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文献名1霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
文献名2第2篇 意気揚々よみ(新仮名遣い)いきようよう
文献名3第8章 明志丸〔475〕よみ(新仮名遣い)あかしまる
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-08-11 19:39:51
あらすじ
六人の宣伝使は、それぞれ別れて宣伝に行くこととし、梅ケ香姫は明志の湖のほとりに一人たどり着いた。そして船に乗り込み船中の客となった。

船中には、さいぜんの捕り手・勝公が乗り込んでおり、ウラル彦の命で三五教の宣伝使を捕えようと画策をめぐらしていた。しかし勝公は新玉原の森での失態を、仲間の八公に責められている。

そのうちに、八公は船の隅に梅ケ香姫を見つけた。勝公は名誉挽回とばかりに、梅ケ香姫をなんとか捕えようとしきりに様子を伺っている。

梅ケ香姫は先にすっくと立ち上がり、新玉原での勝公や鴨公の失敗を宣伝歌に歌い始めた。怒った勝公が梅ケ香姫に殴りかかろうとすると、大力の男が勝公の襟首をぐっと掴んで持ち上げてしまった。

この様を見て、八公、鴨公は勝公を見捨てて、大力の男の方についてしまう。この大力の男は時公であった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月01日(旧02月03日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月10日 愛善世界社版77頁 八幡書店版第2輯 541頁 修補版 校定版77頁 普及版32頁 初版 ページ備考
OBC rm1108
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本文  山川どよみ国土揺り  曲神猛ぶ常暗の
 雲を晴して美しき  神代を建てて黄金の
 世界を造り固めむと  黄金山に現れませる
 三五教の宣伝使  東雲別や青雲の
 別の命はやうやうに  百の悩みを忍びつつ
 神の仕組もクス野原  男女六人の神司
 荒野ケ原にめぐり会ひ  西へ西へと北の森
 一夜の露を凌ぎつつ  神の教を畏みて
 道も明志の湖の  こなたの郷に各自に
 袖を別ちて進み行く  錦の木の葉散り果てて
 北風寒き冬の空  地は一面の銀世界
 行きつ倒れつ雪の路  春をも待たぬ梅ケ香の
 薫ゆかしき宣伝使  明志の湖の岸の辺に
 独りとぼとぼ着きにける。
 明志丸は数十の船客を乗せ、今や出帆せむとする時であつた。梅ケ香姫は急ぎ船中の客となつた。骨を裂く様な寒風はヒユーヒユーと笛を吹きて海面を掃き立てる。浪に揉まれて船の動揺は刻々に激しくなつて来た。大抵の船客は寒さと怖さに慄ひあがつて、船底に小さくなりてかぢりつく様にして居る。中に四五人の男は腰の飄の栓を抜いてソロソロ酒を飲み始めたり。
甲『空は何ンだか、ドンヨリとして日天様も碌に見えず、白い雲が一面に天井を張つて居る。地は見渡す限り真白けだ、青いものといつたら、此明志の湖と貴様の顔丈だ。一つ一杯グツとやつて元気をつけたらどうだい』
乙『イヤ俺は下戸で………貴様一人飲ンだら宜からう』
甲『オイ八公、貴様は飲ける口だから、お相手にして遣らう』
と杓を突出す。八公は杓を受取りて、瓢より注いでは飲み注いでは呑む。だんだんと酔が廻り、
八公『オイ勝公、貴様は何時にない悄気た顔しやがつて、チツト元気を出さぬかい。北の森で宣伝使に縛られやがつて、それからと云ふものは大変に顔色が悪いぞ』
