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文献名1霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
文献名2第5篇 百花爛漫よみ(新仮名遣い)ひゃっからんまん
文献名3第29章 九人娘〔422〕よみ(新仮名遣い)くにんむすめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-23 23:29:10
あらすじ
春山彦が三人の宣伝使をかくまっていることが知れて、同僚の照山彦、竹山彦が家来を引き連れて、捕縛にやってきたのであった。

春山彦は、照山彦・竹山彦を待たせておいて、その間に妻の夏姫を呼び、自分の娘たち、秋月姫・深雪姫・橘姫を宣伝使の変わりに差し出そうと提案した。

夏姫はただ涙にくれていたが、そこへ娘たちはいつの間にか宣伝使の服をつけて両親の前に現れ、自ら身代わりになろうと決心の色を表した。

そこへ松・竹・梅の三姉妹の宣伝使が現れ、春山彦一家の心遣いに感謝しつつも、やはり自分たちが自ら縄につこうと、縛吏の待つ部屋に行こうとする。親子は宣伝使にすがって止めようとする。

照山彦、竹山彦は待ちきれずに春山彦を呼びたてて、宣伝使の引渡しを要求した。松・竹・梅の三姉妹はその場に現れて、自ら縄につき、引かれて行った。春山彦と夏姫はわっとその場に泣き伏した。

そこへ、春山彦の三人の娘と、今引かれて行ったはずの三姉妹の宣伝使が、何事かとやってきた。春山彦夫婦は自分の娘たちも三宣伝使も無事でいることに驚き、思案にくれている。

