文献名1霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
文献名2第2篇 意気揚々よみ(新仮名遣い)いきようよう
文献名3第10章 立聞〔477〕よみ(新仮名遣い)たちぎき
著者出口王仁三郎
概要
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データ最終更新日----
あらすじ船を降りた一行は、寒風吹きすさぶ荒野を進んで行く。勝公は、この先に黒野ケ原というところがあり、そこには孔雀姫という美しい女の姿をした化け物がおり、人を捕えて食らうのだ、と話し出した。
その話を肴に、時公と勝公は馬鹿話をやっている。一行は孔雀姫の館を訪ねて、言向け和そうとやってきた。
梅ケ香姫が孔雀姫の館の門に耳を当てて中の様子を探っていると、ウラル教の宣伝歌を歌っているようである。時公、勝公、八公、鴨公は門外で馬鹿話を始めている。
主な人物
舞台
口述日1922(大正11)年03月01日(旧02月03日)
口述場所
筆録者藤津久子
校正日
校正場所
初版発行日1922(大正11)年9月10日
愛善世界社版95頁
八幡書店版第2輯 547頁
修補版
校定版95頁
普及版40頁
初版
ページ備考
OBC rm1110
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本文
梅ケ香姫は時公に送られて、寒風荒ぶ荒野ケ原を勇んで進み行く。勝公以下四五の連中もゴロゴロと後を追うて来る。傍の猪小屋を見つけ一同は此処に休息する事とはなりぬ。
勝公『酒の気もなくて何となくさむしくなつて来た。見渡す限り青い物と云つたら一つもなし、天も地も綿を敷きつめた様な真白な世の中だ、斯うして見ると天地の間に黒い物と云つたら、八公と鴨公の顔だけ位のものだ』
八公『お前の顔は白いからなア』
勝公『定つた事だい、まだ三五教の宣伝使は素人だもの白いのは当然だ』
鴨公『知らぬ者の半分も知らずに俄に白を切りやがつて、白々しい白鷺が孔雀の真似したつて遽に玉は出来はせぬぞ』
勝公『ヤア其孔雀で思ひ出したが、これから少し向ふに行くと、黒野ケ原といふ処がある。今は雪で何も彼も白野ケ原ぢやが、其処には孔雀姫といふド偉い化物が居つて、其処を通ると誰も彼も皆吸ひ込まれて了ふと云ふ評判だ。ウラル教の奴でも三五教の奴でも孔雀姫に一寸睨まれたが最後、皆誑されて一人も帰つて来る者がないと云ふ事だ』
時公『ヤアそれは本当か、孔雀姫といふからには、随分綺麗な女だらう。一体何を食ふのだ』
勝公『それや定つた事よ。人間を喰ふのだ。俺の様な黒い人間でも孔雀姫にかかつたら皆喰はれると云ふ事だ』
時公『そいつは面白い、綺麗な顔をしやがつて人間を喰ふなぞと鬼娘かも知れないよ。「其声で蜥蜴食ふかや時鳥」だ。世の中が斯う物騒になつて来ると、彼方にも此方にも金毛九尾の狐や八岐の大蛇がはばりやがつて、何処にも此処にもさういう鬼が現はれて来るもんだ。俺の様に、人でも取つて喰ひさうな怖い顔した奴には本当の悪はないもんだ。美しい顔した奴に人殺しをしたり人を欺いたりする奴が却て多い、約り悪魔は善の仮面をかぶつて世の中を乱すものだからな』
勝公『時さま、一ツ肝玉をおつ放出して、孔雀姫の正体を調べて見やうか。何が化けて居るのか知れやせぬぜ』
時公『お前は雪隠の端の猿食はずと云ふ柿の様な男だから、滅多に孔雀姫だつて味が悪いから食ふ気遣ひはないわ。猿食はずといふ柿は渋くて汚くて細かくて食へぬ奴だからな』
勝公『コレコレ時さま、宣り直しなさい』
時公『また琵琶の湖へ行つて、綺麗な船に乗り直さうかい、俺の様な味のある男は、一寸険難だ。ナア梅ケ香姫さま、あなたクス野ケ原で高彦さまを食つて下さいと云つたら、イヤイヤ時さんの方が男らしくて色がコツクリ黒くて肉がボテボテして甘さうだから、時さんを食べさして頂戴なんて仰有つた、本当に梅ケ香さんに食つて欲しいわ』
勝公『こんな所で惚けない。余り惚けるとソレ又大蛇の先生がノコノコとやつて来るぞ』
時公『大蛇姫でも明志丸でも何でも構はん、ノロリノロリと考へてゐる抜け目のない兄さまだ。貴様の様な野呂間とは、ちつとは違ふぞ』
勝公『野呂間とは何だ、宣り直せ。人をノロはば穴二つだ』
時公『二つも一つも穴があつて堪らうか、あな有難き三五教の宣伝使だ』