勝公『喧しい云ふない。今作戦計画をやつて居る所だ。アーメニヤのウラル彦の神さまから、北の森へ宣伝使がやつて来るに違ないから、彼奴を縛つて連れて来いと云ふ命令を受けて毎日日日夜昼なしに張つて居つた処、大袈裟にも一度に六人もやつて来やがつたものだから、如何に強力な俺も、一寸面喰つたのだ。村の奴は何奴も此奴も腰抜計りでビクビクと震ひあがつて、みんな逃げて了ふなり、俺一人が何程固くなつて気張つたところで、どうにも斯うにも仕方がない、是からお断り旁村の奴の腑甲斐ない事を、ウラルの神に注進に行くのだ。オイ貴様等も弱虫の中だ』
八公『えらさうに言ふな、霊縛とかいふものをかけられやがつて、寒空に一日一夜も化石の様になつて、目ばつかりギヨロつかせて、見つともない涙をボロボロ垂して居たぢやないか、村の奴が居らぬと思つて偉さうに云つても、此処に証拠人が居るぞ、貴様が村の者の悪い事をウラル彦に言ふのなら勝手に言へ、俺は村中の総代で、斯うやつて四人が行くのだ。貴様の欠点を全部申上げるのだから、無事に帰れると思ふな』
勝公『馬鹿を云ふな、なにほど強力無双の勝ちやまでも、雑兵がガチガチ慄して居るやうな事でどうして戦闘が出来るか。オイ鴨公、貴様何だ、慌て一番先に宣伝使の前へ行きやがつて逃腰をした時の態つたら、本当に絵にもない様な姿だ。マア喧ましう言はずと厭でも応でも酒でも喰つて元気を附けて、ここで一つ和合をしたらどうだ。見直し聞直し詔直しだ』
八公『コラ勝公、貴様そンな事云ふとやられるぞ。知らぬ間に三五教に魂を取られやがつて、宣伝歌の様な事を吐くぢやないか。三五教と云ふ奴は、月が照るとか走るとか、雪が積むとか積まぬとか、海が覆るとか潮もない事をほざく教だ。伝染り易い奴だな、全然虱の子孫みた様な奴だ』
勝公『ナニ虱の子孫だ、馬鹿にするな、虱の本家本元は勝ちやまだ。一寸見い俺の頭を、一寸掴んでも一合位は養うてあるぞ。虱と云ふ奴は生れ故郷がないと云うて悔むと云ふ事だが、其生れ故郷と云ふのは勝ちやんの頭だ。何奴も此奴も虱をわかしやがつて、俺の頭にわいたと吐かさずに、うつつたうつつたと吐かすものだから、虱の奴生れ故郷がないと云つて泣きやがるのだ。虚偽の世の中と云ふのは是でも能く分る』
 鴨、小さい声で、
鴨公『オイ、今あの隅くらに蓑笠を着て乗つて居る奴、どうやら宣伝使らしいぞ』
八公『さうだ水を呉れと吐かす奴だ』
鴨公『水を呉れと云つたつて、こんな塩水は飲まれたものぢやない。米の水でも一杯飲ましてやつて、どうだ退屈ざましに踊らしたら面白からう』
 勝公は『ヨー』と言ひ乍ら、酔眼朦朧と女の方を見詰め、
勝公『ヤア占めた、ハア是で北の森の失敗も償へると云ふものだ。船の中だ、彼奴が上陸る時に我々が前後左右から、手を執り足を取り、後手にふん縛つて、アーメニヤへ連れて行く事にしようか。兎も角酒を呑まして酔はすが一等だ』
鴨公『そいつは駄目だぞ。三五教といふ奴は、酒は飲むな喰ふなと吐す奴だ』
八公『ソリヤ表面丈だ、酒喰はん奴が何処にあろかい、御神酒あがらぬ神はないと云つて神さまでさへも酒を飲まれるんだ。其神のお使が酒を嫌ひなんてぬかすのは、そりや偽善だ。彼奴の前で美味さうな香をさして、飲んで飲んで呑みさがしてやらう。さうすると、宣伝使が舌をチヨイチヨイ出しよつて唇を甜り出す、そこで、オイ姐さま一杯と突出すんだ』
鴨公『俺は下戸だから酒の様子は知らぬが、そんなものかいなア』
 女宣伝使はムツクと立つて、宣伝歌を歌ひ始めた。
『神が表に現はれて  常夜の暗を明志丸
 救ひの船に乗せられて  憂瀬に沈む民草を
 救はむ為の此首途  千尋の海の底よりも
 深き恵の神の恩  教へ導き北の森
 堅き巌に腰かけて  茲に六人の宣伝使
 息を休らふ折柄に  ウラルの神の間者
