之だけ悪の九分九厘まで栄えた世の中の人間に褒めらるる者はきつと悪人だ。彼奴は悪い奴だと世の中から攻撃される人間に真実の善人があるものだ。あの虎公と言ふ奴は随分名高い悪人だが、真実の彼奴の性来は善人だと見えて、悔悟の念に堪へ兼ね、大切の生命を捨てたぢやないか。人間は矢張り神の子だ、「鳥の将に死なむとするやその声悲し。人の将に死なむとするやその言良し」と言ふ。吾々も一時も早く心の雲を取り払つて、今夜の月の様な美しい心になつて世の中を渡りたいものだなア』
丁『然し、この頃は妙な事があるぢやないか、アリナの滝の水上に大きな巌窟があつて、そこには鏡の池とやら言ふ不思議な池が出来たと言ふ事だ。其処へ三五教の宣伝使狭依彦とか言ふ妙な面した男がやつて来て、数多の人間に洗礼を施してゐるさうなが、そこで洗礼を受けた者は、みな立派な人間になつて悪い事もせず、喧嘩もなし、盗人も這入らず、戸締りもせずとも夜は安楽に眠れるやうになつたと言ふ事だよ。吾々も一度洗礼を受けたいと思つて居るのだ。さうした処が今度、またヒルの国の玉川の滝に偉い宣伝使が現はれたと言ふ事だよ。その滝にも滝の傍に妙な洞穴があつて、神様がものを言つて何かの事を聞かして下さるさうだ。俺はそこへ一遍参らうと思つて来たのだが、お前らも何なら一緒に行かうではないか』
甲『さうか、そんな事があるのか。実は吾々は、その狭依彦と言ふ宣伝使に洗礼を受けたのだ。今までは随分大酒も飲み喧嘩もし、人を泣かした事も沢山あつたが、あの鏡の池の中から妙な神さまの声が聞えて、吾々の今までやつて来た事を素破抜かれた時の恐ろしさと言つたら、思ひ出しても身の毛がよだつやうだ。それから宣伝使の洗礼を受けて家内中睦じう暮し、村の人からも今は重宝がられる様になつたのも、全く神様の御蔭だよ』
乙『それは結構だが、あの虎公は如何なつたであらうか。今三人の綺麗な宣伝使がお祈りになつたから、神様は至仁至愛だから助けて下さるではあらうが、真実に可哀さうだなア』
丁『それは心配するには及ばぬよ、改心した者はきつと神様が助けて下さる。まあアタルの港へこの船が着く時分には、チヤンと竜神さまに助けられて波止場に「皆さま、お先に失礼しました」と言ふ様な調子で待つてゐるだらう』
丙『そんなうまい事があらうかなア。若しも二人が助かつて居る様な事だつたら、吾々は村中あの宣伝使の教に従つて仕舞はう』
 甲乙丙丁はヒソビソと、神徳の話を語つてゐる。珍山彦は無言のまま、四人の話をニコニコとして聞いて居た。
 アタル丸は漸うにして、翌日の五つ時にアタルの港へ安着した。波止場には虎公、熊公が立つてこの船を待ち迎へて居る。
(大正一一・二・一五 旧一・一九 北村隆光録)
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