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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第3篇 邪神征服よみ(新仮名遣い)じゃしんせいふく
文献名3第36章 意想外〔466〕よみ(新仮名遣い)いそうがい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-07-16 02:24:49
あらすじ
酋長夫婦をはじめ村人たちは、石凝姥神らを喜んで迎えた。しかし時公が大法螺を吹きだして、蛇掴をやっつけたのは自分だと、手柄話を始めだした。そして、蛇掴は降参したが、最後に人間の食い納めに、酋長一家を食べにくるのだ、と出鱈目を言い始めた。

酋長一家と村人たちはわっと泣き出すが、時公が冗談だ、というと村人たちは怒って時公に詰め寄った。

石凝姥神は宣伝歌で、昨晩の様子を村人たちに伝えた。石凝姥神の宣伝歌を聴いて、酋長もやっと安心した。そして宣伝使に感謝の意を表すために祝宴を開いた。

酋長の鉄彦は、宣伝使に感謝の歌を歌い、三五教への帰依を誓った。この後、鉄彦は梅ケ香姫の従者となって、アーメニヤに進んで行くことになる。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月27日(旧02月01日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版279頁 八幡書店版第2輯 492頁 修補版 校定版286頁 普及版127頁 初版 ページ備考
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本文  アルタイ山の蛇掴  一度に開く梅ケ香姫の
 神の命の言霊に  吹き散らされて曲津見は
 御空も高く駆け上り  西南指してアーメニヤ
 雲を霞と逃げ去りし  後に二人の宣伝使
 胸ドキドキと時公の  供を引連れ帰り来る
 鉄谷村の鉄彦が  館の前になりければ
 今の今まで悄気返り  弱り入つたる時公は
 肩を怒らし肘を張り  俺の武勇は此通り
 鉄谷村の人々よ  昔取つたる杵柄の
 猪喰た犬の時野川  時世時節で是非もなく
 鉄彦さまの門番と  身を下しては居たけれど
 愈めぐる時津風  吹いて吹いて吹きまはし
 流石に強き蛇掴  片手に掴んでビシヤビシヤと
 岩に投付け引つ千切り  上と下との彼奴が顎
 右と左の手を掛けて  ウンと一声きばつたら
 鰻を断つたその如く  左右に別れてメリメリメリ
 時の天下に従へと  言ふ諺を知つてるか
 サアサア是から時さまが  時の天下ぢや殿様ぢや
 迚も敵はぬ鉄谷の  村の頭の鉄彦も
 俺に叶はぬ鉄姫よ  必ず是から此方に
 背いちやならぬぞ時野川  時の天下は俺がする
 時の代官日の奉行  時にとつての儲け物
 モウ是からはアルタイの  山の魔神の蛇掴
 此時さまのある限り  再び出て来る例ない
 ためしもあらぬ豪傑の  此腕前をよつく見よ
 御代は安らか平かに  時公さまが治め行く
 「ドツコイシヨウノドツコイシヨ」  「ウントコドツコイ、ドツコイシヨ」
 「ヨイトコヨイトコ、ヨイトコサ」  「ヨイトサノ、ヨーイトサ」
と手を振り、足を六方に踏みながら、饒舌り散らし、鉄彦が門口ガラリと開けて入り来る。
 村人は今日も酋長の館に詰めかけて、アルタイ山の様子如何にと待居たる折柄なれば、此法螺を聞いて半信半疑の念に駆られ、喜ぶ者、顔を顰める者、ポカンとする者など沢山に現はれたる。鉄彦夫婦は娘清姫と共に慌しく宣伝使の前に現はれ、
『ヤア、御苦労で御座いました。様子は如何で御座いませう。吾々始め一統の者、御身の上如何にと、首を長くし、顔色を変へて待つて居ました。はやく様子を聞かして下さいませ』