果たして、捕縛されて行った三姉妹の宣伝使は、何神の化身であろうか。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月16日(旧01月20日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月5日 愛善世界社版228頁 八幡書店版第2輯 356頁 修補版 校定版237頁 普及版96頁 初版 ページ備考
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本文  十六夜の初冬の月は、御空に皎々と輝いてゐる。
 春山彦の門前には、照山彦、竹山彦の二人が数多の家来を引き連れ、突棒、刺股、十手、弓矢を携へながら、門戸を押し破り進み来たり、大音声。
『春山彦は在宅か』
と呼ばはるにぞ、春山彦は静かに門の戸を押開き、
『これはこれは、何方かと思へば照山彦、竹山彦の御両所様、数多の供人を引き連れ、この真夜中に、よくもよくも御入来下さいました』
『オー、今日はよく来たのではない。照山彦は汝の為には悪く来たのだ。気の毒ながら今日の役目、申し渡す仔細がある、奥へ案内を致せ』
 春山彦は二人を導き一間に入る。竹山彦は数多の部下に向ひ、
『その方共はこの館を取り巻けよ。必ずともに油断を致すな』
と言ひ置いて正座になほるを春山彦は、
『貴方は鷹取別の神の御家来、この真夜中に何御用あつてお越しになりました。御用の次第を仰せ聞けられ下さいますれば有難う存じます』
 照山彦は威儀を正し、春山彦をグツと睨めつけ、
『吾々が今日参つたのは余の儀ではない。その方はこのはざまの国の目付役を致しながら君命に背き、三五教の宣伝使、松、竹、梅の三人を密かに隠匿ひ置くと聞く。この里人の密告によつて、確かな証拠が握つてある以上は、否応は言はれまい。ジタバタしてももう敵はぬ。百千万言の言ひ訳も、空吹く風と聞き流すこの照山彦だ』
 竹山彦は威儀儼然として、
『かうなつた以上は百年目だ、一時も早く三人の女をこの場へ引摺り出して渡さばよし、何の彼のと躊躇に及ばば、汝も諸共引き縛つて常世の国に連れ帰り、拷問を致してでも白状させる。サア春山彦、返答は何うだ』
『これはこれは、寝耳に水の鷹取別の御仰せ、モウかうなる上は是非に及ばぬ。可愛らしい天にも地にもかけ替へのない吾三人の娘……イヤ娘のやうに可愛がつて居る三人の宣伝使をこれへお渡し申す。それについても種々の仕度もござれば、半刻ばかりの御猶予をお願ひ致します』
照山彦『イヤ、その手は喰はぬ。ゴテゴテと暇取らせ、風を喰つてこの家を逃げ失せる汝の企み、屋敷の廻りには数百人の配下をつけて置いたれば、蚤の飛び出る隙もない。キリキリチヤツと渡したが為であらうぞよ』
『イヤ、照山彦殿、仰せの如くもはや遁走の憂ひもなければ、半刻ばかりの猶予を与へ、吾々はここに休息して待つことに致さう、竹山彦がお請合申す』
『しからば半刻の猶予を与ふる。その間に三人の宣伝使をこれへズラリと引き出せよ』
 春山彦は胸に鎹打たるる心地。
『承知いたしました』
と落つる涙をかくしつつ、この場を悠然として立去り、別殿に進み入る。妻の夏姫は様子如何にと案じ煩ふ折りしも、春山彦の常ならぬ顔を見て、
『思ひがけなき夜中のお使者、様子は如何でございますか』
 春山彦は吐息をつきながら、
『女房、汝に一生の願ひがある。聞いては呉れようまいかなア』
『これは又、あらたまつたお言葉、夫の言葉を女房として、どうして背きませう。何なりと叶ふ事ならば仰せ付け下さいませ』
『オー夏姫、よく言うて呉れた。夫婦の者が長の年月、蝶よ花よと育て上げた秋月姫、深雪姫、橘姫の三人の生命を与れよ』
『エヽ』
『返事がないは、否と申すのか。野山の猛き獣さへも、子を思はざるものがあらうか。焼野の雉子、夜の鶴、朝な夕なに、蝶よ花よと育て上げ、莟の花の開きかけたる、月雪花の三人の娘をば、宣伝使の身代りに立てたいばかりの夫が頼み、どうぞ得心して呉れ。わが三人の娘は世界の為には働きの出来ぬお嬢育ちに引き代へて、珍の都にまします正鹿山津見の神の御娘子は天下の宣伝使となつて衆生済度を遊ばす、その清き御志、思へば思へば、これがどうして鷹取別に渡されようか。今まで尽した親切が却つて仇となつたるか。あゝどうしたらこの場の苦しみを免れる事が出来ようぞ。サア夏姫返答を聞かして呉れよ』
 夏姫はさし伏向いて何の応答もなく涙を袖に拭ふのみ。
 この時一間を開けて現はれ出でたる三人の娘は、知らぬ間に宣伝使の服を着け、
『お父さま、お母さま、吾々姉妹三人は宣伝使の御用に立つて、常世の国に引かれて参ります。老少不定は世の習ひ、随分まめで暮して下さいませ』
と袖に涙をかくして、畳に手をつき頼み入る。
 春山彦夫婦は一目見るより吾子三人の決心に感じ入り、一度にワツと泣かむとせしが、待て暫し、聞えては一大事と、涙をかくす苦しさ。
 かかる処へ松竹梅の宣伝使現はれ来り、
『委細の様子は残らず聞きました。海山の御恩を蒙りて、まだその上に勿体なや、天にも地にもかけ替へのない可愛い三人の娘子を身代りに立てて、妾達を助けて遣らうとの思召は、何時の世にか忘れませう。あゝそのお心は千倍にも万倍にも受けまする。三人の娘子様、よくもそこまで思うて下さいました。併しながら吾々は、人を助ける宣伝使の役、卑怯未練にも敵を詐つて替へ玉を使ひ、三人の娘子を敵に渡すといふ事が、どうして忍ばれませうか。その御親切は有難うございますが、かへつて吾々の心を痛めます。大事の娘子を身代りに立てさして、吾々三人はどうしておめおめとこの世に生きて居られませうか。どうぞこればかりは思ひ止まつて下さいませ。わらは達は天晴れと名乗つて参ります』
と先に立つて松竹梅の三人は、照山彦の居間に行かむとするを、親子五人は宣伝使に縋りつき、春山彦はあわてて、
『マア待つて下さいませ。折角の娘が志、あなたは神様の為にこの世を救はねばならぬお役。その身代りに立つた娘は、まことに光栄の至り、喜んで身代りに立たしていただきます。どうか娘の志を叶へさして下さいませ』
と頼み入る。
 照山彦は大音声、
『アイヤ春山彦、時が迫つた。早く宣伝使をこの場へ連れ出せ。何をぐづぐづ致して居るか』
と呶鳴り声。
『ハイハイ、暫くお待ち下さいませ。今直に参ります』
竹山彦『何をぐづぐづ埒の明かぬこと。早く三人をこれへ出せ』
 春山彦は是非もなく、二人の前に立現はれ、
『只今これへ連れ参ります。よく御実検下さいませ』
竹山彦『オー、早く出せ。ここの家には秋月姫、深雪姫、橘姫の三人の娘があると云ふ事は聞いてゐる。その娘の顔をよく見知つたる竹山彦、身代りを出さうなどと量見違ひいたして、あとで吠面をかわくな』
 春山彦は進退これ谷まり、如何はせむと心の中に、
『野立彦命、野立姫命、木花姫命守らせ給へ』
と一生懸命に念じ入る。松竹梅の宣伝使はこの前に現はれ、
『オー照山彦、竹山彦の御使とやら、妾は三五教の宣伝使、昔はヱルサレムに於て時めき渡る天使長桃上彦命の娘と生れた、松代姫、竹野姫、梅ケ香姫の、今は天下の宣伝使、わが顔をよく検めて一時も早く連れ帰り、常世神王の前に手柄をいたされよ。ヤー、春山彦、汝の志、何時の世にかは忘れむ。妾三人は今捕はれて常世の国に到ると雖も、尊き神の御恵みにて、再び御目にかかることもあらむ。親子夫婦むつまじく達者に暮して下されませ』
 春山彦は涙を拭ひながら、
『これはこれは勿体なき宣伝使のお言葉、どうぞ御無事で帰つて下さいませ』
照山彦『エー、グヅグヅと、何をベソベソ、早くこの場を立ち去らぬか。竹山彦殿、よく調べられよ』
 竹山彦は三人の顔をトツクと眺め、
『オー、これは秋月姫でもない、深雪姫でもない、また橘姫でもない。擬ふ方なき松竹梅の宣伝使にきまつた。アイヤ、春山彦、今日までこの三人の宣伝使を隠匿うた罪は赦して遣はす。今後は気をつけて再びかやうな不都合な事はいたすでないぞよ』
と、三人の宣伝使を無理矢理に駕籠に乗せ、大勢の家来に兒がせながら、凱歌を奏して帰り行く。
 春山彦、夏姫は、ワツとばかりに声を張りあげ泣き伏す。この声に驚いて、月、雪、花の三人の娘と、松、竹、梅の宣伝使は、この場にあわただしく走せ来り、
『オー、父上、母上』
『春山彦どの、夏姫様』
と声かけられて夫婦は頭を上げ、ハツとばかりに二度吃驚、夢か現か幻か、合点ゆかぬと夫婦は顔を見合せ、思案に暮れゐたる。
 あゝ今引かれて行つた松竹梅の宣伝使は、何神の化身なるか、いぶかしき。
(大正一一・二・一六 旧一・二〇 東尾吉雄録)
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