 二つの眼を光らせて  窺ひ来る可笑しさよ
 何れの方と眺むれば  心許りの勝さまや
 蛸の様なる八さまの  足もヒヨロヒヨロ鴨々と
 おどして見たら腰抜かし  かもて呉れなと減らず口
 高彦さんの鎮魂に  化石の様に固まつて
 一夜一日を立暮し  妾一同の後追うて
 三五教の宣伝使  取逃がしたる事由を
 明志の湖の荒浪に  揉まれて進む気の毒さ
 酒の機嫌にまぎらして  互に泡を吹く風に』
勝公『コラコラ何を吐しやがるのだ。女の癖に勝さまだの、蛸だの、鴨だのと、猪口才な三五教の教は善言美詞と吐して居るぢやないか、風引くも引かぬも抛つときやがれ、弱味に附込む風の神さまと云つたら俺の事だぞ。此間は六人も居やがつたので、見逃しておいたのだ。今日は幸ひ貴様一人だ、焚いて喰はうと、煮て喰はうと、引裂かうと俺の勝手だ。サア、モ一つほざいて見い、ほざいたが最後貴様の笠の台は鱶の餌食だ』
梅ケ香姫『ホヽヽヽヽ、勝さんとやら、末まで聞いて下さいな』
勝公『エツ、聞かぬ。此大勢の中で、勝さまが勝つたの負けたのと、恥を振舞ひやがつて男前が下がるワイ。斯うなれば意地だ、貴様に勝つたか負けたか、此処で一つ、此湖ぢやないが明志をして、俺のあかりを立てねばならぬのだ。どちらが善か悪か、明志暗しは今に分るのだ』
と言ひ乍ら、鉄拳を振上げて、梅ケ香姫に打つて掛らうとする。此時襟髪をグツト握つて二三尺ばかり猫をつまむだ様に提げた男がある。
男『アハヽヽヽ、サア勝か負か明志の湖だ。此手を離したが最後、勝は鰹の餌食だ』
勝公『マアマア、待て待て、待てと言つたら、待つたが宜からうぞ。一つよりない生命だ大切にせぬかい。俺でも神様の分霊だぞ。俺は貴様に殺されたつてビクともせぬ男だが、貴様が神のお宮の此方を損つたら、貴様に罰が当るから、殺すなら殺せ、地獄で仇討をしてやるから………』
男『減らず口を叩くない、一つ、貴様は酒を喰ひ酔つて大分に逆上て居るから、調和の取れる様に、水の中へ一遍ドブ漬茄子とやつてやらうかい』
勝公『マアマア待つて下さい、同じ天の下のおほみたからだ。四海同胞だ』
男『ここは魔海死海と言うて、ここは人の死ぬ海だ。此死海へ御註文通り死海ドボンとやつてやらう』
勝公『オイ八、鴨、何故愚図々々としてやがるのだ、此奴の足を攫へぬかい。此奴を死海ドボンだ』
鴨公『態ア見やがれ、強い方へ附くのが当世だ、貴様が強いと思うて、俺等は何時も、表向はヘイヘイハイハイ言うて居るものの、後向に舌を出してゐるのも知りやがらずに、よい気になつて村中で暴れ廻した其報いだ。天道さまは正直だ、貴様がドブンとやられたら、北の村は餅搗いて祝ふぞい』
勝公『人の難儀を見て、見殺しにするのか』
八公『見殺しも糞もあつたものかい、………もしもし、何処の何方か知りませぬが、さう何時までも提げては、お手が倦いでせうから、今の死海ドボンとやらをやつて下さい』
勝公『コラ貴様までが相槌打ちやがつて、友達甲斐のない奴だ』
男『アハヽヽヽ、弱い奴だ、そんなら一寸また後の慰みに見合しておかうかい』
勝公『あとは後、今は今、一寸先や暗の夜、暗の後には月が出る』
八公『月は月だが運のつきだ、俺も貴様に愛想がつきた』
 一人の男は勝公をソロリと船の中に下してやつた。
勝公『ヤ、有難う御座いました、お蔭で生命が助かりました』
男『ヤア、暫くお預けだ』
八公『まるで狆みたいに言はれてけつかる』
男『ヤア、これはこれは梅ケ香姫様、不思議な所でお目にかかりました。皆の方はどうなさいました』
梅ケ香姫『ヤ、あなたは時さまであつたか』
(大正一一・三・一 旧二・三 松村真澄録)
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