と三人一度に両手をついて頼み入つた。石凝姥はニツコと笑ひ、
『ヤア、先づ先づ御安心下さいませ、此通り梅ケ香姫も無事に帰つて参りました』
親子三人『ヤア、これは梅ケ香姫さま、結構で御座いましたナ。これと申すも貴女様の御親切が天地の神様に通じたので御座いませう。オー時公、お前は何だか偉う元気張つて唄つて居たなア。早く様子を聴かして呉れよ』
時公『只今の時公は、昨日迄の時公とは、ヘン一寸違ひますよ。其積りで聴いて貰ひませう。何時までも人間は金槌の川流れ、頭が上らぬといふ理屈はない。此時公の手柄話、よつく承はりなさい……オイオイ、時野川の言霊をよつく聞けよ。中々以て素適滅法界な……』
鉄彦『オイ時公、前置は好い加減にして、早く本当のことを言はぬか』
『ヤア、お気の毒な事が出来ました』
『エツ』
『折角三五教の宣伝使が清姫様のお身代りになつてやらうとの仁慈無限のお志、吾々始め一同の者は誠に以て感謝の至りに堪へませぬ。併しながら蛇掴の奴、岩窟の中からやつて来て、唐櫃の廻りをフンフンと嗅ぎまはり「ヤア此奴は香が違ふ、酸いぞ酸いぞ、酸いも甘いも知り抜いた此蛇掴に、身代りを立てて誤魔化さうとは不都合千万な鉄彦奴、モウ了簡ならぬ。是から此方が出張して、鉄彦親子は申すに及ばず、村中の奴を老若男女の区別なく片つ端から皆喰つて了ふ」と云つて、ドエライ声で呶鳴りよつた其勢の凄じさ。何とも彼とも云ふに云はれぬ、大抵の者なら皆腰を抜かして、到底この時公の様に帰つて来ることは出来ないのですが、そこは流石は時公だ。鬼をも掴んで喰ふやうな蛇掴の前に、何の怖るる色もなく悠然として現はれ給ひ「ヤイ、蛇掴とやら、其方に申渡す仔細がある。貴様は蛇の代りに結構な人間様を喰ふ奴だ。モウ是からは人間を喰ふ様な事を致すと了簡ならぬぞ」と拳骨を固めて、ポンと擲る積りぢやつたが、擲るのだけは止めておいた。「モウ人間を喰ふ事は罷りならぬ」と言つた処、蛇掴の奴四つの目を細くしよつて「ヘイヘイ時公さまの御威勢には恐れ入りました。モウ是が人間の喰ひをさめ、一人だけは許して下さい」と頼みやがる。そこで此方も「ヨシ分つた、割と融通のきく奴だ。サア此処へ清姫を伴れて来た、これを喰つて満足せよ」と云つた処、蛇掴の奴「此奴は酸い贋物だ、本当の清姫をよこせ」とほざきやがる。「ヤアそれも尤もだ」と云つて請合つて帰つて来たのだ。サア清姫さま、気の毒ながら今晩ぜひ御苦労にならねばなりませぬワイ』
『エヽ、それは大変な事ぢや。主人が門番に手を下げて頼むのだから、マ一度お前蛇掴に会つて談判をして来て呉れまいか』
『なかなか以て……抜かりのない時公は「オイ蛇掴、モウ人間の一つイヤ一人くらゐ喰つても喰はいでも、同じ事ぢやないか、モウ是で諦めて了へ」と千言万語を尽して云うて聞かした処「モウ是が喰ひをさめだから、是非喰はして貰ひたい。蛇掴の肉体は改心したから喰ひたくないが、腹の中の副守護神が喰ひたいと申すに依つて、女子の代りに時公を……ヤ違ふ違ふ……梅ケ香姫の代りに、清姫と鉄彦、鉄姫を邪魔臭いから一緒に喰はして呉れ」と云ひよつたのだ。ナア鉄彦さま、貴方は此村を守る御方、今迄は吾々が集つて働いて、酋長さまと敬つて養つて上げたのだから、今夜は其勘定をなさるのだ。たつた三人の命を棄てて此村は愚か、国中の者が助かると思へば安い生命だ、御苦労さま……』
 鉄彦、鉄姫、清姫は一度にワツと泣き伏す。時公は、
『ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ』
村の者『オイ時公、何が可笑しい。貴様不届きな奴だ。こんな悲しい時に可笑しいのか、貴様を村中集つてたかつて成敗してやらう。覚悟せい』
『ヤア、騒ぐな騒ぐな、皆嘘だ』
『嘘とは何だ、冗談も時に依る』
『ヤア時公が言つたのぢやない、副守護神が云つたのだよ。みんな嘘だ嘘だ』
