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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第1篇 千軍万馬よみ(新仮名遣い)せんぐんばんば
文献名3第2章 天地暗澹〔432〕よみ(新仮名遣い)てんちあんたん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-07-15 17:21:13
あらすじ
照山彦、竹山彦は、常世神王(実は広国別が影武者となっている)に、松・竹・梅の三宣伝使捕縛を奏上した。常世神王は、さっそく三姉妹の宣伝使を連れてくるように命じた。

照山彦の部下・固虎彦が、三宣伝使を駕籠から出して連れ出した。蟹彦は竹野姫、梅ケ香姫も姉の松代姫に劣らず美しいのを見てまたしても泡を吹き、肝を奪われている。

同僚の赤熊はまたもや蟹彦のだらしなさを責め始めた。赤熊と蟹彦が互いを罵り合っていると、突然常世城は闇に閉ざされ、風が猛然と吹き始めた。

赤熊と蟹彦は目耳を押さえて大地に平伏し、ただただ災難が去るのを待つばかりであった。
主な人物 舞台常世城 口述日1922(大正11)年02月19日(旧01月23日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版19頁 八幡書店版第2輯 397頁 修補版 校定版22頁 普及版8頁 初版 ページ備考
OBC rm1002
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本文  常世の城は雲表に  御空を摩して遠近の
 樹の間を透しキラキラと  三葉葵の紋所
 黄金の色の三重の高殿  朝日に輝く天守閣
 見上ぐるばかり名も高き  三葉の青き大王松
 松、竹、梅の宣伝使  間の里より迎へ来て
 勝ち誇つたる照山彦  苔むす巌の幾百樹
 限り知られぬ築山の  広庭前に立ち現はれし
 照山彦は大音声にて、
『常世神王広国別、ア、イヤイヤ、大国彦神に申し上げます。吾等両人、大命を奉じ夜を日についで間の国の酋長、春山彦が館に罷り出で、三人の娘を召捕り帰り候へば、篤と御実検を願ひ奉る』
 続いて竹山彦も大音声、
『仰せに従ひ、漸う使命を果し立帰り申候。聞きしに勝る国色の誉、譬ふるにもの無き天下の美形、永く此城内に留め置かせられ、黄泉比良坂の桃の実として、陣中に遣はし給へば、如何なる英雄豪傑も、美人の一瞥に魂奪はれ魄散り、帰順致すは火を睹るよりも明かならむ。敵の糧を以て敵を制するは、是六韜三略の神算鬼謀、常世神王の御盛運は弥々益々六合に輝き渡り申さむ』
との注進に、常世神王は莞爾として、
『今日に始めぬ二人が活動感じ入る。何はともあれ三人の宣伝使を此場に誘ひ来るべし』
と厳命するを、照山彦は従神の固虎に向ひ、
『ヤアヤア固虎、松、竹、梅の宣伝使を之へ案内申せよ』
『承知仕りました』
と固虎は此場を立ち出で、三人の輿の前に現はれて、
『ヤアヤア、三人の娘、よつく聴け。吾こそは常世神王の御家来鷹取別の其家来、照山彦の片腕と選まれたる心も堅い、頭も固い、腕は鉄よりもまだ固い、固虎彦の命であるぞよ。かたがた以て容易ならぬ、ウラル教を敵と睨ふ頑固者の女宣伝使、畏くも間の国へ、女の身を以て三五教を宣伝に来るとは、誠に以て片腹痛い。鉄門を以て固く守られたる常世の城、如何にガタガタ慄うても、焦慮つても、藻掻いても、如何にも斯うにも仕方はなからう。もう斯うなる上は、常世神王の御言葉を固く守り、片意地を張つて頑固立て通す訳にはゆかぬ。サアー、サア、之から奥殿に連れ参る。この固虎が足跡を踏んで出で来れ』
と肩臂怒らしながら鼻息荒く、化石の如く固まり居る。
 三人の娘は何と詮方なく涙、袖に隠してニコニコと、花の唇淑かに、
『これはこれは固虎彦とやら、お使ひ大儀。何を言うても繊弱き女、城内の掟も固く存じませねば、何卒貴方様より宜敷く執成し方を、かたがた祈り参らする』
固虎『ヤア、此固虎がかたかた尽しで吐いて見たら、かたがた以て油断のならぬ痴れ者、此奴も阿呆と鋏ではないが、使ひ方によつては、常世神王の御片腕と成らうも知れぬ、罷り違へば獅子身中の虫、敵と成つてこの岩より堅い常世城を、ガタガタと傾けかねまじき魔性の女、何は兎もあれ吾役目、三人の娘を神王様の傍へに侍らせ、かたを付けねばならうまい。ヤアヤア方々、松、竹、梅の宣伝使を固く守つて、固虎が後より御供仕れ』
と肩臂怒らし傍への押戸を押し開けて、奥へ奥へと進み行く。姿は何時か消え失せて、何の様子も片便り、頼り渚の捨小舟、取り着く島もなき顔の、横さの道行く蟹彦は、拍子抜かして泡を吹き、
『ヤアヤア、もうさつぱりぢや、一寸輿を覗いて拝んだ時の松代姫の美しいその姿、その妹も妹も、何れ劣らぬ花紅葉、桃か桜か、梅の花か、実に立派な代物だつた。アヽ吾々もこの木枯のピユーピユー吹く寒空に、火の気もなしに門番を吩咐けられて、朝から晩まで出入の人を、ナンジヤ、かにぢやと言問ひ合せ、苦しい辛い日を送つて居たが、まるで暗の夜に月が出たやうに、三人の娘の顔を見た時は、自分の胸は世界晴れ、なんとも、かとも譬へ方ない、心の海に真如の日月が照り輝いた。ヤレヤレ、日頃辛い門番も、時には又こんな美しい姫神を拝む事が出来るかと思つた矢先に、ビツクリ腰を抜かしてヒツクリ返つた。ヤ、烏賊にも章魚にも蟹にも足は四人前だ。城を傾けると言ふ美人に会うて、俺も身体を傾けたワイ』
赤熊『オイオイ、蟹彦の奴、みつともないぞ。女に心を蕩かす奴が、如何して門番が勤まらうかい。心得たが宜からう』
『ナ、ナヽヽ何を吐しよるのだ、赤熊の野郎、閻魔が亡者の帳面を調べる様な七むつかしい顔をしよつて、人の前では偉さうに役人面をさらして居るが、夜分になつて女房に酌をさして酒を喰つて居たその時の顔を何度も見て居るが、見られた醜態ぢやないぞ。女は見ても穢らはしいと言ふ様なその面付は何だい。虚偽の生活を続けて、この自由自在の世の中を自ら苦め、自ら縛り、面白くもない生活を送るより、この蟹彦のやうに天真爛漫、少しの飾りもなく淡泊に身を持つたら如何だい。あまり堅くなると、第二の固虎と言はれるぞよ』
『猿に渋柿を打つ付けられてメシヤゲたやうな面付をしやがつて、腰を傾けたの、別嬪だのとは片腹痛いワイ』
 今まで晃々と輝き渡れる天津日は俄に真黒となり、六合暗澹として咫尺を弁ぜず、風は縦横無尽に百万の猛虎の哮え猛るが如き唸りを立てて、常世の城も、秋の木葉とコツパ微塵に散らさむばかりの光景とはなりぬ。赤熊、蟹彦は耳を抑へ目を閉ぢ、大地に平蜘蛛か蟹のやうになつて平伏し、天明風止の時を待つのみ。
(大正一一・二・一九 旧一・二三 北村隆光録)
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