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文献名1霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
文献名2第1篇 長駆進撃よみ(新仮名遣い)ちょうくしんげき
文献名3第4章 梅の花〔471〕よみ(新仮名遣い)うめのはな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-08-11 19:27:15
あらすじ
二人の横を千匹の狼が走り抜けていった。その物音に目を覚まし、東彦(本当は高彦)は次は大蛇が出てくるぞ、と時公をおどかした。

そこへ突然美しい女が現れ、梅ケ香姫だと名乗った。時公は大蛇が化けているのではないかと、えらい権幕で疑ってかかる。梅ケ香姫は時公をからかって、人間の肉が食いたい、と大蛇のふりをする。

時公は覚悟を決めて、東彦と一緒に大蛇に飲まれよう、と言うが、梅ケ香姫は冗談であることを明かす。そして、石凝姥宣伝使と、鉄彦も一緒にいると明かすと、二人は草の中から現れた。

一行五人は夜が明けるのを待って、クス野ケ原の大蛇を言向け和すことになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月28日(旧02月02日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月10日 愛善世界社版38頁 八幡書店版第2輯 527頁 修補版 校定版38頁 普及版15頁 初版 ページ備考
OBC rm1104
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本文  東彦、時公の二人は草疲れ果てて、前後も知らず暖かき夢を結ぶ折しも、前方より慌しき何者かの足音が聞え来た。二人は此物音に目を醒まし、折柄昇る半円の月に透かし見れば、巨大なる獅子の群幾百ともなく、二人の眠る横側を雲を霞と走り行くのであつた。時公は東彦の耳に口寄せ、
『モシモシ、宣伝使様、千疋獅子が通りましたデ、……知つてますか』
東彦『千疋獅子と云ふものがあるか、あれは千疋狼だ。お前がシヤツチもない宣伝歌を歌つて宣り直せと云ふに、宣り直さないものだから、神様が怒つて、獅子を遣はしてお前を探して御座るのだ。モウおつつけ此方へ引返して来る時分だ。早う宣伝歌を宣り直せ』
時公『そんな事云つて恐嚇たつて、この時さんは、時々この野で千疋獅子に会ふのだから、獅子喰た犬に其嚇しは利きませぬで……貴方宣り直しなさい』
東彦『イヤ、汝はねぶた目で獅子と間違つたのだ、あれは巨大な狼だよ。何でも大きな大蛇が現はれたので逃げて来たのだ。キツト此次は太い奴だ。用心せよ』
時公『太い奴つて、大蛇ですか』
東彦『さうだ、大蛇といふものは斯ういふ草原に隠れてるものだ。あまりお前が人間臭い事をいふものだから、大蛇の奴一つ呑んでやらうと思つて現はれたのだよ。併し乍ら此高彦さまが御座る間は大丈夫だ。マア安心せい』
時公『あなた、矢張化物だな。悪魔彦だとか云つて居つたと思へば又鷲は鷹だとか、鳶だとか、鳥とめもない事を言ふ人だ』
高彦『マアどうでもよい。今に長い太い奴がザーツと音を立ててお出ましだ。一つ宣伝歌でも聞かしてやらうかい』
時公『さうですなア。宣伝万歌(千変万化)の言霊の妙用を試すは此時です』
 斯かる所へ忽然として美しき女が現はれた。
女『ヤア、お前は時さまか。どうして斯んな所へ来やしやんしたのだい』
時公『ヤ、出やがつたなア。ヤイ大蛇、綺麗な別嬪に化けやがつて、俺を誤魔化さうと思つたつて誤魔化せないぞ。コラツ、俺を何と心得て居る。蛇を掴んで喰ふ蛇掴みの悪神でさへも、俺のフンと吹いた鼻息で、雲を霞と逃げ散るといふ様な、古今無双の豪傑だ。良い加減に姿を隠さんと、掴んで喰てやらうか』