石凝姥『アハヽヽヽヽ』
梅ケ香姫『ホヽヽヽヽ』
 石凝姥は声を張上げて、
『山路険しきアルタイの  岩窟の前に送られし
 梅ケ香姫の唐櫃を  巌の上に据ゑ置きて
 村人達は帰り行く  梅ケ香姫は唐櫃の
 中に潜みて宣伝歌  歌ふ其声中天に
 轟き渡り曲神は  幾百千の火となりて
 見まもり居たる折柄に  忽ち来る一つ火の
 玉は此場に現はれて  唐櫃の上を右左
 前や後に舞ひ狂ひ  声も涼しき梅ケ香姫の
 神の命の言霊に  恐れて逃げ行くアーメニヤ
 跡形もなき暗の空  吾は木蔭に身を忍び
 此光景を窺へば  臆病風に襲はれし
 胸もドキドキ時公が  腰を抜かして啜り泣く
 彼を伴ひ唐櫃の  前に致りて蔽蓋を
 開くや忽ち暗の夜を  透かして立てる白姿
 髪振り乱す梅ケ香姫の  神の姿に仰天し
 狼狽へ騒ぐ面白さ  吾は此場の可笑しさに
 魔神となつて声を変へ  嚇して見れば時公は
 訳も分らぬくどき言  女房が悔む助けてと
 ほざく男の涙声  腹を抱へる可笑しさを
 こらへて漸う今此処に  帰りて見れば時公は
 俄に肩で風を切り  大きな法螺を吹きかけて
 煙に巻いた減らず口  あゝ鉄彦よ鉄姫よ
 心も清き清姫よ  御心安く平けく
 思召されよ三五の  神の教に救はれし
 鉄谷村はまだ愚  四方の国々民草の
 憂ひはここに払はれぬ  歓び勇め諸人よ
 喜び祝へ神の恩』
 この歌に鉄彦始め一同はヤツト胸を撫で下し、三五教の神徳に感じ、かつ二人の宣伝使が義侠心を深く謝し、茲に村内集まつて賑々しく祝の酒宴開きたり。
 やがて鉄彦の座敷を開放して大祝宴が開かれ、鉄彦は立つて感謝の意を表するため歌をうたふ。
『此世を救ふ三五の  神の誠の宣伝使
 世人を救ふ赤心の  岩より堅き神司
 石凝姥や梅ケ香姫の  神の命のアルタイ山の
 峰より高く海よりも  深き恵に助けられ
 一人の娘清姫の  生命ばかりか国々の
 人の禍悉く  払ひ給ひし大御稜威
 汝が命は久方の  天の河原に棹して
 下り給ひし神ならめ  あゝ有難や有難や
 深き恵みに報いむと  心ばかりの此莚
 酒は甕瓶たかしりて  百の木の実は横山の
 如く御前に奉り  心の丈を今此処に
 受けさせ給へ宣伝使  果実の酒はさわさわに
 あかにの穂にときこし召せ  あゝ諸人よ諸人よ
 救ひの神は三五の  誠の道の二柱
 天と地とになぞらへて  日に夜に仕へ奉れ
 日に夜に崇め奉れ  あゝ尊しや神の恩
 あゝ尊しや君が恩  たとへ天地は変るとも
 栄え五六七の末迄も  娘を救ひ給ひたる
 此御恵は忘れまじ  さはさりながら、あゝわれは
 三年の前に清姫が  姉と生れし照姫を
 魔神の為に呪はれて  損はれたる悲しさよ
 三年の前に二柱  ここに現はれましまさば
 あゝ照姫も清姫の  如くに無事に救はれむ
 返す返すも恐ろしく  返す返すも悲しけれ
 石凝姥の神様よ  梅ケ香姫の神様よ
 かへらぬ事を繰返し  愚な親とおもほすな
 此世の中に何よりも  吾子に勝る宝なし
 あゝさりながらさりながら  それに勝りて尊きは
 神の教ぞ御道ぞ  あゝ是よりは三五の
 道の教を宝とし  四方の民草導かむ
 あゝ村人よ村人よ  神に斉しき宣伝使
 唯一言も洩らさずに  御教を聴けよ、いざ聞けよ
 聞いて忘れな何時迄も  聴いて行へ何処迄も
 心を治め魂研き  月日の如く明かに
 照して御神を讃めたたへ  誠の御神を讃めよかし
 祈れよ祈れ唯祈れ  此世を救ふ三五の
 神の御前によく祈れ』
と二人の宣伝使に向ひ、涙と共に感謝する。これより鉄彦は神恩に報ゆるため、梅ケ香姫の従者となつて、アーメニヤに進み行くこととなりける。
(大正一一・二・二七 旧二・一 松村真澄録)
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