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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第1篇 千軍万馬よみ(新仮名遣い)せんぐんばんば
文献名3第18章 常世馬場〔448〕よみ(新仮名遣い)とこよばんば
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-07-16 00:33:31
あらすじ
常世城では門番たちが、のんきに話しにふけっていた。そこへ、ロッキー山からやってきた逆国別が到着した。

門を開けさせた逆国別は、城の出入り口を兵士たちに見晴らせて、乗馬のまま中門を潜り進んで行く。
主な人物 舞台常世城 口述日1922(大正11)年02月23日(旧01月27日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版142頁 八幡書店版第2輯 442頁 修補版 校定版149頁 普及版67頁 初版 ページ備考
OBC rm1018
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本文  春日に照れる常世城、霞棚引く天守閣、ロッキー山とロッキー城、常世の城の三つ葵、日の出神の自在天、大国彦の疑ひ受けしとは露白旗の、ばたばた風に翻へる、様子も知らぬ門番は広き馬場の芝生の上に、身を横たへて雑談に耽り居る。高彦は、
『オイ倉彦、去年の冬だつたかねえ、松、竹、梅の天女のやうな宣伝使がやつて来て、常世神王さまが、ほくほくもので、終には逆上つて門番の縮尻つた奴を重役にしたり、一生懸命に働いた立派なお役人を門番に昇級さしたり、照彦といふ化物が出て来て荒れ廻す、月、雪、花と云ふ途方途轍もない別嬪がやつて来て、この広い常世の城は、日々百花爛漫たる弥生の陽気に満ちて、糸竹管絃の響きに、吾々も耳の穴の掃除をしたものだが、コロリ転変の世の中、城の中だと思うて居たら、神王さまを始め、吾々迄が、この馬場だつたね、夜露に曝されて馬鹿を見たことがある。狐の声が、彼方にも此方にもコンコン、クワイクワイ聞えると思へば、駕籠に乗つて来た照彦も、六人の娘も煙になつて消えてしまふなり、怪体な事があつたものだ。横歩きの上手な蟹彦奴が、豪さうに竹島彦と名乗つて、沢山の軍隊を引率して黄泉島へ出陣する、まるで世の中はクラリ転変だ。又あんな事があると、門番だつて馬鹿にならぬワ。待てば海路の風があると云ふ事だ。ロッキー山も常世城も皆出陣して仕舞つて、後に人物が払底と来て居るのだから、きつと選抜されて高彦が鷹取別におなり遊ばすかも知れないよ』
倉彦『貴様、日が永いので夢でも見て居るのか。高彦が鷹取別になつて、化物の火の玉に鼻を挫かれて、鼻ビシヤゲ彦となるも面白からう』
『何、鼻位べしやげたつて構ふものか、鷹取別は矢張り鷹取別ぢや。三軍の将として威風堂々四辺を払ひ、黄泉島に数多の軍を引率して出た美々しい姿は、この高彦の目から見ても実に羨望の至りだつたよ』
『欲の熊高彦、股裂けると云ふ事を知つて居るかい』
『めくらの、ぼんくらの、なまくら彦、何を吐しよるのだ。人の出世は運にあるのだ。俺の運が貴様に分るか』
『貴様のウンを知らぬものがあるかい。この間も雪隠に行くのが邪魔くさいと云ひよつて、橋の袂で行灯のかきたて坊子のやうな形をした、どえらい左巻を垂れたぢやないか。沢山の金蠅が出て来よつて、ブンブンと黒くなるほどたかつて居た。貴様は鷹取別ぢやないはへたかり彦の糞野郎だなア』
『困つた奴だなア。運と云ふ事はそんなものぢやないワイ』
『それなら何だ』
『運と云うたら、雲の上まで出世をする事だ。それにどんな望みでも、ここの大将の常世神王さまが諾と云つたら最後、あの横歩きの糞垂腰の蟹彦でも上役になつたぢやないか。どうだ分つたか、運の因縁が』