一同『アハヽヽヽヽ』
梅ケ香姫『皆さまは気楽な方ですねえ。貴方方と一緒に歩いて居ると、マルデ天国の旅行見たいだわ』
鴨公『さうでせう。私の様な抜け目のない、程の宜い、痒い処に手の届く男が加はつて居るのですから満雪途上黒一点だからねえ』
時公『アハヽヽヽ笑はしやがる。万緑叢中紅一点の梅ケ香様がござると思つて、此奴顔の皺を伸ばしやがつて、はしやいで居るな』
勝公『そんな雑談は一切りにして行かうかい。これから梅ケ香さまに幾層倍とも知れぬ美しい孔雀姫のお顔拝見だ。こんなくだらぬ話をしやべつて居ると、又ノロノロがやつて来るぞ。此世でさへも限換るとか、立替とかがあるさうだのに限りのない話を止めて愈膝栗毛の立替立直しだ。サア進め進め。何処も彼処も大雪で、ゆきつまりだ、詰りて詰らんのは俺の所計りではない。節季になると俺の処の様なつまらぬ家に詰つてるのは、掛取り計りだ。サアサア、駈け足駆け足。節季になつても払ふものがないから雪でも払つて行かうかい』
勝公は先に立つて道あけをする。梅ケ香姫の一行は雪道を踏みしめながら、転けつ輾びつ孔雀姫の隠家の前に近寄つた。
時公『オイ勝公、サアサアこれからが戦場だ。貴様先陣を承はつて先ず第一に孔雀姫に食はれるのだ』
勝公『ヤア俺は雪隠の端の猿食はず、俺の様な者が行つたつて孔雀姫は肘鉄砲だ。太鼓の様な印を捺した様なものだ。それよりも時さま、梅ケ香さまなら食つて欲しいと云つたでないか。孔雀姫に食はれるのも光栄だぜ』
時公『何が光栄だ。貴様の方が良く肥えてるわ、斯ういふ時には製糞器が調法だ。此頃は雪が降るので人通りが尠いから孔雀姫も飢ゑてかつかつとして待つて居る、誂へ向だ。其処へ勝公がやつて行けば、カツしては盗泉の水を飲むのだ。イヤ茲で一つ梅ケ香さまは除外例として四人が其犠牲者の選挙をやらうかい。当選した奴が犠牲になるのだ』
鴨公『一騎当千の勝さんに、行つて貰はう。人の選挙を頭痛に病んでも仕方がないからなあ』
かく無駄口を言ひながら、孔雀姫の館の前にピタリと行き着いた。梅ケ香姫は手真似で一同を制し、門の戸に耳を当てて中より洩れ来る微な声を聞き不審さうに首を傾けて居る。
勝公『モシモシ宣伝使さま、何を思案して御座る。何ぞ人の骨でも囓る音がいたしますかな』
梅ケ香姫『サア一寸合点がゆきませぬ、聞いた事のある様な声でウラル教の宣伝歌を歌つて居る様です』
勝公『ヤア夫れは妙だ。矢張りウラル彦の手下の曲神だな、ドレドレ勝さまが聞いて見ませう。梅ケ香さま一寸退いて下さい』
と云いながら門の節穴に耳を当てて、
勝公『アヽ聞えた聞えた、オイ、八公、鴨公、偉い事を云つて居るぞ。曲神といふ奴はエライものだ。何でも彼でもちやんと知つて居やがる』
鴨公『どんなことを云つて居るのだ。一寸聞かして呉れ』
勝公『聞かすも聞かさぬもあつたものかい。孔雀姫の奴が尖つた嘴をしやがつて、羽をパアと拡げて、カカカモヽヽ、カモコカモコ、イヤイヤ ヤツヤツ八公カモカ、八ツ下つて腰が空だ。カモト八とを一緒に食はうかククヽヽヽなんて、ほざいて居やがるのだ。タツタ今門がギーと開いたが最後、貴様二人は苦寂滅為楽、頓生菩提気の毒なりける次第なり』
鴨、八『アンアンアンアン、オンオンオンオン』
勝公『男らしくない、何を吠るのだ。見つともないぞ』
鴨公『天にも地にもたつた一つの御命、定めなき世と云ひながら今此処で命を取られると思へば之が泣かずに居られようか、泣いて明志の捨小舟取りつく島がないワイヤイ。アンアンアンアンアン』
八公『オーンオーンオーンオーンオーン』
勝公『アハヽヽヽヽ嘘だ嘘だ、鰹節が食ひたいと云つて居るのだ。鰹節は、即ち所謂、取りもなほさず、ヘン此勝さんだ。淡雪の様な肌でお月様の様な眉で緑の滴る様な目でオチヨボ口で此勝さまを食ひたいと仰有るんだい、イヤもう時節は待たねばならぬものだ。烏の嫁に孔雀姫だ、アハヽヽヽ』
鴨公『勝公の奴、人の胆玉をデングリ廻しやがつた。よう悪戯をする奴だ』
勝公『俺の言霊は偉いものだらう、悉く玉の宿換へをさす天下無比の言霊だよ』
時公『ドレ俺が一ツ聞いてやらう』
と又もや門口の節穴に耳を当てた。
時公『ヤアこいつは素的だ。鶯の様なハンナリとした涼しさうな、乱れ髪ではないが、云ふに云はれぬ、とくに解かれぬ門内の光景、成る程これでは此門前を通つた奴は、知らず識らずに酔はされて吸ひ付けられるのは当然だ』
(大正一一・三・一 旧二・三 藤津久子録)