高彦『アハヽヽヽ』
時公『コレコレ、高さん、何が可笑しい、千騎一騎だ。是から時さまの腕試しだ。チツト都合の良い宣伝歌を歌つて下さい。応援だ応援だ』
高彦『アハヽヽヽヽ』
女『ホヽヽヽ』
時公『フン、何を吐しやがる。此寒い時分にホヽヽなんて、呆けやがつて。鶯の真似をしたつて誰が其手に乗るかい。呆助奴が、とぼけやがるな。時さんは時を知つて居るのだ。ホヽヽと言うて出る奴は、梅の花の咲く時分だ』
女『わたしは梅ケ香姫で御座います』
時公『ナニツ、梅ケ香姫もあつたものかい。梅ケ香姫は、二日前に鉄谷村を三人連で出た筈だ。貴様一人こんな処においとく筈がない。貴様の正体は時さまがチヤーンと見届けてあるのだ。ソレ、太い奴の長い奴だらう。俺の天眼通は百発百中だ。恐れ入つたか、邪神奴が』
女『ホヽヽヽ、時さまのあの気張り様、わたしはお臍が茶を沸かします。ホヽヽヽ』
時公『エヽ、厭らしい。此野原に夜の夜中に出て来やがつて、魔性の姿をして、何をほざきやがるのだ。煙草の脂を飲ましてやろか』
高彦『アハヽヽヽ』
女『妾は時さまの天眼通力に恐れ入りました、お察しの通り、太い長い此クス野ケ原の主で御座います。妾は沢山の獅子を餌食に致して居ります。一口に牛の様な獅子を十疋くらゐ喰はねば、歯にも当らぬ様な気が致します。ホヽヽヽ』
時公『ヤア、厭らしい奴だ。コレコレ高彦さま、あなたも起ぬか。なんぼ死んで生れて、死んで生れると言つても、こんな奴に呑まれて死ぬのは、チツト残念だ。サア起て下さい、早う早う』
高彦『アハヽヽヽ、可笑しい奴だナ。モシモシ大蛇娘さま、お前さま、獅子ばつかり喰つて居つても、あんまり珍しくなからう。ここに一つ人肉の温かいのがあるが、是はどうだな』
女『ホヽヽヽヽ、それは何よりの好物、頂戴致しませう』
時公『オヽ、それがよい、それがよい。蛇の口から、高彦が喰て呉れと云つてる。此奴をグーと一つ呑んで、それで帳消しだ』
女『イエイエ、時さまが美味さうなお顔付、肉の具合といひ、コツクリと肌の黒い美味さうなお姿。ホヽヽヽヽ』
時公『エイ邪魔臭い、口開け、獅子の十も喰うて歯に当らぬ様な大きな口なら、俺もトンネルだと思つて喰はれてやらう。其代りに此杖を振つて振つて振り廻し、腹の中に這入つた時に腸を突いて突いて突き廻してやるから、さう思へ。サア、早う正体を現はさぬか』
女『わたしの口は火の様な熱があります。口へ入れたが最期、火の中へ薄氷を投り込んだ様なもの、時さまのお身体も、鉄棒もみんな熔けて了ひます』
時公『コイツ都合が悪いなア。オイ高さま、籤引だ。言ひ出し、放き出し、笑出しだ。屁でもない様な事を云ふものだから俺を喰ふなんて云ひやがるんだ。サア、一緒に附合だ。二人乍ら呑ましてやらうかい』
高彦『アハヽヽヽ』
女『モシモシ時さん、嘘ですよ。妾は蛇掴みの岩窟へ清姫さまの身代りになつて、貴方に担いで往て貰うた梅ケ香姫です』
時公『嘘の様な、本真の様な話だが、そんなら何故俺ん所の主人の鉄彦さまと、石凝姥の宣伝使をどうしたのだ』
女『二人共此処に居られます。アヽモシモシお二人様、此処へお越し下さいませ』
 草の中から二人の男の声
『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』
 今まで薄雲に包まれ、ドンヨリとして居た月光は皎々と輝き初めた。
高彦『ヤア、貴方は石凝姥の神様、珍しい処でお目に掛りました』
時公『ナーンだ。全然お紋狐に魅まれた様だ』
 是より五人は夜の明くるを待つて、クス野ケ原の大蛇を言向け和す事となつたのである。
(大正一一・二・二八 旧二・二 松村真澄録)
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