『あゝさうか、ウンと云へば出世が出来るのだな。それなら貴様を常世神王の上役、脇立にしてやらう、ウン、ウン、ウン』
『何だ、雪隠に這入つて跨げたやうな声を出しよつて、そんな運が何になるか』
 かく雑談に耽る折しも、数十騎の馬に跨り、此方に向つて勢よく進み来る者あり。
『イヨー、ロッキー城から又何だか上使がやつて来たぞ。かうしては居られない、早く這入つて門を閉めるのだ』
と二人は狼狽てて門の内に飛び込み、閂をがたりと入れ、
高彦『サア、運の開け口だ。この門開けといつたが最後、ウンと云うて開くのだよ』
倉彦『オイオイ、さう心易く開いちや価値がないぞ。蟹彦のやうに出世をしようと思へば、力一ぱい、頑張つて見るのだ』
 かかる所へ、逆国別は数多の部下を引き連れ門前に現はれ、
『ロッキー山の館の姫神伊諾冊大神、ロッキー城の御大将日の出神の御上使逆国別、常世神王に急用あり、一時も早くこの門を開け』
二人『ヤア、お出でたお出でた、いよいよ運の開け口、これだから辛い門番も辛抱せいと云ふのだ。犬も歩けば棒に当る』
と訳も知らずに喜んで居る。門外よりは声高く、
『ヤア、何故この門開けぬか、門番は眠つて居るのか』
高彦『オー、ロッキー山の上使とかや、大切なる役目を蒙るこの門番、昼の日中に眠る奴があつて耐らうか。何程立派な御上使でも、此門の開け閉ては、門番の権利だ。頭ごなしに呶鳴り立てな、駄目だぞ』
倉彦『オイ、もつとカスリ声を出さぬか。そんな間抜けた、竹筒を吹いたやうな声では、おちこぼれがないぞ。底抜け野郎』
 門外より、
『早く開けよ、時が迫つた』
と頻りに叩く。両人は、
『オイ、兎も角開けての上の御分別だ』
と閂を外し、左右にパツと表門を開く。逆国別は乗馬の侭門を潜り入り、
『ホー、皆の者、常世城の東西南北の鉄門を警護致せ。一人たりとも見のがしてはならぬぞ』
と云ひ捨て、ドシドシ中門に向つて進み入る。高、倉は後追つかけ、一生懸命に馬の尻尾に縋りつき、
高彦『モシモシ、逆国別さま、みだりに中門を潜る事は出来ませぬ』
逆国別『上使に向つて不都合千万、退れツ』
馬『ヒンヒン、ブウブウブウ』
倉彦『ヤア、馬鹿にしやがる、臭い屁を嗅がしよつて、日に三升のくづ豆喰ひ、十六文で二足の履穿きよつて、この倉彦さまに屁をくらはし、音高彦さまとは洒落てけつかる。モシモシ御上使、物を註文する時には前金が要りますぜ。あなたが中門を開けと仰有るなら、此方にも註文がある』
 かくする内、中門はサラリと開いた。逆国別は乗馬のまま中門を潜らむとする。高彦、倉彦は頓狂な声を出して、
『ヤア、この門みだりに入るべからず。下馬下乗だツ、下れツ』
と呶鳴りつけるを、逆国別は数人の家来と共に、委細かまはず奥へ奥へと進み入る。
高彦『たうとう我慢の強い、這入つて仕舞ひよつた』
倉彦『門番の権威もよい加減なものだなア。貴様の云ふ通り、倉彦が照山彦で、貴様が鷹取別になるかも知れないぞ。まア、そんな心配らしい顔をすな。ヨウヨウ、門を閉め置かないものだから、吾々に無断で駕籠が三つも這入つて来よる。また昨年の冬のやうに、松、竹、梅の化物かも知れないぞ』
『これが出世の導きだ。昨年もさうだつたらう。三人の女が来て、次に強い照彦がやつて来て暴れよつて、その後へまた三人の綺麗な女が這入つて来ただろう。その時の騒動のお蔭で、蟹彦の奴、今は立派な三軍の将となりよつたのだ。うまいうまい』
と云ひながら門をぴしやりと閉め、閂をおろし、
『サアサア、これから次の幕だ。また強い奴が破つて這入つて来るまで、開けてはならないぞ』
 この時何処ともなく、破鐘のやうな声がして、
『天狗の鼻高彦、心の目倉彦、今に運が開かぬぞよ。ウワハヽヽヽ』
 二人は思はず声する方に向つて仰天したり。
(大正一一・二・二三 旧一・二七 加藤明子録)
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